0 レベル“1”
3話投稿です
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「くっ、うあぁ!」
叫びながら、ゴブリンに剣を振り翳す。
何故、俺は、俺は……
「レベルが上がらないんだよっ!」
腹の中から叫ぶ様に絶叫し、思いっきり振り下ろす。
技術だけは一人前、力が無い雑魚。
これが俺の剣ノ宮での認識。
圧倒的な剣の実力主義。
普通は、自分の得意な魔法なり、斧なり、槍なり、選び、魔ノ宮、斧ノ宮、槍ノ宮など、得意なものの中から、選択して、宮入りする。
基本的に外で育つ人間が多い中、俺は、宮内で育った。
俺は宮ノ主の嫡子である。
だからこそ、俺は宮内で育った。
剣ノ宮の主の嫡子の癖に1レベルも上がらない無能。
それが今の俺。
人は皆、ギフトを貰うことができる。
ギフトはパッシブスキルでも無い限り、レベル1にならないと使えない。
レベル1になると、神からの祝福としてギフトをもらえるのだ。
父は、宮ノ主の中でも最強とな高い“剣神”として名を馳せている。
母は、森ノ宮の主にして、“弓神”として名を馳せている。
そして、森ノ宮は、龍の血を引く種の森人だ。
森人は、魔法が優れているかつ、見た目が麗しいので、様々な宮から婚姻を求められている。
更に極秘の話だが、剣ノ宮は、神龍の血を引くものたちが王になっているのだ。
まあ、そんなこと俺には関係ないか。
それよりも……
「どるあぁぁぁ!」
そこにいる、醜人の頭をかち割る。
「もう、今日、なのか……」
今日は“武の試練”が行われる日だ。
“武の試練”を突破した者こそ一人前ということらしい。
しかし、みな、豚人を倒しレベルを上げているのに比べ俺はレベル0だ。
“武の試練”では、鬼漢が、出てくるのに勝てるわけも無いため、辞退しよう。
そしたら、きっと、宮を追い出されるだろう。
そうしたら……
〜
〜〜
〜〜〜
「はぁ、お前って奴は……まだ醜人しか倒せないとは……しかも、稀に醜人にも足を掬われそうになるとも聞いたぞ。我が子ながら情けない!」
「そうですわね!」
父と母が、俺の目の前でそう宣言した。
何も言えない己の力を恥じると同時に悔しさが溢れてくる。
「一体いつになったらお前のギフトが判明するのだ?そしたらレベル1になっても使い道があるかもしれないのに……」
「しかも、貴方はレベル1のくせに剣神龍剣術の、3級まで保持しているのにね。レベルの上がり具合が良かったら本当に強かったんでしょうけど……まぁ、無い未来を想像しているのは無駄ね」
因みに剣神と、剣神流と、神龍を掛けたものだ。
体に染み付く剣術に、初めて醜人を倒してレベルアップしなかった時までは褒めちぎられたものだ。
確かに俺がまともだったらと想像した時もあるが、実際にそんな未来があるなんて仮定はしちゃいけない。
空想でしか無い未来は水を掴んだように、手に入れることができないものなのだ。
だったら、最後まで鬼人と戦ってやろうじゃ無いか!
妹のフリスを守る為にも、絶対に、負けてはならないんだ。
弟のヘルスは、ギフトの聖なる剣を得ているらしいが、それでもあいつは未だに剣神龍剣術10級で、初級の“精神集中”と、“予剣”という、0.1秒先の未来を見ること程度だ。
俺は1秒先まで見ることができるし、龍撃13連撃と言う大多数の相手に効力を発揮する技も使える。
でも、
“豪剣付与”と“炎剣付与”ぐらいしか高火力化する方法がない。
剣の方が強くないと話にならない最悪の方法だ。
槌ノ宮で造られる剣を使っても、いまだに醜人の群れ程度氏から推せない実力じゃ、鬼人は決して倒せないだろう。
でも、でも……最後まで足掻くって決めたんだ。
“精神集中”を行っていると、邪魔が入る。
「兄貴、レベル0のくせに鬼人を倒せると思ってんの?頭お花畑でポカポカしてるな。」
「ああ、ヘルスか。悪いが今“精神集中”で、思考を尖らせているから邪魔するな。」
本当に邪魔な奴だ。
フリスが、俺の後ろちょこちょこついてきて微笑ましかったが、ヘルスは、聖なる剣を得てから増長している。
父に珍しいスキルと言われたことが響いているのだろう。
「兄貴は、そんな小細工していないといけないんだな。つまらない。そんな事しなくても、努力してレベルを上げれば楽勝だってのにな。」
イライラが溜まり歯軋りしそうになる。
俺の方が圧倒的に努力している!
なのに、おれは、俺はっ!
「まぁ、死なないようになぁ〜」
俺は少し驚く。
“俺を心配しているのか?”
いや、そんなことはないだろう。
あのヘルスだぞ?
でも……少しは信用してもいいかもな。
〜
〜〜
〜〜〜
「はぁ!“聖なる剣”!」
鬼人が真っ二つになってゆく。
俺はその姿を見て、父がレアスキル判定したのも納得できるな、と思う。
「次!マルス=アリティー」
呼ばれた俺は立ち上がる。
さぁ、戦おうじゃないか!
「グオオ!」
「どりゃっ!」
拳と剣が交わる。
醜人と戦う時は剣神龍剣術を使わないように心がけてた。
まぁ、危機的な時に使うし、醜人に囲まれ時は使ったが。
「剣神龍剣術3級第二技、龍撃13連撃!」
同じところを滅多撃ちにする。
これでようやく、相手を怯ませることができた。
反撃の時だ。
「剣神龍剣術4級第二技豪剣付与!」
剣が少し煌めく。
先程まで傷一つつかなかった鬼人の皮膚にかすり傷が付く。
たかがかすり傷、されどかすり傷だ。
「剣神龍剣術第5級第二技、煌剣!」
少し目を閉じたようだ。
これは魔の者達の視覚に多大な影響を及ぼす技で、簡単に言って仕舞えば目眩しだ。
「剣神龍剣術第3級第一技、炎剣付与!」
目の前で、炎を纏った剣が揺らめく。
剣を高速で揺らすことによって発生する摩擦熱によって剣の温度が上がり、炎を纏う。
いかなる高熱にも耐えうる素材、魔銀石で制作された俺の剣は簡単に炎を纏った。
早くレベルが上がって欲しくて俺にこれを与えたようだが、今となってはもうその努力も不要な物らしい。
なんせ、“優秀な弟”がいるからな。
「剣神龍剣術4級第二技豪剣付与!」
俺はそれに全力を注ぎ込む。
炎が燃え盛り全て燃やしつくさんとする。
吐息が熱く感じる。
体温は変わらず平熱に感じる。
「剣神龍剣術3級第二技、龍撃13連撃!」
全てを切り裂いてしまうような声を叫ぶ。
「クソッタレ!」
この世の全てに否定された俺の気持ちも知らずにのほほんとしやがって!
ゆるさねぇ!
「バリア」
は?
何で、攻撃が、通ら、ない?
「ククク、あーっはっはっは!」
「ふふふ、あんだけ苦戦してたのに結局はこうなのね。お兄ちゃん」
「魔道具の“結界”で防がれる程度の威力しか出せない奴は魔の者に喰われて死ねや!」
好き勝手言いやがって!
なあ、嘘だよな?嘘だと言ってくれよ。フリス?
「ふざけるな!」
“竜の瞳”
オークが殴りかかってくる。
もう終わりだ。
そう思い、目を閉じるのだった。
ただ、ただそこにいたのは、
倒れていく鬼人だった。