3 強襲
フローラとフラーラ。
この2人は姉妹であり、最強のコンビである。
何故なら、支援魔法と物理アタッカーは非常に相性が良いのだ。
支援魔法“速度支援”
支援魔法“攻撃支援”
この二つを常に付与している為、俺以外に物理が得意なやつ(アース)ぐらいしか送れないのだ。
まあ、クリムはなんだかんだ勝ってそうだが……
「まあ、さっさと行くぜクリム?」
「了解しました!」
「それ以外はここに待機!他の宮が攻めてくる可能性も考えておけ!」
この世界の宮の主は全員チキンである。
自分の宮が奪われる可能性があると考えると、途端に他の宮へ手を出さなくなる。
隠匿している力が分からないと、攻めるに攻められないということもあるが……
「龍宮様!行きましょう!」
何気に、34年ぶりだ。
ここを出るのは。
スキアやアース、アクアにシルフ、クリムまで様々な出会いと変化があった。
異常に増えた影龍軍団。
夜枷と言うなの拷問……
口にするのもおこがましい。
「あそこか……」
変なことを考えているうちに着いていたようだ。
胸元に三日月の紋章がある。あれはくまの象徴なのか?
確か演舞での討伐ではあんなのは無かった筈……
まあ、ついてみないとわからないことだ。
「今から口の中に入ります!」
クリムが宣言する。
赤龍軍団が火纏という、自動スキルをONにする。
その瞬間、轟々と燃え盛り始める。
「影龍軍団!影気解放!スキアは温存しておいてくれ!」
その瞬間、この辺り全て漆黒に染まる。
スキア以外は影気を温存しておいても大して俺の戦う時の技の足しにならない為、さっさと使ってしまって問題ない。
影龍の古龍王は中々だ。
「それじゃ、行こうか」
熊の中へ!
その龍ノ宮の主の瞳は爛々と輝き、まるで“獲物を見定める様に”していた。
〜
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〜〜〜
「フラーラ、うちのところの影熊が影龍軍団と赤龍軍団が来てるって言っているんだけど?本当に?」
耳打ちされたフローラは少々焦った様に呟く。
何故なら獣ノ宮の群れの中でも最強の存在、全軍動かせば1つの宮位はひねり潰せるだろうと言われていた存在なのだ。
そんな天災に近い存在が今になって急に動き始めたのだろうか?
そう言えば……
「案内者が30年位前に龍ノ宮にでたって……」
「お姉ちゃんさっさと言ってくれなの!」
「もしかしたら……」
“神龍が龍ノ宮の主になったかもしれない”
その言葉にフラーラは唖然とする。
神熊の私達や古王熊じゃ勝てない可能性が高くなってしまった。
舌を鳴らしてため息をつく。
ここ100年は宮の争いは無かったのだ。
鼠ノ宮が鳥ノ宮に侵略を仕掛けたタイミングで猫ノ宮に奪い取られてしまった例がある。
そのせいで猫ノ宮の主は特殊能力、“怠惰”を得てしまった。
宮が広がれば広がるほど、宮の主は強くなる。
「そうなってくると、私達2人が全力で封じ込めないといけないかもしれないの。これ、意外にまずい状況しれないの」
「いや、意外じゃなくて、普通にまずい状況なのよ……」
「お姉ちゃんが焦ってる時、今まで重大なことになったことがなかったから、今回もそうかもしれないって思っただけなの。気にする必要はないの」
「いや、お姉ちゃん、その言葉だけで傷ついちゃう……」
意外に毒舌なフラーラだったのだった。
“意外じゃないんじゃないの?”
うるせー!
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「熊の体内に入っているな!全軍前進!」
そう叫ぶと同時に時速150kmを超える様な速度で動き出す。
しかし、これも“ゆっくり歩いていると言う感覚”なのだ。
門がある。
「蹴破るぞ!」
そう言った瞬間全軍から同時に魔力の気配が漂う。
「「「「龍の咆哮」」」」
幾数にも連なる光線が門を叩く。
弾き返される様に見えて、それは中々傷を負う。
獣ノ宮の群れの中で最高火力の二つ名を冠する龍ノ宮は伊達ではないと言う事なのだろう。
そして、長く競り合っていた結果、門が大破した。
玉座の間への開門の儀式に見えぬこともないレベルではあった。
「全軍前進!すす……っ!?」
続きが言えない。
圧倒的なクラスの圧力が降り注ぐ。
「我、古王熊成!いざ、尋常に勝負!」
そう言いながらクリムの方へ全力で走る。
その後ろにも2体ついて行った。
「龍宮様!ここは問題ありません!軍団が来たので、ここにも我らの軍団を置いて行かれて下さい!」
「おう!頼んだぜ!」
そして俺は向かう。
だが、これだけじゃ足りないか?
「足りねえんだったら増やせってな!影気解放、眷属召喚!」
影神龍の眷属が影から這い上がる。
「うおおおおお!俺は上位熊だ!勝負!」
そう言いながら、ガントレットを嵌めた拳で殴りつけようとする。
しかし、まるで止まっているかの様な遅さに若干の呆れが含まれる。
「はあ、熊というものは全部これか?」
そう言いながら、古代ノ漆黒を持つ腕に力を込める。
そして、一閃、鞘から刀を抜き去り、上位熊を袈裟斬りにする。
「グボあああぁぁぁ」
上位熊と名乗った熊は膝をつく。
非常に複雑そうな顔をしながら、こう呟いてしまう。
“大したことないな”
道中に神熊近衛団が居たが早々に蹴散らしてしまう。
こんなの技を使うまでもない。
一切合切消耗してない体を見てため息をつく。
「ふむ、強敵に飢えている様じゃの。わしが相手してやるわい!」
そう言いながら、老けた熊の爺さんは叫ぶ。
舐めた真似してくれるなぁ!
「大して強くねえくせにイキがなんよ。糞爺!」
そう言いながらも、龍爪を古代ノ漆黒にこめていく。
相手が古王熊であったとしても、消耗は避けたい。
“抜刀”
その言葉はまるで言霊の様にキンと響く。
澄み渡り水が澄み切った音に何も出来なくなる。
いや、何も出来なくさせられてしまった。
生首が段々と落ちて行き、ズレる。
視界が反転し、黒々と視界が染まってゆく。
強者を求めている敵と戦い死んでいったことは誉だ。
しかし、“もう少し善戦したかった”と思う。
悔しさを全身に滲ませると共に視界は漆黒に染まってゆくのだった。
〜
〜〜
〜〜〜
古代ノ漆黒片手に歩く。
巨な扉を前にして、刀を鞘に納める。
“抜刀”
居合術は精神を集中すれば最も切れ味の良い刀に変化する。
扉が真っ二つになる。
「よく来たね」
「よく来たの」
いかにも挑戦を受けし王の様な対応をしていることに少し腹が立つ。
「俺がチャレンジャーじゃなくて、お前らがチャレンジャーだぜ?そこんとこ解っとけよ?」
「むかつくの!」
それじゃあ始めようか!
舞踏会をな!