第1話 抱え落ち
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目を開けたら、まず床がなかった。
宙に浮いてる……のに落ちない。重力どこいった。
周りは金色の光がとろとろ流れていて、たまに星が流れ込んでくる──そんな、まさに夢のような景色が広がっている。
「──何してるんですか!!」
突然、俺の鼓膜に特大ボイスが直撃した。
振り向くと、見目麗しい大人の女性。
つやっつやの黒髪、光り輝くドレス、そして顔は女神のよう。
──だが、目が完全にキレている。
「貴方にはせっかく特大の金運を与えてやったのに! 貯め込むだけ貯めて死ぬとか意味不明!」
何のことだ、と思ったら、どうやらこの美女は俺の貯金額に文句を言っているみたいだ。
ふふふ、そう、何を隠そうこの俺──黒野 真の貯金額は驚異の30億円。
節約に節約を重ね、貯めた金で投資をして大当たりした結果だ。
その一方で、貯金額がいくらになろうとも、俺の生活水準は変わらなかった。
部屋は家賃4万の安アパート。
食事は毎日業務用パスタかうどん。
趣味は動画鑑賞。
そんなひたすら金のかからない俺の幸せといえば、ただただ増えていく貯金額。
預金残高を眺めて、毎日ニヤニヤしていた。
「い、意味は……あります。残高が増えるという。尊い……」
「尊くない!!」
稲妻級の一喝。
「お金はね、回すもの。社会の血液であり酸素なんですよ。──それをあなたは! なに抱え落ちしてるんですか!?」
抱え落ちって……えっ、抱え落ち?
それってつまり……
「俺、死んだんですか……?」
「ええ、死にましたとも! 貴方はある日突然、心臓麻痺で死んだんですよ! バカ!」
衝撃の発言。
死んだ人にバカだなんて、これがSNSなら大炎上ですよ。
……じゃなくて。え、俺って死んだのか?
ってことは、この美女は女神様?
「大体、何で貴方はお金を使わないんですか!?」
「いや、だってもったいなくて……」
子どものころから、節制を美徳として教えられてきたんだ。
お金の使い方なんて、学校で習わなかったぞ。
「それだけ貯金があればもったいなくもないでしょう!? だから貴方は小市民止まりなんですよ!!」
小市民って……まあそうだけども。
そんな怒られ方、初めてすぎる。
「確認します。あなた、子供のころのお年玉は?」
「貯金箱直行」
「バイト代は?」
「ATMにダッシュ」
「社会人のボーナスは?」
「通帳の数字に転生……」
「そして本人は転生。笑えないにも程がある!」
ごもっともです、女神様。
俺は極度のもったいないお化けでして。
「ということで。貴方は罰として──魔物が出る危険な世界に転生させます」
「えぇ!?」
「しかも、平凡なステータスで、です!」
「じゃ、じゃあせめて1億くらい持っていかせて……」
「無理です! 貴方の遺産は今頃もう国庫の中ですよ! 大体、転生先の世界じゃ使えませんよ!!」
そう言うと、女神様はぴしっと指を立てる。
説教モードから説明モードへと切り替わったのか、声が落ち着いた。
「ただし、何も持たずに行けとは言いません。貴方には特殊能力を授けます。散財強化──お金を使えば使うほど、ステータスが上昇します」
「……え?」
「使え! 使え!! 使え!!!」
三連コール。圧がすごい。
「具体的に言うとですね──」
女神様によると、
- お金を何らかの方法で消費すると、ステータスが上昇する
- 上昇するステータスは、お金の使用用途により変化する
- 細かく使うより、一度に大金を使う方がステータスの伸び幅が大きい
- 借金や他人の金を消費してもステータスは上昇しない
と、言うことらしい。
そして──
「ここが一番重要。貯金額に応じて、貴方のステータスは弱体化します」
「……え?」
「つまり、前世のように貯金ばかりしていると、魔物に殺されたり、強盗に殺されます」
そ、そんな……
じゃあ俺は異世界では一生貯金ができないってことか!?
「安心なさい。使えばいいのです。使えば。使え! 使え!! 使え!!!」
再び女神様による三連コール。圧がものすごい。
「転生先は、冒険者稼業が活発な街の冒険者ギルド近くにしてあげます。いいですか、まずは冒険者としてお金を稼ぐのです。稼いで、使う。使って、強くなる。強くなって、また稼ぐ。決して貯金をしてはいけませんよ」
神が浪費を促すって逆じゃないだろうか?
「それと」
女神は指をすっと向ける。
「散財強化の効果が分かるように、自身のステータスを確認できる能力も授けましょう」
そう言うと、半透明のステータス画面が俺の目の前にぴょこんとポップ。
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>【体 力】 100
>【魔 力】 0
>【攻撃力】 5
>【防御力】 5
>【俊敏性】 5
>【精神力】 5
>【魅 力】 1
>【 運 】 1
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魅力1に運1て。
俺がなにをしたっていうんだ……
「貴方のステータス初期値は平凡。ゴブリンに殴られるとめちゃくちゃ痛いです」
「……『ふん、雑魚が』って無双できないんですかね」
「できません。『ふん、雑魚……い”っだ!? い”っ”でぇ!?』です」
女神はそう言うと、俺に手のひらを向けた。
ぱあっと細かい光が宙を舞い、俺の胸に吸い込まれていく。
「では、行きなさい。ギルドはすぐそこ。稼ぎ、使い、強くなり、お金の使い方を学ぶのですよ」
「待って、初期装備とか、最低限の服とかは!?」
「ああ……」
その反応、このままだと素っ裸で転生されかねなかったぞ……
「服・剣・盾はサービス。けれど──以降は貴方が稼いだお金で買うのですよ」
世界がぷるんと震えた。
視界が白にスライドするとともに、胃がふわっと浮く。
落ちるのか上がるのか、方向感覚がを失う。
光が弾け、匂い、音、風の感覚が飛び込んでくる。
──俺はどこかの街のど真ん中に立っていた。
目の前には、背の高いレンガの建物。
大きな扉の上には、”ラフィスタ冒険者ギルド”と書かれていた。
……頬をつねってみるが、まあ普通に痛い。
はあ、つまり俺は本当に異世界転生したってわけか。




