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あらあら。笑いすぎたせいで先生が拗ねちゃったわ。機嫌を直してあげないと。
「ごめんなさいね。先生が面白くて、つい。それで、報告書は?私は何を書けばいいの?」
「……ああ。それは…こちらの方で提出しておく。君には何があったのか聴取したかったから呼び出したようなものだ。魔法科では時々起こる事故だから、こうやって生徒に事情を聞くようにしているんだ。…まあ今回は魔法の規模も大きい上に報告する内容も精査が必要だが……」
そういうこと。よかったわ。報告書書かされなくて。先生は遠い目をしてるから、これから大変なんだろうけれど。御愁傷様。
「それで、さっきの……恋愛の、とかいうのは……いや、まさかな。俺の聞き間違いだ。済まない」
「私ね、恋人を作りたくて」
「聞き間違いじゃないのか……」
そんな唖然としちゃって。よほど驚いたのかしら。反応がいちいち面白いわね。
「私の仲間にね、“恋人が出来たこと無いなんてお子ちゃまだ”って言われてね。悔しくて。それで私も恋人の一人や二人、作ろうと思って学園に入学したの」
「………………」
「恋人が出来ると、とても心地よくて満たされると聞いたの。それがどんなものなのか、私も興味があるのよね。学園には若い人間が多いし恋愛に興味がある年頃の子も多いだろうから私にもすぐ出来ると思って。……それなのに…」
「……………」
「恋愛小説も沢山読んだし、指南書にも忠実なのよ?それにリノンとか書記サンとか、モテそうな可愛らしい子をお手本にして頑張ってるんだけど………ぜんっっぜんなのよ!!どうして恋人が出来ないのかしらっ!」
「………………」
また先生が頭を抱えちゃったわ。けど!頭を抱えたいのは私の方よ!本当に人間って摩訶不思議だわ。常に上から目線のレダや、なに考えてるか分かりにくいリーエには恋人がすぐ出来てるのに…どうして私には出来ないのかしら。エレナは……美人だし落ち着いてるからモテるのは当然よね。エレナ系だと思うんだけど、私。モテる筈なんだけど…おかしいわ。本当に
「実力行使しかないのかしら。指南書にはグイグイいくと引かれるって書いてあったけど、待ってるだけじゃ来ないのよ!それに、私の性に合わないわ。欲しいものは勝ち取りにいかなきゃよね!そうと決まればそこら辺歩いてる人間に今晩のお相手になってくれるか聞いてくるわ!じゃあ失礼するわね、先生!」
「待て待て待て待て!」
もう。何よ。折角意気揚々と立ち上がったのに、急に腕を引っ張るから驚いたじゃない。
「君は……男なら、誰でもいいのか?もっと…君を大切に思ってくれる、そういう人をと、思わないのか?!」
「あ。最初は王子サマかいいんじゃないかなって思ったのよね。見た目も良いし性格もなんだかスリルがあるし」
「やめろ。絶対だ。あいつはやめておけ」
えー。王子サマはダメなの?あちらも私の事をかなり意識してると思うのだけど。私の恋人候補その一がダメ出しされてしまったわ。
「うーん、どうしましょう…もうこの際誰か適当な人でいいから居ないかしら。一時期だけの都合のいい恋人でいいのよ。永遠なんて求めていない。私の事を一時だけ愛してくれさえすればいいの。なんなら、他に恋人がいても全然構わないし、一夜だけでもウェルカムよ」
「…本当にそれでいいのか?もっと自分を大事に…愛し愛される人と幸せになりたいと、そう思わないのか?」
「あら。私は生まれたときから常に幸せよ?あとは恋人さえ出来れば完璧ね」
「……………」
そんな衝撃的だったかしら。唖然と、顔色悪く私の方をぼおっと見つめてるわ。
先生は愛に拘るのね。私にはわからないし、必要の無い感情だわ。愛されているという実感だけさせてくれれば、それが嘘でも全然構わないのだから。
………あら?そういえば、先生も人間の男よね。背が高くてスラリとしてる。顔も小さくて肌が白い。でも男の人なのよね。ちゃんと鍛えているからか体つきはしっかりしているのよ。さっぱりと短い黒髪も、落ち着いた紺色の瞳もとても素敵だわ。…たしか、女子生徒も噂してたわね。生徒の中では王子サマが一番人気だけど、教師陣ではアートルム先生が一番だって。
…あらあらあらあら。もしかして、灯台もと暗しってやつでは?これは、アリなのでは…!?
「っ…そうよ!そうよね!!何故気付かなかったのかしら?!」
「こ、今度はどうした」
「先生が私の恋人になればいいんだわっ!!」
「ハァ?!」
「これ以上ないくらい最適よ!!見目もいいし真面目で生徒の人気もある!好条件好都合!ねえ、先生!いいでしょう?私と恋人になりましょう?!」
「待て待て待て待てっ!」
んもう。この先生私に何回待てって言うのかしら。犬じゃないんだけど。でも私はちゃんと待ってあげる。だって超優良物件だから、逃がしたくないのよ。