ヒロインは面倒くさい
ご都合主義万歳!
「ま、まさか・・・そんなことがあるなんて・・・」
頭に出来たたんこぶが、どう見えるか確かめたくて鏡台に自分の姿を移した瞬間だった。
私はこの女の子を知っている。
それは15年間、コーネリアとして生きてきたからではなく、第三者としての既視感。
ピンク色の軽くウェーブのかかった髪の毛に、くりっとした二重のオレンジ色の瞳。
前世で遊んだ恋愛シミュレーションゲーム「陽だまりを見つけて」のヒロイン・コーネリアが鏡に映っていた。
そして、それは私自身なわけで。
「これが異世界転生ってやつ・・・まじかぁ・・・」
つい数時間前、私が働いているパン屋はお昼のラッシュ時間だった。
焼き立てのパンを店に出して混みあっているお会計の手伝いに行こうとしたら、店内ではしゃぐ子どもがいた。
その子どもが足元をかけてそれを避けようとしたところで、バランスを崩して体が倒れ、そのままお会計の机の縁に頭をぶつけた。
気を失って、目を覚ましたのが数十分前。
パン屋の女将が事のあらましと医者から血こそ出てないが頭を打ったから今日は安静にするようにという言付けを聞いたのが数分前。
机で打ったであろう箇所がジンジン痛んで、ちょっと腫れてると思い、どれくらい腫れているか確認したくて鏡の前に立ったのが、今。
そして私は、自分が乙女ゲームのヒロインに転生してしまったことに気が付いた。
やっぱりこういうのって頭打った衝撃で思い出すもんなんだな・・・。
しみじみと鏡を眺めてしまう。
今まで周りに可愛いとか言われてもあんまり自覚なかったけど、さすがヒロイン、仕上がった可愛さだわ。
前世の自分が完全に第三者目線で私の容姿を褒め称えてしまう。
一頻り鏡を眺めてから、先ほどまでいたベッドに戻り腰掛ける。腕を組んで、たった今思い出した前世の記憶からゲームのストーリーを引っ張り出す。
「陽だまりを見つけて」は王道なシンデレラストーリーだった。
平民として育ったコーネリアだが、実は父親は子爵で、ある日突然引き取られることになる。
そして、貴族として貴族学園に入学するところからゲームは始まる。
突然貴族となったコーネリアは、その生活の変化に戸惑いながらも受け入れ、貴族として成長しようと努力する。
そんな生活の中で、攻略対象に出会い、恋をし時には困難を共に乗り越えながら愛を育む。
思いが通じ合った2人は幸せになりましたとさ、というのがこのゲームのハッピーエンドだ。
「あーーー、めんどくさいなぁ・・・」
私は体を倒して、ベッドに身を預けた。
自分がヒロインだとだけを考えれば、幸せになれることが約束されているかもしれない。
だがしかし。
このゲームでは申し訳程度のライバルキャラがいるが、婚約破棄とかいう大事には持っていきたくなかったようで、ライバルキャラはすべて”婚約者候補”だ。
だから、攻略対象者を定めたらライバルキャラとは婚約者枠を取り合う構図になり、ハッピーエンド時に断罪が必要という事態にはならない。
だけどもしも転生しているのが私だけでなく、攻略対象者の婚約者候補の中にいたら?
