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 「まさか、エステルからお茶会に誘われる日が来るなんてなんて思ってもなかったわ。誘っても断られたり、来たとしても話しも聞かずボーッとしてることが多いあの、エステルが!まあ場所はいつもと同じエレナの家だけど」

 「随分な言い方するわね、レダ。家については仕方ないじゃない。今はエレナの所に居候させて貰ってるんだから。学園の寮に呼ぶわけにもいかないし」

 「学園かぁ~。なんだかエステル楽しそうだし~。私も行ってみたくなってきたなぁ~」

 「でしたら、エステルが卒業して落ち着いたら、リーエが入学してみますか?エステルは色んな意味で目立っているでしょうし、さすがに連続で異色の人材が入学してきたら学園側に怪しまれるでしょうから…時間を空けて、になりますが」

 「それもいいかも~。前向きに考えておくわ~」

 「ちょっとエレナ。私はちっとも目立つことしてないわよ。品行方正で大人しく慎ましやかな淑女になってますー」

 「あら、ふふふ。そうだったんですね」



 信じてない。ちっとも信じてくれてないわ。


 夏の燦々とした日差しが照りつける大きな屋敷の大きなサンルーム。エレナの魔法で涼しく保たれてるけど外は暑いのよ。夏って過酷よね……。初めてこんな暑い国があることを知ったわ。春のポカポカとした心地よい日が懐かしいわ。これからもっと暑くなるって言うんだもの。なんだか信じられないわ。

 このエレナのサンルームに来るのも何回目かしら。ここがいつもの私達のお茶会の場所なのよね。お茶会と言っても昼間に開催されるのはなんだか久しぶりな気がする。いつも深夜だものね。みんなの話は長くて退屈だから、私はいっつも窓から見える星を見てたりするの。だからお茶会は本当はあまり好きじゃないし、呼ばれたから渋々参加するって感じなのよね。行かなかったり、断ると後々面倒でうるさいんだもの…



 「そうそう、エステルは学生になってたんだった。なんでそんなことしてるんだっけ?」

 「え~。レダちゃん、忘れちゃったの~?エステルは人体実験をするために学園に行ったのよ~。人間の内部構造を弄ってみたいな~久しぶりに血が見たくなったな~って、言ってたじゃない~」

 「違うし、言ってないわ」

 「あー、確か魔獣討伐隊を結成するとか言ってなかったっけ。弱くて知識のない人間をイチから教育し直すために学園に潜入して」

 「恋人!恋人作りのためよ!」



 私をなんだと思ってるのかしら?!もう。クスクス笑ってるし、ふざけたことばかり言うんだから。


 ムスっとしてたら、目の前に可愛らしい茶器がふわりとテーブルに置かれ、そこに注がれた紅茶から優しいバラの香りがする。落ち着く香り…流石エレナだわ。



 「学園は気に入って貰えましたか?この前贈られてきたクッキー、とても面白かったですよ。初めて食べた味でした」

 「あー!あの赤い星のクッキーね!口の中が痛くなる食事なんて始めてだったし、楽しかったわ」

 「あれね~驚いたよ~。エステルが作った新しい毒が仕込まれてるのかなって思って成分調べたら、ただの唐辛子だったの~。ふふっ。あんなに驚いたの久しぶりだったな~」



 ほらね。魔女仲間には絶対にウケると思ったのよ。仮に毒を仕込んでたとしても、それはそれで「エステルが殺しに来るなんて驚いた~」って笑いながら言ってくれると思うのよね。

 魔女にとっての本当の毒は退屈だもの。少しの衝撃を与えられただけで満足だわ。ニンマリしちゃう。



 「それで、エステルのお望みの恋人はできたの?」

 「出来たわ」


 仮だけど。



 「え~すごい。エステルのことだから、もっと時間がかかるかと思ったのに~」

 「私のことだからってどういう意味よ。その気になれば恋人なんて簡単に出来るって言ったでしょ?」


 仮だけど。



 「で?その人間の男とは最後まで出来たワケ?お子ちゃま卒業?」

 「…気持ちの準備が出来るまではゆっくり、段階を踏んでからって。…恋人のことは、大事にしたいらしいわ」


 仮だけど。



 「へ~。なんだかよくわからないけど、詰まらない人間だね~。そーゆー男、私は嫌いなんだよね~。重いっていうか、ダルいっていうか~」

 「私もリーエと同じ。よくそんなメンドーな男を恋人に選んだわね。絶対愛を求めてくるタイプよ。うっ、魔女に愛を求めるなんて、考えるだけでもゾッとしちゃう。もっと軽く付き合える男なんて他にもいるんだから、そんな男記憶消して捨てとけば?」



 仮だけど…………!

