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 「それで、剣術のときに酷使したせいで朝から体が痛くて他の授業が辛かったわ。でも、あの木刀にかかってる幻影魔法は素晴らしいわね。普通の剣にしか見えないもの。あの男の子達のキラキラした目、レオン先生を尊敬の眼差しで見つめていたし、次回からの地獄の準備運動にも熱が入るんじゃないかしら。でもあの準備運動、本当に辛いのよ。何度か気を失いそうになったくらい……そう考えると、書記サンは凄まじいのよ。平然としてるんだもの。とても細くて可愛らしいのに、どこにあんな体力あるのかしら。彼女、雷の性質しかなかったから回復魔法とかは使えないはずなんだけど…最近の人間の魔法の進化は目覚ましいから、私の知らない魔法でも使ってたのかしら。でも書記サンって、優しい子なのよね。ツンケンしてるけど足の遅い私に合わせて一緒に走ってくれるし、「負けちゃダメですわー!」って応援もしてくれるのよ?あと授業が終わったらマッサージもしてくれて。それをやると、次の日に残りにくいんですって。それに、分からないことがあったらいつでも聞きに来ていいって言ってくれてね。本当に良い子よね。…そう、今日は副会長サンともお話ししたのよ。彼、料理がとても上手で驚いたわ。教えるのも丁寧でわかりやすくて、それに面白いのよ?書記サンと同じツンデレさんなの。それをリノンが揶揄うからなんだか意外でね。二人とも知り合いだったのかしらね?その二人のやり取りがおかしくって…って、あら、ごめんなさい。私ばっかり話してたわ」

 「いや、問題ないよ」



 やだ、恥ずかしい。一人で喋っちゃってたわ。つまらないなって思わせたかしら……チラッとディアスの顔を見たら、とても優しい笑みを浮かべてたわ。それに、気になってたんだけど私が話してる間ずっと私の頭や髪を撫でてたのよね。飽きないのかしらね。ディアスはよく髪に触れるのよね。赤髪が好きなのかしら。それに私も……不思議なことに、触られることが全然不快じゃないのよ。優しく、そっと触れるように撫でるから…むしろ心地よくて。うん、そうよ。それで話しすぎてしまったんだわ。



 「レオンの幻影は、君から見ても出来がいいのか」

 「ええ。とても良いわ。私の仲間に見せてもきっと驚かれるし、誉められると思うわよ?幻影魔法はコントロールが面倒だから私達もあまり使わないの。でもレオン先生はすんなり使えてたし…しかも、デザインが素晴らしいのよ!…ああ、剣を見せたかったのに忘れたわ。ちょっと待ってて」


 確か、あの木刀には決められた人以外が魔法を使うと痛みとして跳ね返ってくるのよね。剣を私の手元に転移させるのが一番楽なんだけど仕方ない。パッと自室に転移して剣を掴んでパッと戻る。あら、ディアスどうしたのかしら。目が真ん丸よ?



 「す…ごいな。転移魔法は幻影魔法以上の高位魔法だったはずだが」

 「そういえばそうね。使ってるうちに慣れたわ」

 「慣れ………」

 

 なんだか絶句してるディアスを無視してずいっと剣を出す。



 「ほら見て!あのクマみたいな先生からは想像も出来ないくらい凝っていて素敵なデザインだと思わない?!私、一目で気に入ったの」

 「確かに…レオンにしては繊細なデザインだな。あいつ、こんなことが出来たのか…。だが、エステルが持つには紺色は少し暗くて、地味な色味じゃないか?」

 「確かに暗いわね。でも落ち着いていて好きよ。あ…そうそう、レオン先生が“お前の事を愛してやまない夜をイメージした”とかなんとか言ってたわね」

 「なっ?!」



 あら?ディアス顔が赤いわよ。「レオンのやつ…!」って呟いてプルプルしてるし、怒ってるのかしら。


 「どうかしたの?私は夜が好きだから、この暗いデザインもイメージと合ってて好きよ。それにほら、紅い石と紺の石も付いてて素敵よね。赤は私の髪の色だと思うけど、紺の色は何故かしらね?…あら、そういえばディアスの瞳の色も」

