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17 舞台の終幕

── 帝城・執務室 ──


西日が差し込み、書類の山に影を落としていた。

静まり返った執務室に、黒髪をまとめ上げた侍女が音もなく進み出て、深く一礼する。


「陛下。……本日の件、王女に果物ナイフを隠し持たせてしまったのは、私の落ち度にございます。申し訳ありません」


その声音は震えも取り乱しもなく、ただ事実を報告するように淡々としていた。


机上のペンが止まり、静寂が落ちた。

やがて、ダリオスは口元に薄い笑みを浮かべる。


「……だが結果としては、なかなか見応えのある舞台になった。あの刃がなければ、あの舞台は生まれなかった」


ミレイユの瞳が一瞬だけ揺れたが、すぐにまた無表情へ戻る。


ダリオスはその様子を見やり、わずかに目を細めた。

「ならば――お前の落ち度もまた、悪くはなかったということだ」


ミレイユは静かに顔を上げる。

その黒瞳に感情の色はなく、ただ短く一礼した。

「御意」


ダリオスはその様子に、ふっと苦笑した。





── 帝城・大広間 ──


高天井に広がる重厚な装飾。

石造りの柱が連なり、冷えた空気がひそやかに流れている。


帝国の旗がずらりと掲げられた玉座の前に、亡国の者たちが鎖に繋がれ、跪かされていた。

磨かれた石床にひざをつく音、鎖の軋む音だけが、空間に淡く響く。


左右に整列した兵士たちが無言で睨みを利かせ、

その後方では貴族らが静かに並び、好奇と侮蔑と冷淡を綯い交ぜにした視線を向けている。

かすかな衣擦れすら耳につくほど、場は張り詰めていた。


その一角。

飾り気のない衣を纏った王女が、孤独に立っていた。

ただまっすぐ、玉座の前を見据えている。


罪状が読み上げられる声が、石壁にくぐもって反響する。

「帝国の秩序を乱そうと企てた罪」

「武力をもって陛下の威光を傷つけようとした罪」


その一言ごとに、空気が一段深く沈み込んでいく。


「これらの罪は極めて重罪であり、本来であれば――死罪に処すべきものである」


場に、一瞬の静寂。


そして、玉座から低く、重々しい声が響いた。


「だが――この者たちの命は奪わぬ。労役に服させ、罪を贖わせる」


ざわ、と広間が揺れる。

貴族たちが顔を見合わせ、兵士らが眉を動かす。


誰もがその言葉の意味を計ろうとし、

やがて視線は一斉に、傍らの王女へと向けられた。


そのとき、広間の片隅――柱の陰に控えていた一人の侍女が、わずかに瞬きを止める。細く添えられていた指先が、一瞬だけかすかに強ばり、すぐにまた静けさへと戻った。


進み出るように命じられた王女は、静々と進み出て、

硬い石の上に膝をついた。


そして、ゆるやかに頭を垂れる。


「……皇帝陛下の慈悲に、深く感謝申し上げます」


その声が空間に静かに反響する。

澄んだ響きは、まるで鐘の音のように――帝国の威光を高らかに刻み込んでいった。




――第一幕・了――

第二幕は、11/10(月)から連載開始です。

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