 何故かしら。恋人(ディアス)を貶されると…悲しいし怒りも込み上げてくるし、不快。物凄く不快だわ。

 でも言い返せない。リーエとレダの言うことは、まったくもってその通りだと思う。

 私は早く恋人を作って、みんなの言う夜のコトをしてみたかった。お子ちゃまだって言われないように、他の魔女に恥ずかしくないくらいで、出来たら自慢できるようなレベルで適当な人間の男なら誰でもよくて。…でも、思ったようにはいかないし、人間の男から声をかけられることもないから恋人なんて当然出来なくて。それで苦肉の策で、偶然目の前にいたディアスに声をかけたら承諾してくれて。だから、それで満足してた。実際に私の望んでいるコトは出来ていないし、お子ちゃまなままだけど……

 

 それでも、受け入れてくれたのはディアスなんだから。私の、はじめての恋人なんだから。



 「いいじゃない。別に焦る必要ないでしょ?それに、思ってたより学園生活が楽しいのよ。毎日なんやかんやで忙しいし…卒業まで時間があるんだから、楽しみは取っておくわ」

 

 ズズっと紅茶を飲みながら澄まして言ってみる。なんだか府に落ちてないような、詰まらなそうな視線は無視させて貰うわ。エレナだけはあいかわらずニコニコしてるけど。



 「そんなことより、ほら。皆にお土産持ってきたの」

 「この前の赤いクッキーがお土産だったんじゃないの?」

 「それとは別よ。学園で見つけて、好きそうだなって思ったから………」



 レダには、刺繍セット。綺麗なビーズ付きよ。針やカラフルな糸、刺繍枠や小物まで一式。先生に、知り合いに教えたいって言ったら沢山譲ってくれたの。私が刺繍にハマってると思ったからか、「セウレイアさんも是非どうぞ」って、私にも糸やビーズ、リボンとか沢山くれたのよね。こんなに良くしてくれたんだもの。先生に勿論恩をお返ししたわ。ビーズ刺繍で作った紫色のトルコキキョウのブローチ。ただのブローチじゃないのよ。少しだけ回復の魔法をかけたの。もし針で指を刺して怪我をしても、いつもの十倍くらいのスピードで早く治る、とかそんな感じ。あれ?!気付いたらもう治ってた!ってやつね。

 

 「……針と、糸?と丸い枠?なにこれ」

 「刺繍セットよ。あとでやり方を教えてあげる。本もあるから、読んで待ってて。はい、次はリーエね」


 

 リーエには、野菜や花の種や苗、それに土と肥料、それとスコップや小物類…すごく多いし重いけど、リーエなら転移魔法使えるし、問題ないわね。

 これも貰い物なのよね。あの庭園を手入れしている庭師に、花の美しさに感動したことを伝えて、知人に勧めたいからどこに行ったら一式買えるか聞いたら、「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!ホレ、古いヤツだがまだ使えるから持ってけ!」って譲ってくれたのよね。確かにクワとかスコップは多少の汚れもあったけど、それは魔法でピッカピカにさせて貰ったわ。

 勿論庭師にもお返ししたわ。疲れにくい魔法をかけたグローブ。これで庭作業も少し楽になると良いんだけど。



 「え~。なんで私は土なの~?魔法でいくらでも作れるのに~」

 「家庭菜園セットよ。これで野菜や果物、綺麗な花とか沢山のものが自分の手で育てられるの。残念だけど私は知識がなくて詳しいことは教えてあげられないんだけど、本は用意したわ。あと…たぶん、だけど、リーエの恋人は若くない、というか歳を重ねた人なんでしょう?その人なら詳しいんじゃないかと思って。たぶん」

