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滅ぶ前にゃー叫ばなやめれんッ!!!  作者: シ流つっけ
レグナトール家〈前編〉
9/42

憑かれたのは誰?

~前回までのあらすじ~




 芒紋レイを持たぬ者を人とは思わぬ傲慢な貴族、ルーゴと死の料理対決で勝負する彼岸丸達。彼らはルーゴの極悪非道レシピ〝ブロッコリー・イン・ロブスター〟の前に絶体絶命の大ピンチを迎えてしまう。一貫の終わりと思われたその瞬間、彼岸丸は老師スーの助言により、原始のレシピ〝マンモスの叩き〟を現代へと蘇らせる事に成功する。しかし、努力虚しく彼岸丸は敗北し、彼はダイオウイカにされてしまった。彼らは屈辱の中、リベンジを果たすため暗黒料理舞闘会へと向かう。




「いや、向かわないからッ!」




 ミアは突然叫んだ。叫びたい年頃なのかもしれない。




「うぅ……どの足から出せばいいか分かんねェよォ~……全然…分かんねェんだよォ~」




 足が十本に増えた彼岸丸。いや、実際は増えていない。ただの着ぐるみだ。フェルト生地の丸い目の下に、これまた丸い穴があり、そこから泣き顔を覗かせいる。




「……バカヤロー…オメー……スットコドッコイ…ドッコイショ?」




 大きな大きなたこ焼きが、森の茂みから現れる。真ん中の丸い穴から顔を覗くのはもちろん、いつもジト目のスーちゃんだ。




「あ…貴方は……カイザー・オクトパスッ!!」


「…フン……旧い名………今は只のたこ焼きの流れ者………。


 時に……キミ…何に悩む……?」




「じ、自分ダイオウイカになるの初めてでッ……一体、歩くのにどの足から出せばいいのか全然分からなくってェッ!」


「……バカヤロー…オメー……スットコドッコイ…ロッコンショウジン?」




「あ、使い回し」


「足が二本しかねェヤツは黙ってろォ!世の中〝数〟なんだよォオ!!」


「……二話越しの大ブーメラン」




「……バカヤロー…イカが歩くんじゃねー…」


「そ、そんあァ!それじゃァここから進めねェッ!!」




「バイバイ♪」


「え?ミアさん今まで不愛想だったのにここにきていきなりにこやかになるのやめてせめてともにききをのりこえるなかでだんだんうちとけてゆくほうこうで……」




「絶・対・無いよ♪」


「カイザァァァァァァア!オレは一体どうすればァア!?」








「……ッ泳げェエ!!進みたきゃ泳げェェエエエ!!!三千世界の荒波を越えて行けエェエエエエ!!!!」








「こうして30分後、オレ達は地表を猛烈に背泳ぎするダイオウイカに乗ってレグナトール家を目指す最中であったァッ!!」


「いや、泳いでんのアンタじゃん……」




「そうッ!オレはダイオウイカッ!!イカの中のビッグキング=王の中の王ッ!!!」


「……森…開けてきた……前方…大きな壁……発見…」




 スーが指を差す。銀と黄金の雲の下、断崖を囲うようにして巨大な城壁が拡がっていた。




「王の帰還じゃゴラァァァァア!地表の者共よ思い出せェエ!!一体〝真の王〟が誰なのかをなァァァア!!?」


「少なくともイカでは無い」








「いや、存外それで良いのかもしれんな……至る結末は現王より、数段マシであろうよ?」








 それは達観した視点から世を憂うような男の美声。つまりはイケボが聞こえた。




「危険を察知ッ!目の前にきゃあわいい金髪幼女ッ!!安全装置起動ッ!!! GOクラーケンブーストォオ!!!!」


「なぜ加速するぅ!?」




 ミアは思わず目を瞑った。魂が置いてかれたような加速の後、ダイオウイカが勢いを旋回して止まったのを肌で感じ取り、恐る恐る後方の…幼女が立っていた場所を見る。




「なるほど?光となり、質量を無くしたか……」




 イケボの発信源には無傷の幼女が立っていた。修道服のゆったりとした腕で、ツギハギだらけの縫い包みを抱えている。


 ミアの頭の中に〝嫌な可能性〟が過ったが、振り払って幼女の安否を確認する。




「ごめんねッ!?キミ、怪我無かったッ!?」


「案ずることは無い。私は望んでこの軌道に立っていた。周期と縁を合わせてこの接点を用意する……キミには理解できるだろう?イマミア・アルティシムス」




 やはり、イケボは幼女の方から聞こえる。しかし、ミアは諦めない。だって縫い包みの頭で幼女の口の動きは確認できない。縫い包みに鼻先まで埋めて、クリクリのおめめで物言わずこっちを伺っているだけであって欲しい。望みは有る。まだだ。まだ縫い包みという線があるのだ。




「わー。その縫い包みちゃん、おしゃべりできるのー?すごいねー」


「フッ、煙に巻くのもまた良かろう……。私は只、どこかの誰かさんが更地にした教会の修理費を請求しに来ただけだ。まぁ、事のついでに一目見ておこうと思ってね?」




 ミアは青ざめた。ダイオウイカは尋常じゃない汗をかいている。スーは明後日を見つめる。




「あぁ、心配には及ばない。請求は旧友に済ませてきた……本当はアノ建物自体、訳あって管理しているだけのどうでも良いものだったのだが、如何せん、私の元にいる者達の食事や嗜好品に費やす金がかさむものでね……」




