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現代に残る聖杯伝説について  作者: 乙黒


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11/11

調査

次の日のことだった。

何人かの生徒が学校に来ていないと、いうことが起こった。よくよく調べてみると男子生徒が多いらしい。その名前に見覚えがあったのは、僕が昨日神宮さんと案内した時にいた男子たちの名前だったからだろうか。

あのオレンジの霧に入ってから行方不明になったのだろうか、とふと思考が飛躍してしまった。


「ちょっと、詳しく調べてみようか」


 向日葵さんがそんなことを提案したので、僕たちは従った。

 数日駆けて調べると、驚きの真実が浮かび上がった。

 神宮さんまでも行方不明になっていたのである。

 その事実に、僕は特に驚いてしまった。きっと顔が青くなっているだろう、と思うのだ。


「うーん、事件的な何かも起きていないから、これだけ多くの人がいなくなっているのなら、警察も調べていると思うんだけど、今のところ何の手がかりもないんだよね」


 一応、この数日の間で僕にも警察の人が事情聴取に来たのだが、ありのままの事を説明した。

 あの日にあったそのままのことである。僕が遠回して帰ったことは他の生徒も見ていたらしく、特に神宮さんと別れた時の事を見ていた同級生が何人もいたようだ。だから容疑者にはならなかった。他の新聞部たちも、神宮さんの希望であの橋に案内した、と説明してくれたのもあったのも要因の一つだろうか。


「……僕としてはオレンジの霧が怪しいと思いますけど」


 神宮さん達はあの霧に入った後、いなくなったのだ。僕が知っていることはそれだけで、どうやら目撃情報を洗ってみてもあのオレンジの霧以降ないらしい。特に近所のコンビニとかに僕たちが聞いて回ったけど、見たという情報は知りえなかった。


「……私もそう睨んでいるよ。でもあれからオレンジの霧はあまり発生していないしねえ。あの辺りは市役所が近いから通路封鎖にはなっていないけど、どうやら少しでも手がかりが欲しいと霧があったところを警察が念入りに調べているみたいなんだ。何も出ていないみたいだけどね。行ってみる?」


 そんな向日葵さんの言葉に、僕も含めた何人かが頷いた。

だからその日の放課後に行けるメンバーだけで例の橋に向かう事になった。と言っても、僕、向日葵さん、それにもう一人の部員しか来られなかった。


 橋に着くと、どうやらオレンジの霧が発生しているようだった。

 状況はこのまえとあまり変わらないが、どうやら警察が何人かいた。交通整理などを行っているようだった。


「じゃあ、行こっか」


向日葵さんの声と共に、覚悟を決めて僕たちは霧の中に入った。

 一歩。二歩。三歩。

 何歩も歩いている内に僕は霧を出た。その時にはもう黒点橋も出ていたようで、地面の上に足があった事に僕は安堵する。近くには植木もあり、市役所もすぐ隣にある。通い慣れた道に出くわす。


空は黄昏のままだった。何の変わりもないいつもの空だ。だが、霧に入る前とは違い、空を分厚く黒い雲が覆っていた。それでも雲の向こうにある太陽の輝きは焦ることがなく、空全体が陽炎のようにオレンジ色に染まっている。

 嫌な、空だ。


「何もないですね――」


 そう言ったのは、僕の隣にいる四角い眼鏡が特徴的な男だった。同じ新聞部部員の一人で、伊集院貞宗いじゅういんさだむねという。主に新聞部員ではデザインや印刷をしているが、たまたま今日は暇だったのでついてきたようだ。


「確かにそうだね――」


 僕は頷いた。

 確かに周りには誰もいない。車も通っていなかった。先ほどまでいた警察もいないのだ。不思議だった。


「私もいるよ!」


 部長の向日葵さんもやはりいて、僕の背中を叩きながら天真爛漫な笑顔を向けていた。


「部長も無事なようでよかったです!」


 伊集院君は、向日葵さんが無事なことに喜んでいた。霧に入る前とはうってかわって、静かすぎる現状に違和感を覚えているようだった。


「ねえ、おかしくないかな?」


 向日葵さんははきょろきょろと辺りを見渡した。


「何がですか?」


 僕は聞き返す。


「こんな夕方に、それもここの交通量が多いことを二人は知っているでしょ? ううん。市役所が目の前にあるこの道が、こんな時間帯に車が一つもないどころか、〝不気味すぎるほど静か〟じゃないかな?」


確かに、向日葵さんの言うとおり、すぐ目の前にコンクリートの巨人である市役所がある近くからは物音一つ聞こえなかった。先程までけたたましく鳴っていた車のクラクションやエンジン音も無ければ、先ほどまで数多くいた警察の姿もない。彼らはどこに行ったのだろうかと、不思議に思ってしまう。


 だけど――


「何ですか、この……足音は?」


伊集院君は言った。


「何なの、この音?」


 向日葵さんも聞こえたみたいだ。。

もちろん、僕にもその音は聞こえている。

ひたひたと、まるで濡れた素足で歩いているような。誰かが川から上がって歩いているのだろうか。


「あれは――何?」


 僕は音がする方向を覗く。後方だ。これまで通っていただろう橋の下から聞こえた。

 確かにそこは川だった。だが、いつもの川とは違う。水は泥で濁っているはずなのに、空と同じような色をしていた。いや、川の流れている水はもっと赤く、死体から滴り出るような血のような。それが一部ではなく、川全体で流れている。それもいつもの穏やかな流れではなく、濁流で。