 「ん~。確かに私の恋人は人間生活のいろーんなことを知ってるのよね~。でも、そんなもの育てて何が楽しいの~?売ってるじゃない~」

 「感動があるわよ。自分の手でイチから育てたって言うね。それに、恋人と二人で作ったり手入れするのも楽しいかもよ?」

 「う~ん。そっか~。じゃあやってみようかな~暇してたし~。私の恋人、知ってるかなぁ。今度聞いてみよ~」



 じっと本を読み出したわ。興味ないものは見向きもしないリーエだから、読み込んでくれるってことは悪くないって意味ね。レダも首をかしげながらも「これ綺麗!」とか、「こんなの作れるの!?」とか楽しそうに読んでるし、うんうん、好感触ね。



 「はい、エレナには…この子よ」

 「これは………小鳥?」



 私が持ち上げた鳥籠の中には、大人しく止まり木にちょこんと座る小さな小鳥が首をかしげてこちらを見ている。

 籠に手をいれると小さく飛んで私の指に飛び乗った。



 「随分馴れてますね」

 「そうなの。初めて会った時からこんな感じでね。人に飼われてて逃げたのか…すごく大人しくて賢いのよ」



 全体的に白色で頭頂と尾羽がピンク色、羽が黄緑色の小さな小鳥は私とエレナをひっきりなしにキョロキョロと観ては首を傾げる。

 この鳥はあの庭園で私に止まってきた小鳥なのよね。

 あの日から、この鳥は何故か私の部屋を見つけたらしく窓をツンツンして入れろっていうから、部屋に招いたりしてたのよ。本当に愛らしくて、しばらく飼ってたんだけど…やっぱり、鳥は小さな部屋じゃなくて大きくて広い自然のあるところにいるのが一番だ思うの。だから窓を開けて放したりしたんだけど何日かするとまた戻ってきたりしてね。このまま寮で飼うことも考えたけど、私は部屋にいることが少ないし寂しくさせると思って…



 「それで、エレナならって思ったの。この屋敷の敷地は広い森で危険なケモノも魔獣も居ない。それに、エレナならきっと可愛がってくれるって思って…。でも、生き物を飼うのは大変だから無理にとは…あっ」


  話し終わらないうちに小鳥はパタパタと飛んでエレナの頭上をくるくると回る。そしてエレナが手を持ち上げるとそこに大人しく着地し、じっと見つめながら小首を傾げる。あの子の得意技だわ。あれで何度悩殺されかけたかしら。

 人間の魔法が進化したように、鳥も生き残るためにあざとさを身に付けたのかと思って書記サンに聞いたら、「そんな事あるわけ無いでしょう。バカですの?」って言われちゃったわ。

 それにしてもエレナは流石ね。あの悩殺ポーズをされても悶えること無くじっと小鳥を見つめてる。


 「もしかして…」

 「エレナ?」

 「あ、いいえ…。あのエステル。この子に名前は付けたのですか?」

 「それが、候補をあげても暴れて嫌がるの。しまいには逃げ出すし」



 いろんな素敵な名前を言ったのよ。“カラアゲ”とか“ヤキトリ”とか“バンバンジー”とか。それなのに、あの小鳥は物凄く嫌がってビービー鳴いたり暴れて飛び回って私の髪をグシャグシャにしたり、無視して逃げ出したり…大変だったわ。一体何が気に入らなかったのかしら。エレナに名前の候補を言ったら、「面白い語感の名前ですね」ってクスクス笑われちゃった。うーん、とても良いと思ったんだけど伝わらないことが残念だわ。



 「…この子の名前が、この子の中にあるんですね」

 「そうなのかしら。やっぱり飼われてたって事よね?じゃあ飼い主を探した方が…」

 「いいえ。この子の記憶を少し読みましたが、人間に飼われていた訳ではないようです。自然の中にずっといて、そして…導かれてここに来た」



 他人の記憶を読むのは、エレナの得意魔法なのよね。私もつかえない、凄く難しい魔法だわ。少しでもやり方を間違えると、相手の記憶や感情を消して廃人にしたりしちゃうし、逆に相手の記憶にこちらが飲み込まれて出てこれなくなったりする、恐ろしく難しい魔法。それを小鳥相手に簡単にやってのけるなんて……本当に凄い魔女ね。