 「そういえば!調理の授業も取ってると言っていたな!何を作ったんだ?!」



 なんだか焦ったように話をそらされたのが気になるけど…まあいいわ。ちょうど渡したかったし。


 「クッキーよ。はい、ディアスにあげる」

 「俺にか?」

 「ええ。誰にでも渡してる訳じゃないのよ?私の大切な人にだけ渡してるの。特にこの赤い星入りのクッキーは、更に特別な人にあげてるんだから」

 「そんな大切なものを俺が貰っていいのか?」

 「何を言ってるの。ディアスは私にとって大切な“恋人”なのよ?特別に決まってるじゃない」


 まだ残念なことに仮の恋人だけど。このお菓子作戦でグッと距離を詰めてディアスに押し倒して貰うんだから。

 

 ニッコニコで見つめてたら、ディアスは手を小さく震えさせながら受け取ってくれたわ。そんなに感動してくれると思わなかった。「本当にありがとう」って、泣きそうな笑顔で言ってくれた。うふふ。嬉しい。一生懸命作ったものをこんな風に喜んで受け取って貰えると、作った甲斐があるわね。なんだか気持ちがホカホカする。また何か作ったらディアスにプレゼントしましょ。



 「食べるのが勿体無いな」

 「ふふ。そんなこと言わないで。食べない方が勿体ないわ。ほら、この赤い星を食べてみて!私オリジナルの味にしてみたの!」

 「そうか、じゃあ一枚頂こう」



 パクリと口に入れ数回咀嚼した瞬間、ディアスは物凄い早さで立ち上がると激しく噎せた。

 いや、もうゴホォッ!グホッ!ガハァッ!って感じね。必死に手で口元を抑えて顔が真っ赤よ。息できてる?



 「ディアス、大丈夫?はい紅茶」

 「あ゛、あ゛りが、どう」


 声までガラガラじゃない。クッキーが相当ヘンな所に入っちゃったのね。勢いよく食べたからかしら。顔は赤いし目に涙まで浮かべて呼吸が荒い………あらやだ、色っぽい。なんだかドキッとしちゃう。私の方が押し倒しちゃいそうだわ。



 「これは…唐辛子か?」

 「ええ!そうなの。赤くしたくて沢山唐辛子を入れたのよ。だからほら、真っ赤でしょう?とても気に入っているのよ。味も刺激的でしょ?」

 「ああ、そうだな…。一瞬で目の醒める刺激的な味だった」



 気に入ってくれたみたい。良かったわ。「夜間任務に最適かもな」って言ってるし、先生は夜のお仕事もあるみたいだから時々差し入れに持っていこうかしら。



 「エステルは辛いものが好きなのか?」

 「うーん、どうなのかしら。今まで食事に関しては意識したことがなくて、よく分からないのよ。そもそも、あまり食べないのよね。数年なにも口にしないこともあるし…」

 「エステル、人間は食べなければ死んでしまう」

 「そうだった!そうだったわね、ええと、冗談よ。美味しいと思う食べ物をよく知らないだけよ」



 なんだか可哀想な目で見られてるけど。大丈夫よね?バレてない……よね?



 「じ…じゃあ、私は部屋に戻るわね!お仕事の邪魔してごめんなさい。また明日お邪魔するわ!」

 「ああ…おやすみ、エステル」

 「ええ。おやすみなさい、ディアス」



 剣を握って部屋に転移。ふう、危なかったわ。ついつい、人間のフリしてることを忘れちゃうのよね。人間は三食しっかり食べるのだったわね。食事をとるっていう習慣が無いから忘れてたわ。お昼にリノンに誘われることもあったけど、折角の自由時間だからってことで一人でふらふら学園探検か教会でお祈りしてたのよね………。明日からはリノンと食べてみようかしら。


 そういえば。リノンはと副会長サンからクッキー貰ってたわ。食べてみましょ……えっ!サクサクでほんのり甘くて…美味しいわ。紅茶とか水分は時々勧められて取るけれど、こういった食事は本当に久しぶりだわ。なんだか少しだけ満たされた気持ちになるわね。副会長サンのも美味しい。塩気があってリノンとはまた違った味だけど、気付いたら口に運んでた、みたいな中毒性がある気がする。さすが副会長サンだわ。レシピ教えてくれると言っていたし、今度つくってみましょ。

 ふふ。新しいことばかりで刺激的だわ。最初はどうなることかと思ったけど…学生も悪くないわね。

 

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