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ギターが恋人の男子高生には現実の恋人なんてできない(と思っていた)  作者: エルんぐ
第1章 嘘をつかない音

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第9話 四つ目の音




「やっぱ軽いよね」





さくらがマイクを机に置きながら言った。


音楽室には、さっきまでの演奏の余韻がまだ残っている。


健太郎はギターを肩にかけたまま、少し考える。


「……それは思ってた」


低い弦を軽く弾く。


ボン。


音は鳴るが、すぐに消える。





さくらが腕を組んだ。


「なんかさ、下がスカスカっていうか」


健太郎がうなずく。


「ベースだな」


さくらが指を鳴らす。


「それ!」


健太郎は椅子にもたれた。


「でもさ、ベースなんてそんな簡単に――」


さくらが急に立ち上がる。


「探してくる」


「は?」


「ベース弾ける人」


当然みたいに言う。


「いるでしょ」


健太郎は半笑いになる。


「いや、そんな都合よく――」


さくらはもうドアの方に向かっていた。


「聞いてくる」


バタン。


ドアが閉まる。


健太郎は澪を見る。


「……行動早すぎだろ」


澪はスティックを指の中で転がす。


「さくらだから」


それだけ言う。


健太郎は苦笑する。


「まあ、見つかるとは思えないけどな」







それから、しばらくして。


音楽室のドアが開いた。


「連れてきた」


さくらが、当たり前みたいに言う。


後ろに男子が立っていた。


茶髪。


柔らかい雰囲気。


肩にはベースケース。


健太郎が少し眉を上げる。


「早くない?」


男子が軽くぺこっとしながら。


「橘悠です」


さくらが横から言う。


「ベース弾けるって」


健太郎が名乗る。


「あ、僕は澤村健太郎」


ドラムの後ろから声が飛ぶ。


「朝比奈澪」


悠が小さくうなずく。


「よろしくね」


健太郎が言いかける。


「じゃあ橘――」


悠が軽く首を振った。


「悠でいいよ」


一瞬だけ間が空く。


健太郎は少し考えてから言った。


「……じゃあ悠」


悠が少し笑う。


「うん」


「とりあえず弾いてみる?」


さくらが言う。


悠はうなずく。


ケースを床に置き、ベースを取り出す。


アンプにケーブルを繋ぐ。


軽く弦を弾く。


低い音が音楽室に落ちる。


ポン。


悠はチューニングを確認して、それからネックを軽く握る。


そして――


低音のフレーズが流れる。


健太郎の目が少し開く。


聞き覚えがある。


ギターのリフをなぞるライン。


でも、ただのコピーじゃない。


ドラムに噛み合う位置。


少しだけ前に出るリズム。


曲が前に進むような。


さくらが小さく声を漏らす。


「え」


澪の視線が上がる。


健太郎が思わず言う。





「……それ」


悠は弾きながら言う。


「昨日廊下で聞こえてたんだ」






ベースラインはそのまま続く。





Re:startのフレーズ。








フレーズが終わる。


音楽室が少し静かになる。


澪が言う。


「悪くない」


健太郎が笑う。


「……いいじゃん」


さくらが手を叩く。


「じゃあ合わせよ!」


悠が少し驚く。


「もう?」


健太郎がギターを構える。


「今が一番わかる」


澪がスティックを鳴らす。


カッ、カッ、カッ、カッ。


ギターが鳴る。


ドラムが入る。


そして――


ベース。


低音が曲の下を流れる。


その瞬間。


音が変わった。


今まで浮いていた音が、しっかりと繋がる。


ギターが走る。


ドラムが押す。


その上に、さくらの声。


『一瞬止まっても また鳴らせばいい』


四つの音。


Re:startが、初めてバンドになる。







最後のコードが鳴る。


余韻が伸びる。


誰もすぐには喋らない。


さくらが悠を見る。


「ねえ」


悠が視線を向ける。


「入る?」


少しだけ首をかしげる。


「バンド」


悠は少し考える。


それから、穏やかに笑った。


「うん、ぜひ」


澪がスティックを鳴らす。


カン。


健太郎が小さく言う。


「……これで四人目だな」

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