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ツンツン王女

「これ、王宮の宝物殿に飾ってあった宝剣だろうがっ! しかも王家の紋章にまでなってるやつ!」


 幼馴染みの王女殿下から手渡された細長い袋は、ズッシリと重かった。その時点で嫌な予感がしていたのだが、開けてみると見覚えがある国宝の宝剣である。


 鍔に施された赤い魔石は、異様に細かい三次元魔方陣の影響で、角度を少し変えるだけで暴れるように輝いている。鞘にもルーペでも持ってこないとわからないような、複雑な幾何学模様が銀色に反射していた。


 間違いなく国内最強の剣だろう。


「勘違いしないでよね。その剣はあげるんじゃないわ」


 ならば貸すということだろうか。どちらにせよ同じことだ。


「まさか受け取れないとでも言うのかしら?」


 王女殿下はふくれっ面で睨んでくる。


「逆に何で俺がこんな剣を受け取れると思った?」


 ちょっと気になって、鞘から少しだけ剣を抜く。刃を目にした瞬間、背筋に寒気が走る。

 剣を生業にする者にとってはあまりに魅惑的な光で、誘惑される前に慌てて袋に戻す。

 袋は何故かかわいい刺繍がされていて、中身とのギャップが激しい。


「父上が死んだら全部わたくしのものよ? 誰に渡そうと勝手ではなくて?」


 世間知らずすぎてびっくりする。ふんぞりかえっている幼馴染が女王になったらと思うと、この国の行く末に不安しかない。


「俺は、近衛騎士の中で一番若輩なの! すごい先輩を差し置いてこんな剣もらったら、いびられるのは俺でしょうが! どうしてこんなものを渡そうとするの!」


「あら。先日の誕生日プレゼントのお返しなのだけど」


 わざとらしく、美しい艶のある髪の毛をまとめる髪留めを見せつけてくる。大事にされているようで、ちょっとホッとした。

 うちは一応侯爵家だが、三男の僕に自由にできる財産はない。だから毎年王女に見合う誕生日プレゼントには苦労してきた。いろんな材料を集めてでっち上げてきたが、今年はほとんど何もなかったので、死んだ母上の形見の指輪からエメラルドを外し、指輪と初任給の金貨を鋳つぶして髪留めをでっち上げた。

 もちろん、それでも王女が見につけるアクセサリーとしては安物である。


 一人で庭園のあずまやでお茶している、という今の状況でなければ、きっと華やかな彼女の持ち物として見劣りするだろう。


「見合うかぁっ! ただでさえ王女殿下の推薦で近衛騎士になったってやっかまれてるのに、こんなやばいもらったらいびり殺されるわ!」


 ふくれっ面のまま、器用にティーカップを口元に運ぶ。


「マルくん、今のは不敬ですわ。二人きりの時はわたくしのことはリンって呼びなさいって命令しましたわよね?」


「それ逆ぅ~」


 王女殿下の名前はリンセップ・アウクト。本人は面白がっているが、第三者に聞かれた時点で俺の首は飛ぶ。物理的に。


「マルくんは近衛騎士の叙任式で、わたくしを一生守ると誓ったばかりでしょう!? だったらその剣が手元にあったほうが守りやすいのではないかしら?」


 地団駄を踏みたいが、少し離れた庭園の入り口を守っている上司の視線が厳しい。


「今の剣で十分でございます。もし御身に危険が迫ったら、命に代えてもお守りいたしますので」


 わざと丁寧に、礼儀作法に則ってそう言った瞬間、リンは素早く椅子から立ち上がって、俺の頬を思い切りはたく。この前教えた魔力による筋力強化の力も手伝って、衝撃は十分すぎた。


「ふべらっ」


 俺は威力を殺しきれず、一回転して尻餅をつく。


「冗談でも命に代えてなんて言わないで! マルくんが先に死んだら、わたくしを一生守れないでしょう! 騎士の誓いを破る気?」


 頬を抑えたまま、ポカンと仁王立ちするリンを見上げる。


「申し訳ないですが、近衛騎士とはそういうものなのです」


 そういう訓練を受けていたし、そうなりたいと願った。俺が誓った一生というのは、リンの一生ではなく、俺の一生という意味だ。何を勘違いしているのだろうか。


「だったら、近衛騎士なんてお辞めなさい!」


 また無茶を言う。俺の誓いと、近衛騎士になるために積み上げた研鑽は、そう簡単に手放せるものではない。


「マルキオ・イークェス! 貴様、王女殿下に何をしたっ」


 リンの怒鳴り声に反応して疾風のように駆け込んできた上司に、おれは鉄拳制裁をくらってさらに吹き飛ぶ。僕の手から離れた宝剣は袋ごと地面を転がり、泥だらけになる。


「あっ」


 悲しそうな声に振り返ると、リンはその目いっぱいに涙を溜めていた。視線が合うと、凄まじい眼力で睨まれた。まずい。これは癇癪を起こす前触れだ。


「マルキオなんて大嫌い! もう顔も見たくない!」

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