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滅ぶ前にゃー叫ばなやめれんッ!!!  作者: シ流つっけ
レグナトール家〈前編〉
8/42

少年の戦い

「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……」


 ナイフとフォークを両翼の様に拡げ、一歩ずつ得物ルーゴへと迫るグルメ神査官ミシュラン。自分が纏っている守護精霊フォレスターとは違う。なぜなら守護精霊ルアクが主から離れて、一人でに歩いて来るなんて聞いたことが無い。


 その異質な紙袋仮面に、たじろぎそうになるルーゴだったが、意を決し二つのリィーヴァを前方へと伸ばした。先端は巨大な爪鋏で、相対するグルメ神査官(ミシュラン)ナイフとフォークを弾き飛ばす。


「……ハハッ!やってやったぞぉ」


 それでも、神査官しんさかんの歩みは止まらない。


 焦燥に苛立ちを覚えるルーゴ。伸びた爪鋏が首を狙った。デスサイズとも言えるその禍々しい凶器は、容易く彼の細い首を切断するであろう。


 しかし、その切っ先は寸前の所で止まる。


「ッ!?何だとぉ!?」


 鎧竜の爪を止める物。

 それは〝チョップスティック〟だった。


「……焦るなよ…前菜が」


 大振りの爪に対し、神査官しんさかんは最小限の動きで、スッと箸で摘まんだのみだ。なのに、ルーゴは捕らえられた僅かの爪の先が、岩の山で固められた感覚に陥る。というか、アレって喋れたんだ、とミアは思った。


 堪らず、ルーゴは両爪を引っ込めた。



「出した皿を引っ込めるとは、往生際が悪いぜ?」



 ところが、それよりも早く神査官しんさかんはルーゴの眼前に現れた。


「我は〝お預け〟が嫌いでね?早速だが、貴様の〝メイン〟を頂こうか?」


 異様に長い脚の垂直蹴り。鎧竜のアギトが天を向く。


「あ゛……あ゛…ま…まって……」


 箸の進行を止められぬ守護精霊フォレスター。硬直するルーゴの頭へその矛先は向かい………圧倒的インパクトの双璧。その片翼を司る右ブロッコリーがぎ取られた。




「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」




 轟く断末魔。



「いただきます《You will be my soul》」



 合掌は心の内の手で、神査官しんさかんは一切の鮮度を堕とさぬ速度でブロッコリーを喰らった。




「どォーだァ?そいつの味はァ!?さぞかし性根の腐った味がすんだろォ!??」


 一部始終を満足そうに眺めていた彼岸丸は、神査官しんさかんに味を問う。


 クッチャクッチャと静かな間。


 当の当の片翼を失ったブロッコリー星人は、事切れたかの様に両膝を着いていた。

 とうとう咀嚼音が止んだ後、カランコロンと、箸が落ちる。


「ヒャハハハッ!想像以上にクソ不味だったようだなァ?いいかァア?ブロッコリー・イン・ロブスターちゃんよォ?グルメ神査官(ミシュラン)の評価は三段階だァ……最高で星が三つ、最低でも一つ……しかァーし、その味がまったく認められなければなァ!!門・前・払いッ!星は一つも貰えねェ!!!」


 彼岸丸は死の宣告をするかの如く、高らかに叫ぶ。


「さァッ!地獄のグルメ神査官〝ミシュラン〟よォオ!!ヤツの星は一体いくつだァァァァァア!!?」


 そして、項垂れていた神査官しんさかんの口が僅かに開いた。


「………デ…デデデデ…」

「あ゛ァ?〝デ〟?」




「………イッツ…マイ〝運命的デスティニー〟…!!」




「はァ?」


「我はッ!この〝モーメント〟を求めていたッ!!此れこそ食の求道の到達点也ッ!!!」


「……バ…バババ……バッカなァァァァァア!?じゃあなんだァ!??星三つなのかァア!???」

「狼狽えるな小僧ッ!此れは人の領域に収まるモノでは無い……ならばその星………未踏の四つだァァァァァア!!!」


 ルーゴ:芒紋レイの本数『3』→星の数『4』


「限界突破しやがったァァァァァァア!??」


 吐血する彼岸丸。

 何はともあれ、三芒紋ザ・サード如きでは遊ばれて終わりかと、次の思惑を始めるミア。


「もう駄目だァ……敵いっこねェよォ………」


 白目で泡を吹いてるルーゴに対して、彼岸丸の方も完全に戦意が失われていた。まずコレはどう収拾を着ければ良いのだろうか。




「……呆れたもんじゃな………お主はもっと骨のある料理人かと…思ったのじゃが?」




 四つん這いの彼岸丸に影が掛かる。絶望の中、彼が見上げるとそこには白髭を付けたスーが立っていた。


「……老師ッ!!」

「フォフォフォ……人は…窮地で力を発揮する………そうは思わんかね…?」


「しかし、老師ッ、オレにはもう食材がァ」

「フォフォフォ……気付いていないようじゃな…?………食材はある……どんな時にもね」


「そ、そんな……まだ…残っているのか…?


 オレが気づいていないだけで……まだ希望は?

 思えばオレは、常に狭い世界観で、臆病な消去法で……〝アレは出来ない〟〝コレは自分がするべきでない〟〝みんなに否定される〟〝誰にも望まれていない〟ばかりの繰り返しだった………」


「そんなヤツはデリバリーテロで教会を破壊しないよ……」


 思わず、変な茶番に声を出してしまったミア。


「……けど、そんなのは間違っていたッ!全部自分勝手にッ!自分の見る世界を狭めてただけだったんだッ!!」

「そうじゃッ!……ゆけ…少年よ」


 彼岸丸は立ち上がった。過去よりも、力強く。その瞳の奥で爛々と希望が燃え、己の自信の無さを雄叫びで奮わせた。


「いくぜェェェェェエ!劇場型チート奥義スキル第四番ッ!!〝特級厨師とっきゅうちゅうしが異世界に転生した件〟んんんんんんんんんんんん!!!!」


「無駄に何か始まったァアァァァァァァァァアア!!!」


 ミアが阿鼻叫喚する中、残った方のブロッコリーも神査官しんさかんがおいしく頂きました。


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