私以外にもゲームを知ってる転生者がいたとしたら、まだヒロインが登場する前にしっかりと“婚約者”になっているかもしれない。
ライバルキャラがヒロイン対策を講じている転生系の話はもはやテンプレと言っていいくらいたくさんあった。
物語の強制力とか信じて、ヒロインムーブかましたら返り討ちにあうとかシャレにならない。やってられない。
そもそも、私は今の生活に何の不自由も感じていない。
前世は正真正銘の庶民だった記憶がある。生活のために働き、ご飯を作り、掃除洗濯もこなしていた。
それは今も変わらなくて。
母は3年前に亡くなった。女手一つで私を育てようと毎日一生懸命働いてくれていたが、風邪をこじらせてあっという間に帰らぬ人になった。
他に身寄りがなく、途方に暮れていたが、母が働いていた酒場の常連だったパン屋の店主が私を不憫に思い、職と家を与えてくれた。
丁度娘さんが結婚し、遠くに引っ越してしまったので、働き手を探していたということもあるらしい。
住まいはパン屋の2階に使っていない部屋があり、そこをタダで貸してくれた。
自宅に娘さんが使っていた部屋もあるのでそこでもと考えたらしいが、ある程度自立した生活を覚えた方がいいという配慮だった。
そうやって平民として生きて、贅沢は出来ないけど衣食住に困らない有難い生活を送れている。
それを急に、貴族として生きろとか言われても窮屈に感じるに決まってる。
平民からしたら貴族なんて、雲の上の人たちだ。
しかも、ゲームの攻略対象者たちは貴族の中でも高位貴族ばかりだったはず。
高位貴族なんて、天上人くらいの存在に思えるのに、ゲーム通りになるのは困る。
それに貴族の習慣も覚えないといけないし、貴族学園に通ったら勉強もしないといけないではないか。
だから、とてもめんどくさい。
前世の私も、基本的には面倒くさがりだったし、今の私もどちらかと言えば面倒くさがりの部類だ。
パン屋の定休日には一日外に出ず、ゴロゴロ寝ていることも多くて、パン屋の女将に外に出て恋人でも作ってこい!と叱咤されることも多い。
生きるのに必要だから働くけど、基本的には何もしたくない。
こんな私がヒロインなわけがない。
ゲームの強制力があるかどうかもわからないし、とりあえず一旦なにも考えなくてもいいか。
それより今日は迷惑かけたから、明日はしっかり働かなければ。よし、寝よう。
面倒くさがりで楽観主義で、ついでに前世の社畜精神が受け継がれている私は、さっさと寝ることにした。
そして、それからしばらく変わらない日常を送っていたが、ゲームのストーリーよろしくある時子爵家に見つかり、引き取られることになった。
パン屋の店主と女将と離れるのは寂しかったが、貴族の力に抗えるわけのない平民には断るという選択肢はない。
その上、子爵家の対応はかなり理性的だったし、なにより店主と女将が父親がいたことそれが貴族だということを喜んでくれたのだ。
お世話になった人のそんな姿を見てもわがままを言えるほど、私は精神的に子どもにはなれなかった。
もしも、私の父だというソルナ子爵が所謂悪徳貴族のようであればすぐ逃げ出すことも考えていたが、それも見当違いだった。
「本当にすまなかった。私がもっと早く君たちを見つけられていれば」
少し顔色が悪い目の前の男性。私と顔立ちがそっくりな父・ソルナ子爵はそう謝ってくれた。
「いえ・・・あの、私は母からあまり父親の話とか聞いてないんです。よければ、教えて頂けませんか」
「そうか。ああ、君には知る権利があるね」
そういって話してくれた話は、ゲームでもあまり詳しくは描かれていない話だったように思う。私が覚えていないだけかもしれないけど。
そもそも母は元々男爵令嬢で、父であるソルナ子爵とは幼馴染であり恋仲だったそうだ。
それもあって婚約し、もうすぐ結婚というところで男爵家が没落し、平民となった母は子爵家の嫡男であり一人息子の父と結婚することが出来なかった。
父はかなり抗ったようだが、先代子爵・・私にとっては祖父が厳格な人で、平民の母との結婚は認められず、そうこうしている間に母は消息を断ったらしい。
爵位を継承し、領地経営の引継ぎ等忙しくしながらも母を探していた父が、やっと母の存在を見つけたときには母は既にこの世にはいなかった。
その上、娘の存在がいるとしり他の人と結婚したのかと悲しみにくれていたが、念のためと娘のことも調べたところ父親がおらずそれも年齢的に母が消息をたったタイミングに身ごもっているということを知る。
「まさかとは思ったけど、これだけ似てるとね、どうにも疑いようがないよね」
「・・・はい」
「君にはこれから不自由させないよ。私は結婚もしてないし、よければここで、一緒に暮らそう」
「はい、よろしくお願いします」
その言葉に、にっこりと笑った父の顔はやっぱりコーネリアに似ていた。
穏やかな母はきっとこういうところが好きだったんだろうなとわかってしまうほど、父は私のことも尊重してくれる優しい人だった。
大好きな母を一途に好きでいてくれたことも良く伝わり、私はソルナ子爵の娘として生きることを受け入れた。
