第5話 偶然のビート②
ドン、タッ。
澪がカウントを取る。
三人で初めての合わせ。
どうせ崩れる。
そう思っていた。
ギターが入る。
その瞬間。
(……え?)
音が揃っている。
走らない。
もたらない。
高校生でこれは、異常に上手い。
そしてさくらの声が乗る。
思ったより崩れない。
普通に、成立している。
澪の目がわずかに細くなる。
(なら――)
ビートを一段、重くする。
ライブ仕様。
誤魔化しの効かない圧で試す。
二人がどう出るか。
ギターが応える。
正確に、ついてくる。
さくらも声を上げる。
悪くない。
そのとき、ほんの一瞬、ギターの音が“引いた”。
踏み込めば、もっと出せる。
でも出さない。
出せない?
怖がってる?
澪は表情を変えないまま、そのまま最後まで叩き、曲が終わる。
静寂。
健太郎が息を整える。
さくらが澪を見る。
澪はスティックを回す。
「……粗い」
健太郎の眉がぴくっと動く。
「どこが」
少しムキになる。
澪は視線を逸らしたまま言う。
「全部」
さくらが一瞬悔しそうな顔をする。
でも澪は続ける。
「ギター」
健太郎を見る。
「上手い」
「でも、出し切ってない」
心臓が跳ねる。
澪は淡々と。
「踏み込めるのに、踏み込まない」
「…っ」
健太郎は言い返せない。
さくらが小さく言う。
「……怖いの?」
健太郎が睨む。
「違う」
即答するが、強くはない。
澪はさくらを見る。
「とても良い声」
短く。
「まだ荒いけど」
さくらの目が揺れる。
澪は立ち上がる。
「演奏、面白かったよ」
小さく。
でも確かにそう言った。
健太郎とさくらが同時に見る。
澪はバッグを肩にかけ、入り口へ歩き始める。
「次までに固めて」
「本気なら」
扉に手をかけたところで、澪が言った。
「まだまだ外には上手いプレイヤーなんて山ほどいる。実際に見てきているから」
澪は続けて、
「だからやるなら本気でやろう」
ほんのわずか、前向きに。
自分も一緒にという意思を含ませて。
澪が出て行き、静かになる。
さくらが健太郎を見る。
「どうするの」
健太郎はギターを見下ろす。
さっきの“引いた”瞬間が頭をよぎる。
分かっている。
踏み込めた。
でも、踏み込まなかった。
深呼吸。
「……やるよ」
小さい声。
でも確かに言葉にした。
その言葉にさくらが笑う。
音楽室の空気が、少しだけ変わる。
まだ未完成。
でも。
もう、戻れない。
やるしかない。




