0.5 追放
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何で今更こんなことになっているのだろう?
フラフラしながら立ち上がる。
何故こんなことに……
いや、一応、“武の試練”を突破した形なのだろうか?
「おい、何故お前が“武の試練”を突破したのだ?レベル0のくせに、バリアさえも貫けない攻撃だったくせに、お前は生き残り、鬼人を倒すなんて!如何なる不正をしたのだ!」
「お゛い゛!不正したのはお前らだろうがっ!」
「何の話をしておるのかは知らんが、お前の不正は“事実”として認められているのだぞ」
何でそんなことに……いや、待てよ!
証拠!証拠がない!
「証拠がないだろう!」
「ならば、証拠がない証拠を証明せよ」
「そんなの……ただの悪魔の証明じゃないか」
そうだ、理不尽すぎる。
しかし、剣ノ宮では父は絶対。
逆らうことは絶対に許されないのだ。
ただ、一矢報いようと、必死に“右目”に魔力を送る。
全て視えた。
だからこそ父には勝てるはずがないのだ。
父の背中に掲げられている剣がある。
その名も、名刀“影喰らい”
そこに宿した力はそこはかとない。
まるで、モノの全ての深淵を視た感覚に陥る。
「はっ、ははっ……」
「ふん、何を笑うておる!ここから出ていけ!」
少しふらりと立ち上がる。
あんなの勝てるわけない。
感じたのは本能の劣等感。
たったそれだけ、それだけなのに勝てる気がしない。
のそり、のそりと歩く。
「おい、クソ兄貴、アンタが追放されて清々したぜ!じゃあな!」
は?お前を少しでも信用した俺が悪かったな……
いや、もう全部クソだ。
「あーあ、お兄ちゃん追放されちゃったなー私悲しいなー」
「ぎゃはっ!棒読みで言ってやんなよ!」
「だってぇ〜お兄ちゃんが〜私よりも弱いのにぃ〜私を守るなんて抜かすからいけないんだもん!」
「はっはっは!言われてんぜ!」
本……当に……?
俺は後ろを向き歩き出す。
背後から突き刺さる視線に嫌気が差し、走り出す。
何故か頰に汗が垂れてきた。
目から汗が出ているのは気のせいなのだろうか?
〜
〜〜
〜〜〜
宮の外で行商人が珍しいものを売っていた。
その名も“レベル1の実”
その名の通りレベル1になる実だそうだ。
鑑定で発覚している。
だったら……
と、俺は希望を見出し、その身に手を伸ばして購入する。
金はそこそこ貰った。
1週間は生活できるであろう程度だが。
その実を買った後は適当にぶらぶらした。
「はぁ!」
そこに居た、醜人を一刀両断する。
多くに囲まれない限りこんな雑魚はすぐに処理できるが、外の民もそうとは思えない。
こうやって、慈善事業でも良いから善行を積んで死のうかな。
でもその前に……
レベルアップの感覚を知りたい。
「いただきます」
それは俺に取って“最初の晩餐”だった。
ステータス
名前 マルス=アリティニー
LV1
攻撃力 436(4367)龍化状態
防御力 456(4569)龍化状態
素早さ 6468(1078)龍化状態
魔攻 564(5647)龍化状態
魔防 553(5532)龍化状態
魔法力 11179/11179
ギフト 神龍魔法
「は?」
その結果を見た俺は素っ頓狂な声を上げる。
でも、
「この結果さえあれば、あの人たちを認めさせられる」
その考えを否定する様に俺は首を横に振る。
「あの人たちに認められたからって良いことはない」
そう呟き、なんとか自分を納得させようとする。
「いや、もうあんな所に行く必要はないんだ。折角だから別の宮に行こう」
そこで俺の才能を磨くんだ。
取り敢えず、魔ノ宮にでも行くか?いや、でもな……
本当にどこに行けば良いのかもわからない。八方塞がりとはまさにこのこと。
「神龍魔法って何だろう」
そう呟いた瞬間、龍魔法のことが浮かんでくる。
龍魔法の一つを発動する。
「龍の咆哮」
その瞬間、手から光線が出てきて、全てを吹き飛ばす勢いで空に飛ぶ。
おおよそ、馬鹿げた力に力無く笑う。
「は、ははっ……何だこれ……」
それは空を穿った。
「ま、まぁ、気を取り直して……龍の爪!」
それは、近くにあった岩を粉々に砕いた。
そこに何もなかった様な様相を見せる。
「最後、『影神龍化』」
その瞬間自分の中から力が溢れ出す。
そして俺は……
「黒龍!?」
おいおいおい、嘘だろ?
俺が龍化系統のスキルを持っているなんて……
「影気召喚」
己の影が形を作る。それは剣になり、槍になった。
「影神龍流剣術、1ノ型、空虚」
全てを吸い込む光に、そこの近くにあった豚人が死んでいく。
「こりゃまた、えげつない物だ」
これが自分の手によって生み出されているなんて……
そして……
「龍ノ宮へのお導きかぁ〜もちょっと後でいいかな」
よくわからないスキルだからこそ、後回しだ。
割と危ないスキルだったりするのはまずいな。
いや、でも折角だし……行こうかな。
「龍ノ宮へのお導き。発動」
言の葉に意味を込める。
〜
〜〜
〜〜〜
目が覚めた瞬間俺は、目の前に光の玉が浮かんでいることを把握する。
「お前が案内者なのか?」
この宮では、いや、外界では宮への案内者、案内者がいる。
そいつが適正の宮へと導いてくれることもあり、案内者に導かれた者は大成すると言われているのだ。
「ちょ、まっ……『影神龍化』」
光が上に飛んでいくところを見て、俺も『影神龍化』して飛び上がる。
期待半分不安半分と言ったような目で、光を見つめる。
「す、すげぇや……」
其処は圧倒的に荘厳な雰囲気の応急があった。
広さは圧倒的で、宮全土が覆われていたのだ。
庭や池などもある。
あまりにも美しく、圧倒的な雰囲気に身じろぎしてしまうほどだった。
「初めまして。御挨拶に参りました。古龍王の、クリムゾンで御座います」
真紅に染まった全身と爛々と輝く瞳に見つめられた時、なぜか嗜虐心が湧いてきた。
「人の姿になってくれないか?」
もしできたらだけどねと付け加える。
「分かりました」
そう言って変化した姿は、17歳くらいの絶世の美女と言っても過言ではない美しさに、巨大な尻尾と、巨乳と、爛々と輝く瞳がついてきたような感じだった。
「所で、何で俺、神龍になったの?」
「それは恐らく、“先祖返り”でしょう」
「先祖返り?」
先祖返りとは?
「先祖返りとは、過去に巡った血が覚醒し、過去の人物の偉大な力を得ることができる者です」
「成程、でも何で俺はレベルが上がらなかったんだ?」
「それは器が大きすぎたからです。人と神龍では、レベルアップまでの経験値が違います。」
「教えてくれてありがとうな」
「っ!そのお言葉、誠に嬉しく!」
「?まあいいや」
異常にクリムゾンさんが喜んでるな。
「獣ノ宮の群れと言う物を知っていますでしょうか?」
何それ?
「いや、知らない」
「獣ノ宮の群れは、巨大な宮が群雄割拠しており、それ自体がさらに大きな宮だと言われています」
「だったら、何だというんだ?」
宮をどうするんだ?
「それは……」
“貴方こそ、生ノ宮の主になるべき御方です”