だから、私は泣いたのだ
私は泣いたのだ
「好きです」
その一言を言うのに、いったいどれだけの月日を要しただろうか
たった四文字の言葉が、私の喉につっかかって出てくるものかと四本足を突っ張るのだ
恋、などというものがこの世界にはあるらしいと、どこかの物語で聞いた気もする
自分の胸に燃えるその持て余すほどの炎がそれであると気がついたのはいつだろうか
それがそれだと気がつくのに、いったいどれほど砂時計の砂は落ちただろうか。
淡く、眩しく、苦しく、明るく、暗く、苦くて、嬉しい
それを説明するための言葉が多すぎて途方に暮れたことが何度あったことか
それをたった四文字にまとめてみせた過去の偉人を私は全力で讃えながら全力で呪いながら全力でぶん殴ってやりたい
ふざけんな、そしてありがとう、と
「……あ、の」
「ん?」
「……いえ」
相変わらずその四文字は私の喉が居心地がいいようだ
そこから出たら形が変わってしまう気がして、それがそれでなくなってしまう気がして、だからきっと、彼らはここから出たくないんだろう
でもきっと、そうやって彼らを大事にしすぎた結果、私は私の青い季節の自覚が少しだけ、あの人よりも遅くなったのだ
「こんにちは! はじめまして!」
「……え?」
「わぁー! かわいい! こんなかわいい幼馴染みがいるなんてずるいぞ!」
……誰?
「……こんにちは」
嘘みたいに張り付けた笑顔を、私はうまく見せられただろうか
私は泣いたのだ
私の少し前で、私には見せたことのない顔で笑うのか
そんな顔をさせられるほどに魅力的なのだろう
私から見てもそう思うほどに二人の笑顔は輝いているから
ああ まぶしい
まぶしいな
これが本物か
これが恋だの愛だのというやつか
これが青い春を迎えることのできた二人か
「……好きです」
今さらになって出てきたその言葉は喧騒に消されて輝く二人には届かない
「……好き、です」
それでも、ようやく出てくる勇気を持ったその子を、私は大事にかみしめる
ようやく出てきた嬉しさと
それが届かない悲しさと
届かなくて良かったと思う安堵と
届けば良かったと思う後悔と
名前をつけることができないほどのいろんなそれらをその子に込めて
「……好き、です」
私しか聞いてないその言葉の代わりに
私は泣いたのだ