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ギターが恋人の男子高生には現実の恋人なんてできない(と思っていた)  作者: エルんぐ
第1章 嘘をつかない音

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第6話 音は前へ

あれから三日。


放課後の音楽室。


「もう一回サビ!」


「さっきやっただろ」


「甘い!」


健太郎は少しだけムッとする。

でも何も言わず、ピックを振り下ろす。


ギターが鳴る。

さくらの声が重なる。





ズレる。


「今の走った」


「走ってない!」


「走ってる」


「うるさい!」


睨み合い、数秒。


それでも次の瞬間、また音を出す。


三日間、毎日こうだ。


合わせて、崩れて、言い合って、また合わせる。


澪はいないがそれでも、あの言葉だけは残っている。


――出し切ってない。


健太郎は無意識にピッキングを強める。


さくらも負けじと声を張る。


少しずつ良くなっている。


でも。

ドラムがないと、何かが足りない。





そして翌日。


音楽室の扉が開く。


朝比奈澪。


「始める?」


短い一言に空気が、ぴんと張る。


「本気で叩くから」


「あなたたちも本気見せて」


その一言に静かに、火がつく。





澪がスティックを鳴らす。


カッ、カッ。


健太郎の指が弦に触れる。


一音。


軽く確かめるように鳴らす。


澪がスティックを構える。


カッ、カッ。


ドン、タッ。


始まる。


ギターが入る。


さくらが息を吸う。


声が乗る。


一小節。


二小節。


澪のキックが芯を作る。


その上にギターを置く。


さくらの声が真ん中を貫く。


三本の線が、少しずつ重なっていく。


ピッキングを強める。


音がちゃんと前に出る。


さくらも声を押し上げる。


サビ前。


視線を交わさなくても、タイミングが揃う。


ドンッ。


サビ。


音が一段跳ね上がる。




その瞬間。


廊下の向こうで足音が止まる。


「なにあれ」

「やばくない?」


背中に視線が刺さる。


音楽室のドアの向こう。


誰かが立ち止まっている。


空気が、少しだけ変わる。


健太郎の呼吸が、ほんのわずかに浅くなる。


ピッキングが一瞬、弱くなる。


音が、引く。


ほんの少し。


でも自分には分かる。


(……またか)


喉の奥がひりつく。


逃げたい。


小さく鳴らせば、目立たない。





そう思った瞬間――







ドンッ!!


腹に響くキック。


澪のビートが、強引に前へ出る。


さくらの声が突き抜ける。


逃げ道を塞ぐみたいに。


二人の音が、ぶつかってくる。




(なんでだよ)


なんで止めない。


視線の先。


澪は真っ直ぐ叩いている。


さくらは、こっちを見ずに歌っている。


でも分かる。


信じてくれている。


――引いたのは自分だ。

でも、まだここにいる。


ギターを握り直す。


指先に力を込める。


(引くな)




次のフレーズ。


思い切り、振り抜く。


ジャッ――!


荒い。


でも、強い。




澪のスネアが噛み合う。


さくらの声が乗る。


音が、噛みつく。


サビ終盤。


三人の音がぶつかり合って、火花みたいに散る。


廊下のざわめきが、自分の中から消える。


誰かがドアの前に立っている気配。


でも、もう見ない。


見るのは音だけ。


ラスト前。


一瞬のブレイク。


呼吸が重なる。


ドンッ!!


ラストフレーズ。


健太郎は踏み込む。


出し惜しみはしない。


指が痛い。

けど関係ない。


さくらが叫ぶ。


音が天井に跳ね返る。


最後のコード。


全力で、叩きつける。


ジャーーーン――――。



余韻が震える。


弦の振動が、指先に残る。


誰もすぐには動かない。


廊下の向こうも、静まり返っている。






「今の」


「悪くなかった」


健太郎の肩がわずかに下がる。


でも澪は続ける。


「でもさっき、引いた」


直球。


健太郎は頷く。


「……分かってる」


澪は小さく頷く。


「でも戻した」


胸の奥が、熱くなる。


「次は最初から出して」


健太郎はギターを握り直す。


弦の震えが、まだ残っている。


怖さは消えていない。


でも。


さっきより、前にいる。


「出す」


今度は迷わない。


さくらが笑う。


「よし」


澪がスティックを鳴らす。


「もう一回」


ドン、タッ。


音が、もう一度走り出す。


今度は。


最初から、前へ。

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