 ミアたちの反応に、幼女は瞳は悪戯っぽく細められる。




「ま、まさか……そんな………本当に…この声はアノ子から?……あんな無垢で幼気イタイケな子から……?いや、在り得ない…信じたくない」


「その通りだッ!ミアッ!騙されるなァ!!」




 彼岸丸が、ダイオウイカの穴から軟体生物の様ににゅるりと飛び出した。驚きの余りスーの背中の輪郭が逆立った。




「アノ子にはッ!間違いねェエ!!イケボな悪魔が憑いてやがるんだァァァァア!!!」




 ミアは不覚にも、バカの主張に納得してしまう。誠に不本意だったが、そうであると信じたかった。




「……何やら誤解があるようだが?この姿についてだが……」


「うるせェエ!悪魔ァア!!喰らいやがれェ劇場型チート奥義スキル第五番ッ!!〝エクソシストが異世界に転生した件〟ッッッッッ!!!!」




 飛び上がった彼岸丸の紅玉が輝く。その苛烈な光芒は空間を裂き、どこからともなく天に続く白い階段を呼び寄せた。その神秘的な段は、真っすぐに幼女に向かっている。




「何?この意味深な階段は?……まさか、これは悪魔を成仏させるための象徴的な儀式道具……アイツ、今回は本気なんだッ!」




 ミアは初めて彼岸丸に期待した。今回ばかりは彼岸丸に頑張って欲しい。アノ幼女の〝あってはならない〟声の采配を否定するためにも。


 そして、期待に応えるかの様に、彼岸丸は天に最も近い最上段に現れた。




 神々しいまでにカーブを描いた〝ブリッジ〟の態勢で。




「うん?」














「あ…悪魔はァ……どこじゃァ…?あ…あく……悪魔わァァァあ゛ァァア!!!どこじゃァァァァァァア!!!!!」












 奇声を発する彼岸丸。そのままの勢いで、階段を猛烈に駆け下りる。腹を天に突き出すブリッジの姿勢のままで。










「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!悪魔はお前だあああああああああああああ!!!」










 どうか神様さっきまでの私を殺してください、と願うミア。




「……流石…彼岸丸………見事な…悪魔祓エクソシスト……」




 口を△にして感心するスー。




「いやッ!どうみてもアレがはらわれるべき対象でしょぉお!?」




 何ということだ。最初から希望なんか無かったのだ。自分の味方なぞ、どこにもいやしない。ガックリと地面に沈むミア。






「落胆する必要は無い。コレは必要な因果だったのだ」






 落ち込む少女の肩を、幼女が優しくさする。何だか、慣れてくれば、もうこの声で良い気がしてきた。




ブタイは用意してもらった。ならば、私はコトを為すだけだ」






 幼女は縫い包みを天へ放ち、叫ぶ。




全智ハ既ニ此処ニ無ク(グノーシス)




 雲を別ち閃光が奔る。




「|尚モ罪ハ刻マレ続ケヨウ《オウル・イマナシオン》」




 ソレは荒ぶるバカのお腹に直撃する。




汝罪ヲ忘レル事ナカレ(リ・グノーシス)




 階段の丁度半ばに光の十字架。




「|以ッテ私ハ汝ノ罪ヲ赦ソウ《アイン・ソフ》」




 仰け反ったままはりつけにされて、なおバカはまだ暴れ出す。




「|故ニ汝ハ健ヤカナル時ヲ戒メト共ニ《エマナシオン》」




 その哀れなバカに幼女は一段ずつ、歩み寄ってゆく。




「|病ム時ハ深ク苦シミヲ受ケ入レ《メートリコス・アガペー》」




 バカは最早言葉も忘れて、獣の様に吠え散らかした。




「|其ノ歩ミヲ止メル事無ク《パトリコス・エルピス》」






 幼女は、そんな牙をむき出して、首だけになってでも噛みつかんとする獣の額に、小さな手をそっと添える。そこにポワッとした光が灯ると、バカは一層強い発作を起こしてから電源が切れたかのように気を失った。




「|永遠ナル私ノ元ヘ訪レヨ。汝ヲ溢ス事ナカレ《アーエイヌース・シュネシス》」




 幼女が最後の詠唱を紡ぎ終えると、十字架の白も、階段の白も、同時に弾ける。それらの薄く、細かい破片たちは、光の魚の群れの様に螺旋を描いて天へと昇っていった。




 幼女はその中心で浮いたまま、停止した彼岸丸を観察する。




「……コチラの神の光を多少流しておいた。それで、少しは時が稼げるだろう……」


「訳わかんない……」



 拗ねるミアを、空気に身を任せる幼女は横目で伺った。


 すると幼女は、揺蕩たゆたう光の破片をちょんと指先で突く。








「いや、キミは分かっている筈だ。

 この者は在り得てはいけないモノ。




 彼はこのままでは、間違いなく消滅する」








 氷の華の様に薄い破片は、間もなく透明に、空へ


 とけていった。




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