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閑話 リノン・ベス1


 

 「おい、見たか?スゲー美人がいたぞ」

 「見た見た!赤い髪の子だよな?やばいな、アレ。美人過ぎて直視できなかったわ」


 「私、教会から出てくるところを偶然にも見かけたのですが…思わず見惚れてしまいましたの。同じ女性にこんな感情抱くなんて、初めてですわ」

 「わかります…わたしもお見かけしたとき、神々しすぎて眩暈がしましたわ」


 「同じ新入生とかラッキーだわ。声かけてみようかな?もしかしたらワンチャンあるかもしれねーし!」

 「やめとけって!お前なんて視界にも入れてくれねーよ。てか、性格クソ悪かったらどうするよ?」

 「あー、ありえるよな。平民のことなんて虫ケラだとか思ってそうだよな」



 なんかザワザワしてるなって思ったら、そんな美人な人がいるんだ。みんな随分勝手なことを言ってるけど…見た目だけで判断されちゃうのはちょっと可哀想。でも、そんな美人さんなら私も見てみたいなぁ。新入生っていってたし、この講堂にいるのかも。


 「えーっと、前から二十列の四十番は、っと……あれ…」


 私の席の隣にめっちゃ綺麗な人がいる。横顔だけでわかる、ヤバイ美人さんだ。赤い髪が綺麗…って、もしかして…この人がさっきの噂の?やだ。なんか緊張する。顔面偏差値違いすぎるんだけど……


 ソロリと席に着く。美人さんはキョロキョロ辺りを見てるけど特に私に対して反応はない。けど、私は気になっちゃうよ~。


 長い長い校長先生の挨拶が終わって、レイモンド殿下が壇上に上がる。女の子の歓声がすごい。当たり障りの無い挨拶をしてるだけなのになんだこの盛り上がり。まあ、たしかに殿下はイケメンだからね。

 

 「すごい人気ね」

 「王子様だもんね~。しかもイケメンだし!」


 美人さんと目があった。

 本当だ。まじで美人。緩いウェーブを描く髪は腰ほどの長さの鮮やかな赤い髪。パチパチと瞬きをして、不思議そうに私を見つめる瞳は落ち着いた琥珀色。………なんて綺麗な人なんだろう。

 そんな人が私ににっこりと微笑んでくるし、なんだか口説き文句まで言ってくるし!心臓がバクバクいってるよ~!


 隣の美人さん…エステルは、話してみたら普通にいい子だった。無垢と言うか純粋というか。とにかく性格も可愛い。あのレイモンド殿下に対して特に反応がないのもポイント高い。イケメンだなぁ。とは思うけどその程度なんだよね。なるべく関わりたくないし…まあ仕事で絡むのはどうしようもないけど、学園では他人でいたかったし。……けど、殿下は早速エステルに目を付けたみたい。挨拶をしながらもこちらを伺ってるなーとは思ったけど…もう露骨に見てる。エステルのことめっちゃ見てる。もうちょっと壇上で挨拶してる他の先生とか、期待に胸膨らませてる新入生とか、殿下にアツい視線を送る女子生徒とかそちらにも視線を向けてあげてよ。エステルに穴が空いちゃうよ。

 今度はアートルム先生と話し出した。視線はこちらに固定されてるけど。今度紹介してくれって、エステルのことだよね?なんでアートルム先生に?先生とエステルは知り合いなの…?



 「ご、ごめん!気持ち悪かったよね?!」


 またやっちゃった。また、気持ち悪いって思われた。こんな美人さんと折角お友達になれそうだったのに……

 人の会話を盗み見る。最低なことだと思う。でも見えちゃって、口の動きだけでなんて言ってるかわかっちゃう…知りたくないことだって、たくさん知ってきた。だからやめようって思ってたけど…私の苦痛を救ってくれる人が現れて。

 そしてその恩人と同じことをエステルが言うから、本当に驚いた。エステルの言葉がどれだけ嬉しかったか、きっと分かってないよね。……友達になりたい。この子の傍にいたい。この子が困ったときに絶対に駆けつけて、力になる、守るんだって、決めたの。

 ふふ。変だよね。さっき知り合ったばかりでまだちょっとしか話してないのに、私はあなたのことが、大好きになったよ。

 

 だから、本当に驚いた。

 エステルが、モーヴさんの出した火の球に入っていったとき…心臓が止まるかと思った。


 「エステル…!エステルっ!!」


 なんで、どうして。誰も助けてあげないの。

 ここは魔法科で。魔力持ちがいて、殿下も先生もいる。それなのに、誰一人動こうとしない。みんなボーッと火の球を見てるだけ。どうしてよ。死んじゃうよ…!

 私が、私がいくしかない。なにもできないかもしれないけど、この魔法を止めることくらいなら…!


 「待て。ベス」

 「っ…先生!!エステルが、モーヴさんがっ…!!」

 「大丈夫だ」


 なにが!なにが大丈夫なのよ?!

 炎が渦を巻くように天井にまで到達してるし、火が強すぎて二人がどうなってるのかすら見えない。

 けど…スウッと、突然炎の勢いが弱くなった。二人の姿が辛うじて見える。動いてる。無事みたい……ああ、良かった。本当に良かった…。


 「エステル…?」


 何かを喋ってる。

 炎のせいで良く見えないけど、口許が動いている。


 「…せいしつ…?きょうりょく、魔力のかたまり…あつめると、せいしつが…かみなり…?」


 ああ、もう炎が邪魔。エステルは何の話をしているんだろう。せいしつ、性質?魔力の塊とか、雷って…


 「続けて?」


 レイモンド殿下…!いつの間に私の近くにいたの?!今の、聞かれてた…!


 「続けなさい」

 「っ!」


 にっこりと微笑む殿下の目が全く笑っていない。

 ああ、嫌い。本当に嫌い。

 嘘の笑顔を振り撒いて好感を得ようとするところも、自分の利益のためだけに人を利用するところも、当たり前のように命令するところも。


 そしてそれに屈してしまう自分も、本当に本当に、大嫌い。




 「エステル…!ほんとに、ホントに大丈夫?!どこも痛いところない?!」

 「ふふ、大丈夫よ。リノン」


 

 よかった。どこも怪我してないみたい。いつもの元気で明るいエステルだ。

 えー!嬉しい。エステルがお茶に誘ってくれた……けど、ダメみたい。アートルム先生が左のローブの袖を軽く払った。“席を外せ”ってサインだ。

 まあ、そうだよね。なんでエステルがあんな魔法に詳しいのか気になるし、先生の研究の助けになるかもだしね。それ以外に理由は…無いよね?あのアートルム先生だもん。大丈夫……だよね?まさかエステルの美貌にやられて、無理やり迫っちゃう……なんてねっ!ちょっと恋愛小説読みすぎちゃったかな。恥ずかしい!


それより、注意すべきはレイモンド殿下だよね……。殿下は入学式からエステルのこと気にしてる感じあったし。

 もしかして、エステルの魔力量に反応したのかな。王族は魔女の血を引いてるって言われてるから、魔力量の多い人が分かるとか。あんなに綺麗ですごい魔法を簡単にやってたもんね。きっとエステルの魔力量は凄いんじゃないかな。

 あれ?そういえば呪文とか唱えてなかったような…気のせいかな?詠唱なしで魔法は発動しない筈だから、私が聞きそびれただけかな。今度聞いてみよ!


 とりあえず目下の目標はレイモンド殿下からエステルを守る!二人っきりにはさせないようにしなきゃ!殿下が何を企んでるのかわからない。エステルは私が絶対に守るんだからっ!

 

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