第11話 「Re:chord」
四人の音が重なる。
健太郎のギター。
澪のドラム。
悠のベース。
その上に、さくらの声。
音楽室の空気が、少しだけ震える。
Re:startのサビが響く。
悠のベースが、その下をなぞる。
低く、柔らかく。
音が前に進む。
最後のコード。
ジャーン。
余韻が、静かに消える。
誰もすぐには喋らない。
さくらがマイクを下ろす。
「……やっぱ四人だね」
健太郎がギターを肩にかけ直す。
「だな」
澪はスティックを軽く回す。
悠はベースのネックを撫でながら、小さく笑った。
「弾きやすい」
その一言に、さくらが笑う。
「でしょ?」
健太郎はアンプのボリュームを少し下げながら言う。
「悠が入るだけで、全然違うな」
悠は少しだけ肩をすくめる。
「ベースって、そういう役目だし」
澪がぽつりと呟く。
「下があると、安定する」
健太郎が頷く。
確かにそうだった。
三人の時は、音が軽かった。
悪くはないけど、、、
でも、どこか浮いていた。
今は違う。
悠のベースが入ると、音が地面に足をつける。
その上でギターが走る。
ドラムが押す。
歌が乗る。
ふと、さくらが椅子に座りながら言う。
「そういえばさ」
三人が視線を向ける。
「バンド名どうする?」
一瞬、沈黙。
健太郎が眉を上げる。
「もう?」
さくらは当然みたいに言う。
「だって四人いるじゃん」
澪が頷く。
「確かに」
悠も少し笑う。
「ないと呼びづらいかもね」
健太郎は腕を組む。
「うーん……」
さくらが言う。
「じゃあさ、なんか案出してよ」
「急に言われても」
「私はあるよ」
「絶対変なのだろ」
「サクラサウンズ」
「却下」
澪が小さく言う。
「長い」
「えー」
悠が少し考える。
「英語の方がバンドっぽいかもね」
健太郎
「例えば?」
悠
「んー……」
少し悩む。
「まだ思いつかない」
澪が言う。
「短い方がいい」
さくら
「センスあるの健太郎じゃない?」
「なんで俺」
「曲作ってるし」
健太郎は少しだけ黙る。
そしてぽつりと言う。
「……Re:start」
三人が見る。
「曲の名前」
さくらが頷く。
「うん」
健太郎は続ける。
「もう一回始めるって意味だろ」
悠が静かに聞いている。
健太郎はギターを軽く弾く。
ジャッ。
「コードってさ」
「音楽のコードでもあるけど」
少し間。
「繋がるって意味もある」
そして言った。
「Re:chord」
沈黙。
さくらが少し目を丸くする。
澪も止まる。
悠が、ゆっくり口を開いた。
「もう一回、コードを鳴らす」
少し笑う。
「いいじゃん、それ」
さくらがすぐ言う。
「それにしよ」
即決だった。
澪も頷く。
「いいと思う」
健太郎は少し照れたみたいに笑う。
「決まるの早いな」
さくら
「直感」
悠が言う。
「Re:chordか」
小さく頷く。
「いい名前だね」
健太郎はギターを見下ろす。
Re:chord。
頭の中で、言葉が転がる。
もう一度、コードを鳴らす。
その言葉で、ふと浮かんだ。
文化祭のステージ。
ライト。
視線。
止まった手。
あの日。
音は、途中で止まった。
ギターも。
自分も。
でも。
健太郎は顔を上げる。
今は違う。
目の前には、三人いる。
さくらがノートに何かを書いている。
澪はスティックをいじっている。
悠はベースを静かに拭いている。
その三人を見て、健太郎は小さく息を吐いた。
Re:chord。
悪くない。
いや。
むしろ、今の自分たちにはちょうどいい名前だった。