 そんなエレナは小鳥から視線を外すと、私に向かってにっこりと微笑んだ。



 「この子は…私の方で責任もって引き取ります」

 「え、いいの?飼うまでしなくても、許可を貰えば森に放そうかなって思ってて」

 「賢い子ですから、森に放しても戻りたい場所に勝手に戻ってくるでしょう。…この子は、私のところに来たかったようなので。ここまで導いてくれたことに、エステルに感謝しなければなりませんね」

 「いいのよ。私はなにもしていないから。むしろ、エレナが引き受けてくれてよかった。それにこれは…私から皆への恩返しだから」



 レダ特製の指南書にリーエお勧めの恋愛小説、付きっきりで一般常識を叩き込んでくれたエレナ…。すべて、本当に助けられてるわ。受けた恩は必ず返す。どう返そうか悩んだけど、皆それぞれ気に入ってくれたみたいで本当によかったわ。



 「……このお返し、有り難く受け取っておくわ。じゃあエレナ、私は先に帰るわね」

 「え、レダ。刺繍を教えるわよ」

 「平気よ。この本、分かりやすいから自分でも出来そうだし。…どうしても分からないところがあったら、聞くかもだけど…」

 「ふふっ。そう、分かったわ。いつでも連絡頂戴」

 「私も先に帰るね~。なんだか土作りが大切らしいの~。難しいね~、思ってたより時間がかかるみたい~。本を読んでたら早くやりたくなっちゃった~」

 「そうですか。ではリーエも、また次回」

 「は~い、じゃあね~」

 「じゃーね。エステル、エレナ」

 


 慌ただしく帰っていったわ。私の手土産が相当気になったのかしらね。



 「エステルはプレゼントを選ぶのが上手ですね。レダとリーエの、あんなにワクワクした表情を見るのはなんだか久しぶりです」

 「そうなの?気に入ってくれたかな、とは思ったけど…」

 「とても気に入ったと思いますよ。楽しみにしているお茶会を切り上げてしまうくらいですから。私も、この子をとても気に入りました」



 エレナが優しく微笑みながら小鳥を指先でそっと撫でる。小鳥はとても心地良さそうに目を細め、小さくピィと鳴くと飛び立ち、エレナの肩に止まった。



 「…なんだか、絵になるわね」

 「そうですか?」



 エレナの長くて綺麗な白髪とルビーみたいな赤い瞳に、白い体に薄ピンクと黄緑色の羽をした可愛らしい小鳥。

 お似合い、って感じるわ。まるで昔から一緒にいるみたいに違和感なく溶け込んで、馴染んでいる。何故かしらね。ついさっき初めて小鳥と会わせたばかりなのに…不思議だわ。



 「エレナ、その小鳥の名前はどうするの?…あ、気をつけてね。名前が気に食わないと本気で暴れたりつつかれたりするから」

 「…………シャロ、この子の名前はシャロです」



 喜んでる。あの小鳥めちゃくちゃ喜んでるわ。嬉しそうにピィピィ鳴いてエレナの頬に頬擦りしちゃってる。ハートマークが飛び散ってる幻まで見えてくるわ。

 なんなのかしら。私の時と反応が違いすぎるんだけど?!エレナへの贔屓が過ぎるわ。一緒に過ごした時間は私の方が長い筈なのに、どういうことよ。


 

