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 「へぇ~!それであんな素敵な剣を持ってるんだね!エステルに似合うよ~!」

 「ふふ。私も気に入ってるの。刀身も細くて綺麗だし、あのクマみたいな先生からは想像もできないくらいセンスの良いデザインだと思うわ」



 リノンがキラキラした目で見てくるからちょっと照れちゃうわね。

 チラリと壁に立て掛けた剣を見てから、手元に視線を戻す。うーん、このくらいかしら。先生は切るように混ぜるって言ってたわね。サクサクなクッキーを作るには捏ねてはダメなのだって。ヘラで切るように全体をザックリ、でもしっかり混ぜることがコツだって言ってたわね……矛盾してる気がするけど……難しい。剣術の授業で筋肉を酷使したせいか腕も痛いから余計に大変だわ。



 「皆さん良い感じですね。では、生地をひとまとめにして、冷室で冷やしましょう」


 へぇ~冷やすのね。後は焼くだけかと思ったのに。

 この調理と栄養の授業は面白いわ。魔女は食事をしなくても死なないから料理なんて殆どしたことが無かったけど…恋愛小説の主人公たちは、皆料理ができたのよね。それで言い寄ってくる男たちに手作りのお菓子やら料理やらをばら蒔いて好感を得ていたのよ。だから私も調理と栄養の授業をとったけど……これが存外面白くって、楽しくって。

 はじめの頃は包丁なんて持ったこともないから先生に悲鳴をあげられたりしたけど…私は料理のセンスがあったみたい。今のところ大きな失敗もなく出来てる。見た目は改善の余地があるけどね。



 「冷やす間に型を選んで、だってー。どんなのがいいかなぁ?結構種類があるね」

 「そうね。私はやっぱりこの星形…あ」

 「むっ」


 手が触れて、横を見たらあらビックリ。副会長サンだわ。

 眼鏡の奥の瞳が険しく…物凄く嫌そうな顔をされたけど、にっこりと微笑んでおく。


 「こんにちは副会長サン。貴方も星型にするの?」

 「べ、べつに!なんとなく手を伸ばしてみただけだ!」



 エプロン姿で腕組みしながらプイッとそっぽを向くのが何だかちぐはぐで可笑しいわ。思わず吹き出しちゃったらまた睨まれた。ふふ。悪いことしちゃったわね。だって面白いんだもの。許してくれないかしら。


 「ごきげんよう、グレイ・アルジャン先輩。…あれぇ~おかしいな~。エステルが挨拶したのに先輩は何も返さないんですかぁ~?」

 「むぅっ……ご機嫌よう。エステル・セウレイア、リノン・ベス」

 


 むすっとしながらも挨拶を返してくれたわ。彼はあれね、書記サンと同じタイプね。男のツンデレも悪くないわね…悪戯心が刺激されて、ついからかいたくなっちゃうわ。



 「副会長サンはおひとり?良かったら、こちらのテーブル空いてるし一緒に作らない?」


 剣術の授業と違って男女比が逆転してるわ。男子は副会長サンしかいない。その事をクスクスと笑う女子生徒も居るようだし…何が楽しいのか理解できないわね。人間って昔からこういうところ変わらないのよ。

 副会長サンも気を悪くしてるんじゃないかしら。折角の楽しい授業が台無しになってしまうものね。



 「別に、僕は一人でも何の問題もな」

 「アルジャン先輩の料理って、凄く上手なんだってー!私達、料理なんて殆ど初めてだから分からないこと多いし、是非色々教えてほしいよねぇ?エステル?」

 「え…そうね?是非?」

 「そ、そうか……そういうことなら致し方ない」




 リノンが恐ろしいわ。副会長サン、気付いてないようだけど掌の上でコロコロされちゃってるわよ。大丈夫なの?

