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 「うぅっ…ぐっ…!」

 「うんうん、分かるわ。身体が裂かれるように痛むでしょう?さあ、落ち着いて。息を吸って~吐いて~」


 さっきまでの威勢は飛んでいってしまったみたいね。今は私の言葉に反抗する余裕もないみたいで素直に従ってくれるわ。良かった良かった。


 「呼吸が少し楽になったでしょう?今度は掌をだして。そう。そこに魔力を少しづつ集めるようにイメージするのよ」

 「っはぁ…!はぁ…!」


 背中を擦りながら震える掌を支える。チラリとすみれ色の瞳が私の方を向いた。涙で潤んでとても綺麗だわ。その苦しんでる表情もとても色っぽい。なんだかムズムズしちゃう。これがキュンってやつかしら。ツンケンしてる子が涙を流して弱ってる姿を見ると守ってあげたくなるような、さらに虐めちゃいたくなるような


 「っあ、アナタ、どうして…!」

 「恩を返してあげてるのよ。このままだと死んじゃうわ」

 「そんなのっ…くぅっ!!」

 「ほらほら、呼吸も集中も乱れてるわ。ゆっくり、暴れる魔力を掌の上に集めるのよ。風船を魔力で膨らますように、少しづつ…そう、上手ね」


 歯を食い縛りながら頑張って魔力を集めてる。一生懸命な子は好きよ。この子もきっととても真面目な子なのね。なんで私にあんなに怒ったのかは分からないけれど。


 炎の膜が薄くなってきた。向こう側の人影がようやく分かるくらいね。生徒皆がこちらに注目してる。それにしても、先生も王子サマも何をしているのかしら。ただボーッと突っ立ってるだけなんて。生徒が目の前で燃え尽きそうになってるのに、私一人に任せちゃっていいの?応援とか援護とか全くしてないけど。


 「これは、いったい…」


 書記サンの掌に集まった魔力がパチパチと小さな電気を発し始める。うん、順調ね。



 「これが貴女の性質よ」

 「どういう…」

 「貴女の暴走した魔力は、溢れだした貴女の中の純粋で強力な魔力の塊なの。そしてそれを集めると魔力はその性質が現れる。貴女の場合、相性のいい魔法は雷。だからそうやって電気を帯びた塊になっているのよ」

 「雷が、わたくしの…?」

 「ええ。だからさっきみたいに相性のよくない炎魔法を無理矢理、しかも身の丈に合わないような大きな魔法を使おうとしたから暴走してしまったの。でも、結果的に適正が知れたのだから良かったのかもね?雷の魔法に適正がある人は少ないから貴重よ。魔法師団なんかじゃ重宝されるんじゃないかしら」

 「雷が、わたくしの…魔法……」



 そんなに瞳をキラキラさせちゃって。適正が知れたのが嬉しかったのね。きっとこの子、魔法で苦労してたんだわ。炎や水は一般的で使用頻度が高いから使いがちだけど、この子はうまく調整できなかったり不発で終わったりしてたんじゃないかしら。こんなに雷の適正があるのだもの。他の魔法はうまく発動できないでしょうね。


 「じゃあ次はこの炎の膜を消しましょう」

 「ど、どうやって?!もうわたくしの意思とは関係なく燃え続けているのですよ?」

 「魔法を使うに当たってイメージすることはとても大事だと先生が言っていたでしょう?少しづつ、ゆっくりでいいからすべての魔力を体内に戻すイメージよ。それと同時に炎も少しづつ鎮火していくように。この炎も貴女の魔法なんだから、人任せにせずちゃんと後片付けしましょうね?」

 「わ、わかってますわ!」


 書記サンがしかめっ面で目を閉じると、炎の膜は少しづつ薄くなって消えた。上手ね。


 「うんうん。偉いわね。良くできました」

 「っ?!ちょ、ちょっと!気安く触らないで下さる?!」


 頭を撫でたら手を払われたわ。ツンデレって凄まじいわね。顔がほんのり赤くなって涙目でキッとしちゃって。可愛らしいわ。ニコニコしちゃう。これはたしかに人間の男なんてイチコロだわ。


 「二人とも、怪我は?」


 またヌッと現れたわこの先生。もうちょっと早く来なさいな。私が対処できなかったらどうするつもりだったのよ。それに、外側からも魔法を打ち消すなり被害が広がらないように何かしらの対処……は、してたのね。生徒全員に防御の魔法がかかってるわ。それに、あんな火の塊が教室のど真ん中にあったのに机も床も特に焼け焦げるような事もなく、相変わらず綺麗なままだわ。成る程、ここは魔法科の教室だものね。こういった事故は起こるものだから教室の備品には汚れたり壊されたりしないよう保持の魔法がかかってるのね。賢いわ。



 「私はどこも怪我してないわ。けど、書記サンは魔力暴走を起こしたから休ませてあげた方がいいわ。今は興奮状態だから意識があるけれど、一度に大量の魔力を消費したからもう暫くすると気絶するはずよ」


 って言った側から倒れたわ。書記サン。あら。王子サマが颯爽と近寄ってヒョイとお姫様抱っこしちゃった。教室の生徒の黄色い悲鳴が凄いわ。


 「僕が保健室まで連れていくよ。もう授業どころじゃないだろうしね」

 「…ああ。では、モーヴを頼む」

 「じゃあ、またねセウレイア嬢。今度ゆっくりお茶でもしよう。招待させてくれるかい?」

 「もちろん、喜んで。楽しみにしているわ」


 にっこりと微笑み合う。この緊張感のある空気、なんだかクセになりそうだわ。お茶会にも招待してくれるようだし、恋人へ一歩前進ってところかしら。副会長サンも付いていくみたいね。そんなオロオロしてないで、二人の荷物を回収するとか、王子サマが歩きやすいように道を作るとか堂々とすればいいのに。折角綺麗な顔してるんだから自信持てばきっとモテると思うのだけどね。



 「エステル…!ほんとに、ホントに大丈夫?!どこも痛いところない?!」

 「ふふ、大丈夫よ。リノン」


 本当に優しい子。とても心配させちゃったみたいね。オレンジ色の瞳に涙をいっぱい溜めてるわ。


 「ああ、よかった…。エステルにもし何かあったら、私…」

 「心配してくれてありがとう。ほら、もう授業は終わりらしいし、甘いものでも食べに行きましょう?」

 「待ちなさい、セウレイア」


 うわ。なんだか物凄く嫌な予感がするわ。リノンも、そんな苦笑してないで。「甘いものはまた明日にしよっか」なんて、私を見捨てないで


 「君は私の研究室に来なさい。報告書を提出してもらう」

 「えええ~~っ」

 「頑張ってね!エステル!じゃあ、また明日!」 


 脱兎のごとく勢いで教室から出てったわ。というか、もう私と先生しか居ないじゃない。どういうことよ。


 「付いてきなさい」


 ああもう、面倒だわ……甘いもの食べに行きたかった。別になにも食べなくったって魔女は死なないけれど、食事はいいわよね。満たされる感じがするし。特に甘いものは好きだわ。ふわふわとした気持ちになるから。それなのに、報告書だなんて……もう、転移で逃げちゃおうかしら。その前に先生の記憶をちょっといじって報告書を書いたって事にして………は、ダメなのよね。人間の生活に馴染まなきゃいけないんだもの。はぁ…とっっっても面倒だけれど、私が学園で過ごすと決めたのだから、ルールは守らないとダメよね。仕方ない、頑張りますか。明日絶対にリノンと甘いもの食べに行ってやるんだから!頑張れ私!エイエイオー!



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