 そんな川から一人の〝モノ〟が這い上がってきたようだ。だが、その姿を僕たちは誰も見ていない。だが、這い上がってきたことが分かったのは、川から尾を引くように赤い跡を、その〝モノ〟が引きずっていたからだ。


「……あれは――!」


 その〝モノ〟がこちらを見てきた。

 それは赤かった。まるで体から服と皮膚を剥がされたように、赤い血管を剥き出しにして、全身から血を流している。その姿のままで、〝モノ〟は黒い眼差しをこちらへと向けると、にたあ、と嗤う。


 人では考えられない犬か狼のように大きな犬歯を見せながら、口から涎のような何かを垂れ流しこちらをじっと見ながらゆっくりと近づくように歩いてくる。

 さらにその〝モノ〟は――頭部に角が生えていた。シンプルで円錐形の角だ。だが、白く濁るそれは、骨のようであり、鹿か牛の角かと見間違うほどだ。だが、それが生えている生物は明らかに人形ヒトガタであるが人ではなく、川から出てすぐにこちらへとまっすぐに向かってくる。

 寒気がした。背筋に悪寒が走り、身の毛がよだつ。赤い水の跡を引きずりながらその生物は明らかにこちらを見ながら目指しているのだ。


「あああああああ!!」


「うわあああああ!!」


「きゃあああああ!!」


 僕たちはそのあまりにも恐ろしさに叫び声を挙げた。

 それと同時に川と反対方向に逃げて行く。全速力で。市役所の横を通り、信号も確認せずに横断歩道を渡る。不思議なことにこの世界には車が一台も走っていないのだ。脇目も振らず、僕たちはただひたすらに走った。

 息が切れて、肝臓が痛くなり、足も徐々に痛くなる。二人共一心不乱に走っているが、徐々に足が止まり、やがて立ち止まると、それに同調するように二人も走るのを止めた。


「これで撒けたのかな?」


ぜえはあ、と必死に肺へと酸素を送りこむように呼吸をした。膝に手をつき、顔を下に向けそうになるが、無理をしてでも目は逃げてきた方向へ向け、座ろうとは思わない。いざというときに逃げ切るためだ。


「そうみたいですね――」


 額から流れた汗が眼鏡についた伊集院君はそれを拭こうともせずに言った。


「二人共……まだまだだね。追いつかれたら困るし、もうちょっと逃げようよ!」


 既に肩で呼吸している僕たちとは違い、向日葵さんはまだまだ元気そうだ。確か前にソフトボール部に所属していた時の名残でよく走っていると聞いた。そのおかげか、今回も余裕なのかもしれない。

 僕としては、本心としては休憩したいが、あの角の生えた生物の笑みが恐ろしくて恐ろしくて、その意見に首を横に振ることは出来ず、重たい足を引きずりながら先を行く向日葵さんへと何とか付いて行く。


「そういえば、携帯電話は――」


 そんな時だった。ふと伊集院君は警察に電話をすることを考えついた。こんな異常な状態で、見たこともない生物に出会ったので、警察に保護を求めようと思ったのだろう。


「ここ、電波が届かないみたいだね……」


 僕も携帯電話を取り出すが、残念ながら電波が繋がっていないようで高価なスマートフォンもここでは役に立たないみたいだ。


「ねえ、私のスマホも通じないんだけど……おかしくない?」


 向日葵さんが不安そうに顔を歪ませた。

 そして僕たちは目を合わし、通い慣れたこの未知で携帯の電波が届かないということはあり得ないのだす。ここは都会ではないが、携帯電話の電波が届かないような田舎でもなく、町のどこにいても電波は入るはずだ。また、僕はこの道でスマホを触ったことは幾度となくあるが、その時も問題なくネットに繋ぐことができ、電話もすることが出来た。

 携帯が使えないという事実に、ここがいつもの世界と違うのではないかという嫌な予感を頭に過ぎらせながらもそのことを誰も口にはせずに、一刻も早くあの赤く恐ろしい存在から逃げるために足を運ぶ。

 そして、先程いた黒点橋と反対の方向に進んでいると、〝二つ目〟の橋に出会った。

 麻日川は独特な構造をしている。川が途中で二つに分かれており、それがまた合流して一つの麻日川へと戻るのだ。従って、この橋は黒点橋と対をなす白点橋と呼ばれており、構造自体は黒点橋と遜色ない。

 この白点橋を超えると、僕の家へと区域へと到着するのだ。

 僕たちは満を持して白点橋へと足を踏み入れた。

 だが――橋の中央まで進むと、先ほどと同様にオレンジ色の霧が包み込む。それは冷たく、肌寒い思いをする。そして幸いなことに、二人の気配を僕は隣に感じている。


「ねえ、この橋はこんなに――長かった?」


 そして感じたのは、紛れもない違和感だった。


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