 そんな彼はいそいそと元のテーブルから荷物を持ってこちらに移動してきたわ。「困った奴らだな」って顔してるけど満更でもないのよね。表情が心なしか明るくなってるし。



 「こういう風に乗せると扱いやすいんだよね」


 黒い。黒いわよリノン。ボソッと呟いてにっこりと笑顔を見せてくれたけど、なんだか新しい一面を見つけてしまった…嬉しいことね。そんな所も好きよ。



 冷えた生地を伸ばして型を抜く。私は無難にマル型と星型。リノンは動物の型で副会長サンは王冠の型と剣の型を選んでたわ。



 「うーん、星の形は難しいわね。角が取れてうまく抜けない…」

 「生地に薄く粉をまぶすと良い。ごく薄くな。あとは型を抜く時押し切るようにしっかり力をいれるんだ。細かいところは手でやらず細いスティックを使って天板に乗せるように押し出せば良い」



 凄いわ副会長サン。本当に料理が得意なのね……どんどん型抜きして、おまけに模様まで付けちゃってる。なんて高等技術かしら……


 「本当に上手なのね。凄いわ。なんだか私のに比べても綺麗に仕上がってるし、既に美味しそうよ」

 「慣れだな。数をこなせば誰でも上手くなる。あとは…食べてくれる人のことを考えながら、とか…すると、上達するんじゃないか?!」

 「なるほどね」


 副会長サン、顔がほんのり赤いわ。後半声が小さくなったり早口になったり、照れたのかしらね。とてもいいアドバイスなのだから、照れる必要なんてないのに……



 「ねえ、副会長サンは誰にあげることを考えて作ってるの?」

 「僕は……………………………殿下だ」


 顔がポッと赤くなる。これは小説で見た恋する乙女…じゃなくて乙男…


 「そうなの。副会長サンは王子サマに恋してるのね」

 「こ?!」

 「王子サマも、愛してくれる人が常に傍に居るなんて幸せね」

 「ち、ちがう!そんなんじゃない!」

 「うんうん、良いと思いますよ~。アルジャン先輩、応援してます~」

 「茶化すなリノン・ベス!お前も否定しろ!」


 副会長サン顔が真っ赤ね。恥ずかしがる必要ないのに。あの王子サマの性格がよく分からないけど、男からのプレゼントでも無下にはしないでしょう。ましてや、自分を慕ってくれる側近からのプレゼントだもの。毒の心配もないだろうし、安心して食べられるんじゃないかしら。


 それにしても…リノンと副会長サンは仲が良いのね。リノンが人をからかう所なんて見たこと無かったけど、副会長サンのことは気を許してるのか、なんだか楽しそうだわ。



 「エステル・セウレイア。僕は殿下を慕い尊敬して止まないが、恋などという愚劣な感情ではない。殿下はとてもお忙しい方なんだ。食事も睡眠も儘ならないほど。だから片手間にでも栄養の取れるものをと思いこうして作って差し上げているんだ」

 「まあ、素敵。とても良い心がけだわ。王子サマは素晴らしい臣下を得たのね。貴方みたいな人が側に居てくれるから王子サマも安心して頑張れるのよ」

 「いや僕なんて、何も……。でも、そう…言ってくれるか……」



 顔が赤く、はにかみながら物凄い早さで型抜きしてるわ。

 確かに副会長サンのクッキー生地はカラフルなものが多いなと思ったのよね。緑とかオレンジとか黄色とか赤とか。それをじっと見てたら、「野菜のペーストやチーズを練り込んであるんだ!少し塩味を効かせて食べやすいように、勿論バニラ生地も作ってあるからしっかりと糖分を取ることもできるだぞ!疲れたときには甘いものだからな!」ってハキハキとやや早口で教えてくれたわ。成る程本当に勉強になる。私もペーストの作り方から今度教えてもらおうかしら。


 「……エステルって、人タラシなんだね……」

 「なにか言った?リノン」

 「ううんー!何でもないよ!それより、エステルは何味作ったの?一つはバニラ生地だけど、この赤い方の生地は?」

 「それは僕も気になった。ストロベリーパウダーでも入れたのか?いや、それにしては赤すぎる…」

  「唐辛子よ」


 とっても鮮やかな赤の生地が出来て嬉しいのよね。私の髪色と似せたくて、何袋も唐辛子いれちゃった。二人とも愕然としてるけど、味はきっと悪くないと思うのよ。料理上手な副会長サンだって野菜やチーズを入れてるくらいだし、唐辛子だって刺激的で良いと思うのよ。長く生きた魔女ほど刺激的な物を好むらしいし、エレナは勿論レダとリーエも、きっと好きな筈よ。

 さあ、アドバイス通りやったら綺麗な星形に出来たし、あとは焼いてラッピングするだけね。




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