第3話 初めての散財強化
その後も俺たちは足を止めず、群れからはぐれたゴブリンを見つけては四人で囲み、ひとり1匹ずつ計4匹を仕留めた。
とにかく連携。個々は弱くても、合わせれば何とかなる。
とはいえ、剣を振るたび手は痺れ、盾で受けても腕が痺れて今度は膝が笑う。
ドンに肩を貸してもらいながら、俺たちはどうにか街へ戻った。
今から筋肉痛が怖い……
ギルドの扉を押すと、夕暮れにも関わらずまたあの喧騒が出迎えてくれた。
冒険者たちは今日のクエストの報告をしたり、ドロップアイテムを見せ合ったりと大忙しだ。
俺たちも、ゴブリンの角を一人一個手に入れることが出来た。
コレクションとして取っておく冒険者もいるみたいだが、今の俺にそんな金銭的余裕はない。
後で買い取ってもらわないとな。
受付前の列に加わると、あの淡金の髪の受付嬢がにこやかに手を上げた。
「おかえりなさい。ツァドリゼ平原のゴブリン討伐、確認しますね」
(自称)リーダーのメイが代表して報告を行う。
戦利品を提出し、簡単な報告を済ませると、チリンとベルが鳴った。
「はい、クエスト達成です! おめでとうございます。クエスト報酬はおひとり銀貨1枚。ドロップアイテムは安値になりますが、ギルドで買い取り可能です」
「是非、お願いします! 他のみんなも買い取ってもらうよね?」
メイの言葉に、俺たちは頷く。
そして受付台の上には、4本のゴブリンの角が並んだ。
「これでお願いします!」
「承りました。角1本は銅貨1枚になります」
こうして受け取った銀貨1枚と銅貨1枚。
前世みたいに口座の数字が増えるのも嫌いじゃないが、こうして現金支給されると、なんだか稼いだ金の重みを感じるな。
……ところで、銀貨ってどのくらいの価値なんだ?
さっき聞いた話によると、この国──アクゼニスの通貨は六種類。
鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、皇金貨。
それぞれ10枚で一個上の価値。
鉄貨10枚=銅貨1枚、銅貨10枚=銀貨1枚──覚えやすい。
そして六種類あるとは言っても、白金貨以上は庶民は持っていないことが殆どらしく、貴族のような上流階級が高額な取引に用いるのみらしい。
ともあれ、今日の宿を確保しないと話にならない。
俺は三人と別れると、安価そうな宿を探して通りを歩く。
大通りはいたって普通だが、ひとつ路地に入ると奥からは誰かが揉める声が聞こえてくる。
……治安は悪そうだな。
と、少し開けた角地に木の看板がかかっていた。
──”アヤネさんの宿屋”。
手描きの花模様に、妙に愛嬌のある字体で”夕食付き!”と書かれている。
……うん、安そうだ。
これなら手持ちでも泊まれるだろう。
入り口の扉を押すと、金属のベルがからんと鳴った。
「いらっしゃーい、おっ、今日は冒険者サマが二人も!」
庶民派な内装にひとまず一安心。
店内は木のぬくもりが強く、カウンターの向こうで──看板娘だろうか、が明るく笑っていた。
「クロノじゃないか。君もここに決めたのかい?」
振り向くと、入口近くのテーブルにリムが座っていた。
どうやら一足先に目星を付けていたらしい。
「何だか惹かれて……。あの、すみません、宿代はどれくらいですか?」
「夕飯付きで銅貨5枚だよー。朝は軽くパンとスープ。お風呂は共同、夜は井戸締め前までね」
銅貨五枚──高いなぁ、の感想が口の中で転がる。
全身筋肉痛になるほど命懸けで戦って、二泊の宿代しか稼げない。
つまり、明日か明後日にはまたクエストをこなさないと、次は野宿する羽目になる。
顔に出てたのか、リムが肩をすくめて小声で言う。
「これでも、この街ではかなり良心的みたいだよ。知っての通り、ラフィスタは冒険者稼業が栄えていてね、出稼ぎにくる者も少なくない。その分宿屋の需要も高いんだ」
なるほど、供給と需要。
異世界であっても市場原理は働くらしい。
なら、ここに決めよう。何より他の宿屋を探す体力が無い。
「じゃあ、お願いします」
「えへへっ、毎度ありぃ~! じゃあ銅貨5枚、お願いしま~す!」
カウンターに銀貨を1枚、ぽんと置く。
──金を使う瞬間、脳裏に女神様の顔が浮かんだ。
『使え! 使え!! 使え!!!』
例の三連コール。
夢に出そうだ。
「はい、確かに! お釣りの銅貨5枚です~」
アヤネさんが銅貨を5枚、机の上に並べた。
……そういえばあの女神様、散財強化とか言ってたな。
”お金を使うとステータスが上がる”
ステータスって、どうやって見るんだっけ。女神様、説明したっけ?
