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現代に残る聖杯伝説について  作者: 乙黒


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学校広報紙

新作始めました。

学校広報紙の見出しに、新聞部による成績優秀者へのインタビューが乗ってあった。それは六月に行われた中間テストについてである。

 この高等学校では上位十位以内の成績優秀者だけ、他の生徒に結果を知られることとなる。本来ならこの順位はあまり大きく変わることはないのだが、この時だけは普段は赤点ばかりのAさんが学年二位に躍り出たのである。

 その結果に、Aさんを知っている友人たちは驚いた。その話が新聞部にも入ってきたため、インタビューを申し込むと、Aさんは受け入れたのだ。

 インタビューは新聞部の女性部員によって行われた。それは放課後の夕暮れによってオレンジ色に染まった教室で、Aさんと新聞部の女性部員、それと記録係の男性部員によって行われたのだ。


 ――Aさんは普段は勉強をしているのですか?


「全くしてないでーす! 俺は野球部なんですよ! いつも部活で忙しいんです!」


 ――確か活躍しているんでしたね。


「そうですよ! 前回の大会では決勝で全国大会を逃がしたんです! 先輩たちに交じって俺は参加していたんだけど、やっぱり負けた時は悔しかったです! もうちょっと俺が打っていれば勝てたかもしれないのに。だから負けてからずっと練習していたんです!」


 ――そんなに練習しているのですか?


「朝は六時から学校での朝練が始まって、授業が始まるまで! 放課後になってからは夜の九時まで練習してます! それが終わって寮でご飯を吐くほど食べても、やっぱり眠る時まですることがないからバットを振るんですよ! 体的にはきついけど、やっぱり振れば振る程上手くなっている実感があるというか、振っていないと不安と言うか。だから触れるだけは振るんです! それから眠ってまた朝です! 大変なんですよ!」


 ――そんな中、勉強をしていたんですよね? 学校の授業中に頑張ったのですか?


「いえ、夜眠るのが遅くて起きるのが早いから、授業中はずっと寝ています! 疲れているですかね。どうにも眠たいのですよ。だから眠れる時には眠るようになったんです! だから学校の成績はいつも悪かったです! だって授業を聞いていないから当然ですよね!」


 ――確かにそうですね。でも、成績がよくなったんですよね?


「そうなんですよ! 今回のテストでは頭が冴えて、どれもすぐに解けたんです!」


 ――何かきっかけがあったんですか?


「あったんですよ! 寮へと変える時にね、アンケートを集めている人に出会ったんです!」


 アンケートですか?


「そうですよ! 白衣を着た男性で、眼鏡をかけていました! 一目だけ見たら怪しいと思ったんですが、どうやらそれを男も分かったのか、名刺をくれてね。×××というクリニックのお医者さんだったんです! ああ、これは信用できる人だな、と思ったんです! 俺はその病院に、整形外科だけど行ったことがあったから。その時に見たことあったような気がしたんです! まあ、覚えていないんですけど」


 だからアンケートをしたんですか?


「はい! しました! 普通のアンケートでしたよ! 匿名だから名前の記入は無くて、年齢や体重、それに持病や最近困っていることを書くんですよ。俺は成績が悪かったから、勉強の成績が悪くて困っています、って言ったんです!」


 それだけで終わったのですか?


「ええ、終わりましたよ。ただ、先生は俺のアンケートを見て、少し悲しそうな顔をしてから提案したんです! もしも、記憶力がよくなるとどうする? と言ったんです!」


 記憶力ですか。もしもよくなったら成績がよくなりますもんね。


「そうなんです! だからとても助かります! と言ったんです! 野球部は厳しくて、赤点が一つでもあったら部活に参加できないんです! 俺はいつも赤点を取るんですけど、希代のホープだからって特別に見逃されていたんですけど、最近は厳しくなって、次に5個以上の赤点を取ったら部活に参加できなくなるんです! そうなったら俺は、野球が出来なくなる。先輩たちの無念を晴らすためにも、どうしても野球を頑張らなくてはいけないんです!」


 ――だから記憶力のよくなる方法を聞いたんですか?


「俺は藁にもすがる思いで、記憶力がよくなりたい、と言ったんです! するとその先生は、明日もう一度同じ時間にここに来るから来て欲しい、と言ったんです。もしかしたら記憶力がよくなる液体があるかもしれない、と」


 ――怪しいですね。


「俺も最初はそう思いました! だから寮に帰って考えたんです! 本当にその液体を飲むのか、明日は先生と出会った場所に行くのか、もう無視して寮に帰るのか。俺はぐるぐると考えました。でもね、次の日に頑張って起きて授業を受けたけど、やっぱり分からなかったんです。そりゃあ、そうですよ。だって、俺はここまでの勉強をしていないから、だから急に勉強を始めたって、分かる筈がないんですよ。だから、先生のところに行ったんです」


 ――行ったのですね。


「はい! すると先生は既に待っていました。手に紙コップを持っていたんです。それともう一つ、こちらもコップでした。陶器かな。見たことのないものでした」


 ――そんなコップの中には何が入っていたんですか?


「赤い……液体だった、と思います。よく覚えていないんです。先生はその液体を紙コップに少しだけ注いで、あとは自分で陶器のコップのまま飲み干しました。ほら、毒はないだろう、と言ったのです。不安だったら新しいのを君の持つコップか手に移してもいい、と僕の不安を払しょくするようなことを言ったんです。僕も最初は先生が毒を入れていると思ったから、でも先生が飲んで、無害なのだと思いました」


 ――飲んだんですか?


「飲みましたよ! おいしかったです! 味の感想は出来ませんけど。飲んだことのないような味でした!」


 ――それで成績がよくなったのですか?



「ええ。よくなりました! どうしてか分からないんですけど、あの赤い液体を飲んでから澄んだように頭に知識が溢れるのです。教科書を読んだら一発で覚えて、数学はその場で既存の公式を思いつきました! 本当に俺の頭は冴えたんですよ」


 ――それは凄いですね。だから、学年でもいい成績を収めたと?」


「そうだと思います! あの液体を飲んでから、“僕”は変わったんです! 優等生になったんです!」


 ――その液体を飲んで何か困ったことは……?


「あるとすれば、もうそのお医者さんと会えていない事ですね。本当にそれは美味しくて、頭がよくなるならもう一度飲んでもっと頭がよくなりたいんです! もしかしたら、野球も上手くなるかもしれません!」


 ――そのお医者さんを探したりしないのですか?


「そろそろ探すつもりです! いいですか? あのお医者さんを見つけてお礼を言いたいんです! そろそろ終わっても……」


 ――いいですよ。この度はインタビューにお付き合い頂きありがとうござました。


 なお、この後足早にAさんは走り去っていった。その後、もう一度Aさんにインタビューを、と思ったが、どうやらこの日以来寮には帰っていないのです。

 私たちは今もAさんの行方を捜しています。

 Aさんが言っていた医者を探そうとも思いましたが、そんな病院はこの近くにはありませんでした。

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