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ギターが恋人の男子高生には現実の恋人なんてできない(と思っていた)  作者: エルんぐ
第1章 嘘をつかない音

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第3話 重なりはじめる

教室は、いつも通り騒がしかった。


「健太郎」


前の席の高橋が振り向く。


「昨日、音楽室いた?」


心臓が一瞬だけ跳ねる。


「なんで」


「なんかギター聴こえてたらしいぞ。めちゃくちゃ上手いやつ」


ざらっと胸の奥が擦れる。


「俺じゃない」


即答。


高橋はじっと見る。


去年の文化祭を一番近くで見ていたのは、こいつらだ。


「そっか」


それ以上は聞かない。


少し間を置いて、


「無理すんなよ」


軽い調子。でも、目は真面目。


「してない」


たぶん、半分嘘。





チャイムが鳴る。


斜め前の席で、さくらが振り向く。


目が合う。


ほんの一瞬、笑う。








放課後。


「行くでしょ?」


「……行く」


当たり前みたいに言われて、当たり前みたいに答える。




音楽室の扉を開ける。


静か。


健太郎はギターを取り出して、アンプに繋ぐ。


スイッチを入れる。


小さなノイズ。


ピックを握る。


一音目。


……いい。


指が軽い。


二音目。


三音目。


音が逃げない。


ちゃんと前に出る。


サビ前。


少しだけ力を込める。


最後のフレーズ。


前に押し出す。


弦を強く弾く。


音がまっすぐ伸びる。


「なにそれ」


「うわっ」


振り向くと、さくら。


「びっくりした」


「今の、ずるい」


「なにが」


「本気じゃん」


「最初から本気だし」


「嘘」


即答。


さくらが隣に立つ。


「もう一回」


「命令?」


「お願い」


健太郎は小さく息を吐いて、もう一度弾き始める。


さくらが歌う。


自然に重なる。


合わせようとしなくても、合う。


サビ。


最後のフレーズ。


さっきより、もう一段強く。


前へ。


さくらの声がその上を走る。


最後のコード。


余韻。


沈黙。




「ね」


「なに」


「文化祭より良かった」


手が止まる。


「それ言うな」


「なんで」


「……なんでも」


さくらは一歩近づく。


「今日、止まらなかった」


ぐっと言葉に詰まる。


止まらなかった。


確かに。


「これさ」


「ん?」


「誰かに聴かせたくない?」


来た。


「練習だろ」


反射的に出る。


「ほんとに?」


「ほんと」


でも、分かってる。


練習の音じゃなかった。


さくらは少し黙る。


それから、まっすぐ。


「逃げないでよ」


胸がざわつく。


「逃げてない」


「逃げてる」




間。




「一人じゃなくていいんだから」


言葉が、静かに刺さる。




そのとき。


廊下の向こうから声が聞こえる。


「さっきの音楽室のやつ、誰?」


「やばくなかった?」


足が止まる。


姿は見えない。


ただの会話。


でも。


音は届いていた。


見られてないのに、評価されてる。


心臓がうるさい。


さくらが小さく笑う。


「ほら」


健太郎は何も言えない。


世界は、もう外にある。


さくらが健太郎を見る。


真剣な目。


「バンド、やろうよ」


まっすぐ。


逃げ道なし。


文化祭の光が一瞬よぎる。


止まった指。


でも。


さっきの音も思い出す。


前に出た音。


止まらなかった音。


怖い。


けど。


嫌じゃない。


「……考える」


「前向きに?」


「そこまでは言ってない」


「半歩?」


「うるさい」


さくらが笑う。


「待ってる」


健太郎は視線を逸らす。


でも、足は止まらなかった。


音はもう重なっている。


あとは、自分がどうするかだけだ。

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