こんなに良くしてもらうと抗う理由もないし、なによりそこに使う労力がめんどくさいと感じたのは秘密だ。
「そして、こうなると、ね」
馬車から降り、大きな建物を見上げる。
ゲームでも見たことがある建物。これから通う学園だ。
ゲームのストーリー通りに、この学園に通うことになってしまった。
ただ、ゲームと違うのはゲームスタートは入学式の時だったはずだけど、今はその時期からふた月程時間が経っている。
平民として暮らしていた私が、突然学園に通うことを私はもちろん父も心配していた。
だからひとまず、マナーを付け焼き刃にはなるが家庭教師から学んでいた。
最低限のことを身につけた段階で、学園に転校することを父と決めた。
通わなくていいならそれでいいが、貴族としていきていくと決めたのだ。
なにより良くしてくれている父のためにも、ソルナ子爵家を絶やさないためには私が婿養子を取ることが必須。
突然降ってわいてでた貴族令嬢が、それなりの縁を繋ぐためには学園に通うしかない。
気は進まないが、仕方がない。
既にゲームのストーリーから外れているしゲームに巻き込まれるのは大変面倒なので、このままゲームとは別の現実世界として進んでいってもらいたい。
私が子爵家に突然引き取られた子どもということで、貴族の間では噂になっていたらしい。
そして、その子が転校してくるから、学園では注目の的だった。
「やあ、君がコーネリア・ソルナ嬢だね」
そして、恐れていた事態は学園に通いだしてから早々に起こってしまった。
攻略対象者が目の前に現れてしまったのだ。
「あ、えっと、ごきげんよう。ウィリアム・マンフレッド王子殿下」
「ああ、いいよいいよ。学園内では、かしこまった挨拶とかいらないよ」
「ありがとうございます」
今私の目の前にいるウィリアム殿下とその側近たちは、このゲームの攻略対象者だ。
その人たちに囲まれている今この瞬間、私はとにかく逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。
でも出来ない。さすがにこの国の第二王子と高位貴族を目の前に勝手に逃げ出せないと理解している。
「急に悪いね、君がつい先日まで市井で暮らしていたと聞いて、その話が聞きたくてやってきたんだ」
「市井の話を、ですか?」
「そう、街を見ることは出来るけど、暮らしていくのはまた違う話だろう。そういう所に興味があってね」
平民上がりを茶化しているのか、ただ純粋な興味か。
貴族は表情から気持ちを察されないようにするべし、家庭教師にそう教わったくらいだからこの王子様からもその意図は読み取れそうもない。
前者だとしたら王族として最悪だから、後者であってほしいところね。
「ですが、私が王子殿下にお伝え出来ることなんて・・」
「この学園では、身分を考えすぎなくていいよ。逆に言えば僕も今でないと君にこうやって気安く聞くことも出来なくなってしまうからね」
どうやら逃げられないようだ。
下手に逃げて、所謂おもしれー女枠に入っても困るし、大人しく従う方が良さそう。
そうやってウィリアム殿下や他攻略対象者からの質問に答え、終わると思ってた。
けど、ゲームの強制力なのか、その後も事あるごとに攻略対象者たちと接する機会があった。
なんなら記憶を頼りにして避けているはずなのに、ゲームのイベントと同様のことが発生することも度々ある。
例えば図書館で授業で習う国史の復習をしている時、
「この本の方が教科書よりも噛み砕いて書いてあるから、参考にするといいよ」
なんて言ってウィリアム殿下が現れた。
その姿は状況こそ違うがゲームでのスチルと似ていた。もっともゲームでは授業で共同発表することになった2人が図書館で共に勉強する内容で、私はその共同発表の相手は当たり障りない男爵令嬢と早々に組んだので避けたはずだったのだが。
そんな感じで私がイベントを避けたのに、似たようなシチュエーションでイベントと同じような出来事が発生するためなんだかんだと攻略対象者との接触が避けきれなかった。
そしてそんなことが起きているから、ライバルキャラの御令嬢にも絡まれるようになってしまう。
「子爵令嬢のくせして、王子殿下に近づいてもよいと思ってますの」
「平民上がりが、公爵子息に色目使うなんて」
「マナーも出来てないから、侯爵令息に平気で近づけるのよ」
陰口も呼び出しもしっかり受けている。正直溜息しか出ない。
こっちだって別に求めていないのに、高位貴族から近づかれたら逃げる手段なんて持たない。
なのに、私から近づいて色目使っていると言われるのは大変遺憾だ。
かといって私の意見等聞いてくれる人がいない今の状況で、誤解を解くため必死に頑張るのも大変面倒くさい。
「はあ・・・ソルナ子爵家の存続は厳しいかもしれない・・・」
誰もいない中庭で、一人ベンチに座り溜息をつく。
せっかく交友を広げるためにと入れてもらった貴族学園なのに、交友を広げるどころか完全に遠巻きにされている。
なんなら、攻略対象者の婚約者候補の御令嬢達からは嫌われているくらいだ。
婚約者候補の方々ももれなく高位貴族なのに・・・。
このゲームのヒロインであるコーネリアはメンタル強すぎないか?