 「どうやら、この子も気に入ってくれたみたいです」

 「むう……シャロ、ね。確かにいい名前だと思うけど…なんだか理不尽だわ。私の名前候補もなかなかだったと思うんだけど」

 「ふふ。……エステル、紅茶のおかわりはどうします?」

 「もう大丈夫よ。レダとリーエも帰ったし、私も帰るわね。明日からまた学園生活だから、予習しとかないと」

 「まあ……。思っていたより真面目に学生をしていて驚きました。まだ、魔女であることは誰にも知られていませんか?」

 「ええ。言いつけ通り魔法も極力使わないようにしているわ。それに、人間の魔法の技術も凄く進歩していてね。大きな魔法を使わない限りバレることはないと思う」

 「確かに…ここ数年で飛躍的に技術が進歩しましたね。この功績は、サージェスの魔法師団の団長によるものらしいですよ」

 「へーそうなんだ?」


 魔法師団ねえ…諸外国がまだ魔法に対して二の足を踏んだり排除の対象にしているなか、初めて魔力を持つ者達で編成された部隊、だったかしら。発足当初はサージェス国内からも少なからず反対の声が上がったらしいのよね。国外の反応は相当だったようで、今でも微妙な立ち位置だって、授業で少しだけ習ったわ。その部隊が作られたのもわりと最近で、今の団長で二代目なのよね。しかも若いって聞いたけど…まあ学園で生活してたら国の騎士団やら魔法師団なんかと関わることなんてほぼ無いだろうし、あんまり興味ないのよね。

 それにしても、この手の話題にエレナが詳しいなんてね。魔法に関わることだし、エレナも興味があったのかも。



 扉を開けてサンルームから外に出る。

 うわ、やっぱり暑い。陽射しが強くてギラギラしてる。この暑さでも夏の始まり…本番はどうなっちゃうのかしら。



 「エステルの恋人はどんなヒトなのですか?」



 思わず振り向いてエレナの顔をじっと見つめる。

 驚いた。まさか魔女(エレナ)が私の恋人に興味を持つなんて。


 基本的に魔女は人間に興味はない。

 レダやリーエの恋人をみたいに、ごく稀に魔女の興味を惹くような人間と出会うこともあるみたいだけど……。魔女と人間は姿形は似ていても相容れない、理解し合えない生き物だと認識しているから。だから私みたいに恋人を作ろうと一生懸命人間と関わるのは、実はとっても珍しい、ある意味では異常な行動なのよね。

 それは理解してるけど…エレナが興味を持つとは思わなかった。私がどんな人間を恋人に選んでも、その恋人の性格やら人間性なんて全く興味もないだろうし聞かれないだろうって。

 そんな私の困惑が顔に出てたのか…エレナは困ったように微笑んだ。

 


 「レダもリーエも気にしていましたよ、ずっと。今日色々聞くつもりだったみたいですが、エステルのプレゼントで興味がそちらに逸れてしまったみたいですが」

 「そう、だったの…。全然気にしてる感じなかったのに」

 「エステルがクズな男に泣かされて帰ってくるんじゃないか、悲しい思いをしていたら生徒を学園ごと潰して新しく作り替えちゃおうか、とか色々不穏な話をしていました。ですがエステルが楽しそうに話すので安心したのでしょうね。エステルは魔力量は歴代の魔女の中でも飛び抜けていますが、まだ生まれて間もないですからね。心配していたのですよ、皆」

 「………ふふっ。もう、なにそれ。生まれて間もないって、もう百年くらい生きてますけど?」

 「それでも、私達からしたらエステルは赤子のようなものなのですよ」



 なんだか胸がくすぐったいわ。

 私、心配されてたの…知らなかった。今度会ったとき、私の恋人が良い人間で、今のところ泣かされる要素が全く無いって話そう。そして、安心させてあげなきゃね。



 「私の恋人、教師なの。魔法科の先生よ。年齢は……うーん、分からないけど若いわね。色白で黒髪で紺色の瞳の背が高い人よ。名前はディアス。ディアス・アートルム」

 「………そう。そうですか」



 エレナは優しく細笑んでくれる。いつか、皆に紹介したいわ…出来るかしら。



 「じゃあ帰るわね」

 「気を付けて。最近、他の国で魔獣が多数出現しているそうなので、エステルももし見掛けましたら宜しくお願いしますね」

 「魔獣…他の魔女が仕事をサボってるのかしら。困ったものね。私の方でも時間が空いたら対処しておくわ」

 「サボっている、だけなら良いのですが……エステル、くれぐれも気を付けて」



 にっこりと微笑んで手を振りながら転移魔法を起動する。はい、私の部屋に到着。

 エレナは本当に心配性ね。魔獣だって何度も倒してるし仕事もキチッと行ってるから私は大丈夫なのに。他の国の魔女は何をしているのかしら。この国にまで被害が及ばないといいけど…とりあえずいまは予習ね。明日は魔法科だから、しっかり勉強しておかないと容赦なく差されるのよ。ディアスは学園だと無表情の厳しい先生だからね。さて、頑張りますかっ。




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