勇者災害
法廷は1時間の休憩に入った。
私たちも、法廷同様に休憩を取る。
この法廷期間中は、
シフト制で年中無休の食事処以外は、
仕事をする必要はない。
慣れない私を気遣い、
師匠は、チョココロネとフルーツ牛乳を取ってきてくれた。
「そういえば、
ここで食ったの、チョココロネとフルーツ牛乳だけなのですが」
と私は言った。
「そりゃそうさ。人間たちに支給されるのはチョココロネとフルーツ牛乳だけだからな」
と師匠は笑った。
「えっそうなんですか?じゃあ神様たちは何を食べていらっしゃるのですか」
と私は尋ねた。
「その神様の出身地によっても違うけど、例えば日本なら米やモチ、鯛などだな」
と師匠は答えた。
「えっ良いじゃないですか」
と私は言った。
「それがな。そうでもないんだとよ。調理されていない生の米とか、焼いてもないモチとか、生のまま切ってもない鯛だぞ」
と師匠は答えた。
「えっでも。食事処があるんですよね」
と私は尋ねた。
「そうだよ。食事処があるんだが、作られるのはチョココロネとフルーツ牛乳だけなんだ。つまり人間の使用人のものだけなんだよ」
と師匠は呆れた顔をみせた。
なんかよくわからないが、神様には神様の事情があるのだろう。
「ところで、外界干渉ってなんでそんなに問題になっているんですか?」
と私は言った。
「あぁそれな。アトム、お前、勇者災害って聞いたことないか?」
と師匠は尋ねた。
「いえ、知りません。なんですか?勇者災害ってのは」
と私は言った。
「昔はな。神の国も外界干渉に寛容だったんだ」
と師匠は答えた。
「えっそうなんですか」
と私は言った。
「そう。でもあるきっかけで、寛容な態度に疑問を感じる神々が増えたんだ」
と師匠は答えた。
「あるきっかけとは?」
と私は言った。
「後の世に言われる勇者災害。正式名称:転生神に膨大な魔力量を与えられた転生者による世界征服事件だ」
と師匠は答えた。
その言葉に、なぜか私は鳥肌が立った。
「詳しく聞きたいです」
と私は言った。
「少し長くなるぞ」
と師匠は私の目をじっと見た。
「はい」
と私は答えた。
「俺はある地方にある造り酒屋の三男として生まれた。親父は厳格な人で」
と師匠は語りだした。
「ちょっと待ってください。それは師匠の生い立ちですよね。それなくても、支障がないのでは?」
と私は尋ねた。
「師匠だけに、支障がない。そういうことか?」
と師匠は笑った。
「いやいや。うまいこと言ったわけじゃないですよ。その勇者災害のところだけ教えてください」
と私は言った。
「あぁそうか。それなら話は十分の一くらいになる」
と師匠は答えた。
あやうく、私は師匠の生い立ちを九割聞かされるところだった。
「そっちだけお願いします」
と私は頭を下げた。
「わかった。ある転生神のところに、前世で社畜で過労死した男が転生してきたんだと。それで神様がふびんに思い、ステータスを自由に書き換えられるチート能力を与えた。ちょうど魔王がいたこともあって、魔王討伐に使えると思ったそうだ。転生したころは、性格も穏やかな良い子だったそうで。それから魔物討伐とかにいそしみ、どんどん世界は平和になっていった」
と師匠は言った。
「めっちゃ良い話じゃないですか。問題がなにかあるのですか?」
と私は尋ねた。
「問題はここからなんだ。勇者は魔王の討伐に成功する。そして世界に平和が訪れた。
しかしそれだけで済むと思うか?」
と師匠は尋ねた。
どういうことだ。
性格が穏やかな勇者
魔王の討伐に成功
何もおかしくないじゃないか。
「それでハッピーエンドなんでは?」
と私は尋ねた。
「そうじゃない。強すぎる力は恐怖の的になるんだよ」
と師匠は複雑な表情をした。
「どういうことですか?」
と私は尋ねた。
「勇者の強すぎる力を警戒した各国の王は、勇者に武力放棄と魔術の封印を求めた。これがそもそものきっかけだ」
と師匠は言った。
「それは、なんとなくわかりますが、求めただけで、なぜトラブルになるのですか?」
と私は尋ねた。
「それがだな。勇者と共に同行していた4人の女性たちを拉致し、それを人質に勇者を説得しようとしたんだが、その女性たちは勇者に危害が加わるのを恐れ、自害したんだ」
と師匠は唇を噛んだ。
勇者は仲間の女性たちの亡骸を前に、
ただ沈黙を守った。
しかし、
その日を境に、各国の王城から人が消えた。
残っていたのは、焼け焦げた肉の臭いと、
溶けた金属の塊だけだった。
私は頭の中が真っ白になった。
「それはヒドイ。あまりにも人間がヒドイ」
と私は言った。
「そうなんだよ。だから……」
と師匠は自分の足を叩いた。
師匠の中から、同じ人間への憤りのようなものを感じた。
私はどう思えばいいんだろう。
勇者としてチート能力を与えられ、
人類のために役立てようと努力をし、
目的も達成し、
その結末が、大事にしていた仲間の死とつながる。
その時の勇者の哀しみ。
そしてチート能力を与えてしまった神の苦悩。
私は想像することもできなかった。
恐ろしすぎる。
「その転生神は今なにをされているのですか」
と私は尋ねた。
「ほら。あの検察神タイホヤネーンだよ」
と師匠は顎をくいと画面のほうに動かした。
そこには大仏のマスクをかぶった男がいた。
そうか検察神には、そんな過去があったのか。
「だから、あんなに……」
と私は言葉を失った。
「そうさ。お前も同じような経験をすれば、厳しくなる。
あいつはな。
優しいから厳しいんだ」
と師匠は唇を噛んだ。
私はチョココロネを、細くなったほうから半分かじった。
(むにゅ)
チョコクリームが、ズボンの上に落ちる。
その瞬間。
画像に私の姿が、映し出される。
重い空気を吹き飛ばすように
突然、控室が笑い声に包まれた。
(ははっはっははっはっはははっはっははっはは)
隣で師匠も笑ってる。
なんだ。
なんなんだ。これは。
「なんなんですか。これは?」
と私はテンパっている。
「はっははは。これはな。チョココロネのクリームを落とした奴が、晒し者になるってシステムなんだよ。いやしかし、こんなに見事なやつは2年ぶりくらいだよ。良い腕してるよ」
と師匠は笑った。
チョココロネのクリームを落とした奴を晒し者にするシステム?
いったい神の国は、なにを重要視しているのか。
さっぱりわからなくなった。