この状況でも攻略対象者と仲を深めてハッピーエンド迎えられるわけでしょう?
好きな人と一緒になれれば、それ以外はどうでもよかったのだろうか。
このままではソルナ子爵家の存続に関わる。
婿養子が取れないどころか、没落させられかねない。
「それは困る」
ここはもう、面倒くさいとか言ってられない。
このままでは、せっかく出会えた父にも迷惑をかけてしまう。
その上、私が不幸せになるところを亡くなった母にも見せたくない。
一念発起した私は、とにかく頑張った。
ゲーム知識を使いながら、攻略対象者とその婚約者候補が仲良くなるようサポートしたのだ。
騎士としての生き方しか知らずそのままでいいのか迷っていた公爵令息には、その姿を支えてくれる侯爵令嬢の存在を気づかせた。
華やかな容姿で社交界のカリスマのように扱われながらも周りの優秀な側近仲間に劣等感を抱いていた侯爵令息には、その全てを理解し包み込んでくれる伯爵令嬢を。
医学者の家に生まれながらも優秀な兄の陰に隠れ、自分の存在意義を見つけられない伯爵令息には、医学以外の道を進んでも構わないと諭してくれる伯爵令嬢を。
宰相の父を持ち、自身もその地位に就くことを期待され重圧に押しつぶされそうになっている公爵令息には、その重圧に共に戦ってくれる公爵令嬢を。
恋のキューピッドの名をつけられても良いくらいには、とにかく仲を取り持ち続けた。
「いやぁ、我ながらいい仕事したなぁ」
最近はめっきり来なくなった中庭で、久々にのんびりしていた。
私のナイスアシストにより、カップル達は続々と婚約を結んでいく。
おかげで、御令嬢方からの評判も上がり、私のことを遠巻きにしていた同級生とも普通に話が出来るようになった。
一人になる時間も久々なのだ。
ここなら一人になれると思っていたのに。
「それで?君の幸せはこれからなのかな?」
「うっウィリアム殿下!」
「だから、ウィルでいいって言ってるのに」
「無理です、愛称でなんて呼べないです」
私の一人の時間を邪魔しに来たのは、ウィリアム殿下。
当たり前のように、私の隣に座ってくる。
ちなみにウィリアム殿下ルートのライバルキャラは、先日公爵令息と婚約した公爵令嬢。
そう、殿下ルートと宰相子息ルートはライバルキャラが共通だったのだ。
どうしてそんなシステムにしたのかは謎だが、どちらかのルートに入るとライバルキャラがそのキャラの婚約者候補として現れる。
そしてある程度攻略が進むと、選んでないほうのキャラと公爵令嬢との婚約が決まりライバルキャラがフェードアウトするシステムだった。
私が公爵令息とくっ付けるように動いたのは、公爵令嬢の態度があからさまだったから。
わかりやすく公爵令息のことを気にかける公爵令嬢が可愛すぎて、気合を入れてしまった。
今ではすっかりラブラブカップルとして、学園内の羨望の的となっている。
「君は散々、みんなをカップルにしといてそれだけでいいの?」
「それだけで良いわけではないですよ。ここがやっとスタート地点ですから。私は私で婿候補を探します」
そう、私の目標は当たり障りない婿を見つけて、ソルナ子爵家を存続させていくこと。
高位貴族に目をつけられていては、穏やかな学園生活は出来ないからこそ、とにかく収まるところに皆さん収まっていただいただけだ。
「ふーん・・・婿養子か、ソルナ子爵には君しか子どもがいないもんね」
「そうですね、皆さんが知っている噂通りの家ですから。それでもいいと言ってくれる婿を見つけないといけません」
突然現れた子爵令嬢については、どこから漏れるのか事実が一番有名な噂として広まっている。
もうこれに関しては開き直るしかないとして、あとはそれでもいいという男性を見つけるしかない。
「じゃあ、僕とかどう?」
「はあ!?」
殿下のあまりの発言に淑女らしからぬ声を上げてしまい、パッと口を押さえる。
不敬にもとれるそのリアクションにも、ケラケラ笑って殿下は流してくれる。
「兄が立太子してもう結婚もしてる。僕は臣籍降下する予定だし、婿に入ることも可能だよ」
ウィリアム殿下は第二王子であり、側妃の子どもだ。6歳上の第一王子は正妃の息子で、生まれた時から第一王子のスペアとしてしか扱われて来なかった。