確か、最後に画面を──
ぴょこん。
視界の端に半透明の板が弾けるように現れ、俺の目の前に吸い寄せられる。
おお、出た。
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>【体 力】 150
>【魔 力】 0
>【攻撃力】 10
>【防御力】 10
>【俊敏性】 10
>【精神力】 10
>【魅 力】 1
>【 運 】 1
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おおっ、強くなってる!!
体力が50、他のパラメータは5ずつ上昇──というか、2倍になってる。
宿代を払っただけでこれか。
逆に、魔力はゼロのまま、魅力と運も変わらず。
……俺に魅力も運もないから一生このまま、とかないよな?
「じゃあ僕も会計を……」
リムが財布を取り出しかけた瞬間、俺は自然と身体がすっと前に出ていた。
「いーや、リムさん、ここは俺に払わせてくださいよ」
「えっ、なんで……」
「ほら、ここは俺に任せて」
「いや、だからなんで」
「いやいや、何も言わなくて大丈夫ですから」
「えっ……こわっ……」
「わ、私はどなたが払っても全然ウェルカムなので!」
「はい、銅貨5枚です」
俺は机の上に並べられた銅貨を指差す。
「はい~、毎度ありぃ!」
「あっ、勝手に……!」
固まるリムを尻目に、俺は早速ステータスを確認する。
────────────────────
>【体 力】 200
>【魔 力】 0
>【攻撃力】 15
>【防御力】 15
>【俊敏性】 15
>【精神力】 15
>【魅 力】 1
>【 運 】 1
────────────────────
うおーっ! 最初の3倍だぞ!!
画面の数字が小気味よく跳ね上がってる!
というか、全身の痛みがいつのまにやら引いている。
……もしかして、体力が増えたからか?
そんなことを思っていると、アヤネさんが部屋の鍵を手渡してくれる。
「はい、二人とも二階になりま~す。夕飯は日が落ちる前に呼びますね! どうぞごゆっくり~」
「……宿代の話はまた後で、ゆっくりとしようか。荷物を降ろしに行こう」
俺とリムは階段を上がり、割り当てられた部屋に向かう。
部屋は狭く、決して豪華というわけではなかったが、清潔だし必要十分で俺はかなり好印象だ。
小さな窓から、傾いた日差し。干した布団からは日向の匂いがした。
荷物を下ろしながら、俺は再度ステータスを確認して微笑む。
いやー、俺、数字が増えていくの好きなんだよね。
貯金していた理由も、お金が好きだから、というよりも、貯金額が増えるのが好きだからだ。
逆に減るのは超ストレス。
そういえば、貯金したらステータスが下がるって言ってたな。
……くそっ、上手いこと考えたな、女神様。
それにしても、魔力や魅力、運はどうやって上がるんだろうか。
『上昇するステータスは、お金の使用用途により変化する』
──とか、言ってたな。
じゃあ、魔力は魔法に関するアイテムを買うとか?
魅力は……服? 美容?
運は……お賽銭?
くそっ、せめてそのあたりの説明もしてってくれよ、女神様。




