表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/10

逃亡先の日常


 あれから三ヶ月、俺は王女暗殺未遂事件の黒幕と疑われた隣国との国境に滞在している。


 この街に到着してからいろいろ情報を集めたのだが、王城の城門が崩壊した事件は、『城門事件』と呼ばれるようになったらしい。だが、俺は門扉を吹き飛ばしただけのはずなので、崩壊とまで言われれると違和感がある。国境の街に届くまでに、噂に尾ひれがついたのだろうか?


 しかも、その事件の責任を取ったのが、あのアージェノス家だというから驚きだ。城門再建の費用とするため、資産没収の上、家ごと取り潰されたそうだ。連帯責任となった家族には同情してしまう。


「マルセスさんは今日も迷い猫探しですか?」


 実家で渡された荷物の中には、マルセスという名の平民の身分証明書が入っていた。いろいろ疑問はあるが、おかげで身元確認が必要な追跡者ギルドへの加入も簡単だった。


「ええ。まだ一回も捕まえられてないですけどね」


 猫は案外すばしっこい。一度だけそれっぽい猫を見つけて追いかけたが、見失ってしまった。


「迷い猫を探して、スパイの容疑者をあちこちから捕まえてくる人なんて、マルセスさんぐらいですけどね」


 話をしながら、ギルドの受付から受注証を受け取る。


「毎日手配書を見てたらたまたまね。ありがとう」


 習慣で、手配書が貼り出されている掲示板へ向かう。


 追跡者ギルドは、いわゆる賞金稼ぎが集まるギルドだ。

 通常は犯罪歴のせいで街に入れなくなった山賊の討伐や、捕縛前に逃亡した被疑者の捜索、家族から依頼のあった失踪者探しなどがメインのお仕事になる。

 もちろん、初心者はベテランのサポートや逃げ出したペットの捜索などの危険の少ない仕事しか受注できない。まぁ、他の仕事の最中に偶然出会ってしまった場合などは例外なのだが。


「ついにきたか」


 新規の掲示板に、マルキオ・イークェス手配書が貼り出されていた。賞金額は金貨で五千枚。一生遊んでも使い切れない額だ。


「どれどれ……罪状は冤罪による逃亡。取り調べ後釈放予定であるため、緊急捕縛等の傷害行為は禁止。発見した場合はただちにギルドに報告すること。なお、ギルドは王都から担当者が到着するまで居所把握の依頼を発効すること、と……」


 はっきり冤罪と書かれているのは何でだろうか? また、捕縛禁止となっているのも気になる。


 あ、もしかして情報漏洩を防ぐためか? 城門守備隊がたった一人に壊滅させられたとか、騎士団は隠したいだろうし。

 もしくは、なるべく苦しませずに逝かせてやろうというリンの気遣いか。


 想像するだけで凹む。今さら気づいたが、リンとの口ゲンカは楽しかった。会えなくなってとても寂しいが、そのリンがもしもそんなことを考えていたらとしたら、俺は多分生きていられない。


「まぁありえないんだけど。しかし、似てるな、これ。どうやって描いてるんだろ」


 気を取り直して手配書の内容確認に戻る。手配書の似顔絵が俺そっくりだ。髪型と髪色を変えてなかったら、ここにいる追跡者たちにはすぐバレていただろう。騎士学校の授業で変装を習っておいて良かった。


「あとは……」


 さらに新顔を確認していく。


「スパイ容疑のフッカ、ローン、ゴリスはなるべく生かして捕縛、放浪強盗容疑のワーリーは生死を問わず、ね」


 スパイの容疑者は、なぜかこの街を通ることが多いので狙い目だ。国境は今行き来が禁止されているはずだが、多分隣国へ逃亡していっているのだろう。


「よし。覚えた」


 外套のフードを目深に被って、ギルドを出る。飼い主が探せないエリア、かつ逃亡犯が逃げ込みそうな場所と言ったら、城壁外にあるスラムか。とりあえず行ってみるかな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