ゲームの中ではその自分の存在意義に迷い、兄である王太子を引きずり降ろそうとする派閥に担ぎ上げられることに戸惑い、兄との関係にも悩むそんなキャラクターだった。
だが、この現実の第二王子からはそんな悩みなどはあまり感じられない。
そういう点では、公爵令嬢が第二王子狙いでなくて助かった。この人相手の手助けは難しかったかもしれない。
「ですが、さすがに王族が子爵家に婿入りは前代未聞ではないですか?」
「そうだね、でも伯爵家なら前例は存在するし、僕が婿入りするとなれば、爵上して伯爵位になれば問題ないよね」
「そんな簡単に・・・」
「王族が婿入りするってなれば簡単だよ。それにソルナ子爵家は堅実な領地経営をしているし、領地の場所も色々な領地に挟まれているから物流の要になってきているしね」
確かに広くはない領地だが、周りには高位貴族の広い領地に挟まれているような位置にある。
そのためそれぞれの領地から物を運ぶために通るのが、ソルナ子爵家の領地という人々は多い。
だから、ソルナ子爵家では道を整備して、宿なども充実させている。
街も活気があり、小さいながらもそれなりに発展した街づくりが行えていると教えてくれたのは、今もその発展を続けようと努力する父からだ。
「領地をお褒め頂き光栄ですが、だからと言ってさすがに王族の婿入りは現実的ではないように思います」
「でも、それを実現させたいと思うくらい、僕は本気だよ」
「え?」
「僕は、それくらいコーネリア嬢に惚れてるってこと」
突然の告白に、全身が熱を帯びる。特に顔が熱くなっているのを感じる。
ウィリアム殿下はそんな私を見て、嬉しそうに微笑む。
乙女ゲームのメイン攻略対象者の微笑みは破壊力が抜群なので、やめてほしい。心臓が痛いくらいに高鳴っている。
「お、お戯れを」
「ひどいなあ、本気だって。最初は見た目が可愛いなくらいだったけど。
市井の話を教えてくれただろう? あの時、わかってはいたけどやっぱり貴族と平民には生活の違いが大きくあると思ったんだ。
だからこそ、その違いを受け入れながら貴族に馴染もうと君はとにかく努力をした。そんな姿見てたらさ、なにか手を貸したいと、そればっかり思ってね」
その言葉の通り、ウィリアム殿下はよく私の手助けをしてくれていた。
図書室で自習をしていれば、わかりやすい参考書を教えてくれたり、ダンスが上手くいかなくて空き部屋で一人で踊っていたらアドバイスをくれた。
側近とその婚約者候補の方々の仲を取り持つのも、私が何をしようとしているかいち早く気が付いて、手伝ってくれていたのも知っている。
「君が王族と結婚することを重荷に感じるのはわかる。けどその辺りは僕が全て請け負うから。だから、君には僕自身をどう思うか考えてほしいな」
殿下の顔をじっと見ていられなくて、私は俯く。
いつもの何を思っているかを隠す微笑みではなく、すごく真剣な表情をするから、今そんな顔されたら誰だって完敗だろう。
だって私は、殿下の手助けがいつも嬉しくて仕方なかったんだから。
「本当に、私が重荷を一人で背負う必要はないんですよね?」
「もちろん」
「私は殿下が思っているより、立派な人間ではないです。勉強だってダンスだって、本当ならやりたくないくらい面倒だと思ってます」
「それでもやらないと、自分以外の誰かに迷惑がかかるから努力できるところ素晴らしいと思うよ」
「婿を取るなんて息まいてますけど、でも私自身領地経営とか全然ですし、領民の信頼だってまだまだないに等しいから苦労しますよ」
「それなら僕の得意分野だよ。いつか臣籍降下するために領地経営は学んでる。人心掌握ももちろんね」
「あとは・・えっと・・・」
「コーネリア」
膝に置いていた手を、殿下が取るから、私は顔を上げて殿下を見る。
「僕は、君が好きだよ。コーネリアは?」
「・・・・好きです」
もう何も言い訳が浮かばなくて観念してそう答えると、殿下は微笑む。
そのまま手を引かれ、殿下の腕の中に私の体がすっぽりと埋まった。
はあ、これから面倒なことがいっぱいだなあ、めんどくさいなぁ
殿下の腕の中で、そんなことを思ってしまうくらいは許してほしい。
だってどんなに面倒でも、もう逃げる気なんてないのだから。
もっとコーネリアと殿下が絡むシーンを混ぜ込みたかったなと反省しております。
最後までお読みいただきありがとうございました!