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滅ぶ前にゃー叫ばなやめれんッ!!!  作者: シ流つっけ
レグナトール家〈前編〉
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それぞれの〝基準〟

 お立ち台に乗って、カリスマ美容師なるモノに扮した彼岸丸は、チェアに座るルーゴの顔を怪しげな笑みで覗き込む。


「お坊ちゃま、まだ仕上げが残っております」

「何?完璧に見えるが、まだこの先があると言うのか?」


 狂気のヘアースタイルに興奮するお坊ちゃま。


「はい。まだ大事な事が残っておりますとも……」


 彼岸丸は自分の額に刺さった矢をスポンッと抜いた。

 赤い潮が噴いたところをスーが〝流血描写無し〟と書かれた絆創膏で防ぐ。

 彼は抜いた矢を強く握りしめて、大いに顔を歪ませて笑った。


「こォいつをォ………お返しする事がなァァァァァァァア!!!」


 お坊ちゃまのがら空きの額、そこ目掛けて復讐の矢が振落とされる。衝撃で粉砕されるリクライニングチェア。立ち込める土煙。過剰な流血を阻止せんと、全てに指に絆創膏を挟んで構えるスー。


 しかし、彼岸丸の手に握られていた矢は、ちょうど真ん中で折れていた。


「何ィイ!?」


 黄土色の煙は、彼岸丸ごとヴァイオレッドの波動に弾き飛ばされ、その渦中に暗い臙脂えんじ色の異形が佇む。


 彼岸丸は見た。自分が矢を突き立てんとする刹那、リィーヴァが、光の髄がお坊ちゃまの背中から椅子を突き破って防いだのだ。

 そして、大蛇の如く飛び出したリィーヴァは計三本。それぞれ三つの方向から、主を囲うように伸びたその三本は、甲殻類の鎧を受肉し、今や球状に、オーラの様に一体となってお坊ちゃまを護る怪物を形成する。


「鎧竜〝フォレスター〟……三芒紋ザ・サードのチカラによる裁きを受けたいようだなぁ?」


「太古の昔、龍脈の半分が黒き混沌に染められ全ての生命は絶望した。その絶望を糧にして混沌は地表に湧き出た混沌は、黒き捕食者へと変貌する。世界が黒き闇に染まる時、デミウルゴスは人に抗うための〝チカラ〟を与えた………」


 取り巻きのほとんどは、悲鳴を上げ逃げ惑う中で、スーは虚空にうたう。


「ある時代からこの世界の人間は、背中に特別な印を持って生まれてくるようになる。

 その印は〝芒紋レイ〟と呼ばれ、固有の守護精霊ルアクが宿っている。宿る守護精霊は〝芒紋レイ〟の本数が多い程強大な力を発揮し、現在確認されている者で最高は〝六芒紋ザ・シックス〟。ソレに次ぐ〝五芒紋ザ・フィフス〟と併せて各大陸に数人しかおらず、いずれも奇跡や天変地異レベルの代物。大半の人間は一つ。良くても二本刻まれる程度だ。よって四と三は実質のトップクラスと言っても過言では無いチカラ………」


 スーと同じで逃げる事無く、その場に残る執事の青年ルークは状況を見守りながら思った〝一体、隣の少女は誰に向かって説明しているのだろう?〟と……。


「ハハッ!!随ィ分カッコいい設定のロブスター野郎だあなァ!?」


 彼岸丸は着物の袖を風に流しつつ挑発する。


「ロブスターでッは無いぃ~ッ、〝フォ・レ・ス・ター〟だッ!!海老でッは無いぃ~ッ、鎧竜、誇り高き竜種の血統ぅ~~~~。さて、キサマは何本だぁ?俺に喧嘩売ったからには三本以上はアンだろぉ~?」


 返される挑発に、煽り合戦に興じようと開いた彼岸丸の口から〝ぐぎゃッ〟と変な音が出た。


「それには及びませんルーゴ様ッ!!」


 不意を突いた千年象レリーフ・マンモスの突進。タキシードの黒い背から伸びた2本のリィーヴァは天を衝く牙と成り、黄金の彫刻と深き色のオーラがルークを覆っている。


 そこから放たれる重量感は、太古の歴を堆積したかのように圧倒的。矮小な彼岸丸は、吹き飛ばされ後ろの木共々ひっくり返る。


「ルークぅう!!何をやっていた貴様ぁ!どうしてぇ主人が守護精霊ルアクを顕現させる事態に陥っている?この失態をどう説明するぅ?」


「失態も何もアンタ自身、ノリノリだったじゃない…」

 

 ミアが下らないモノを見る目で言い捨てる。


「おまえはぁ、黙ってろよッ!何だぁ!?アイツは、おまえが雇った殺し屋かぁ!?」


〝アンタの専属美容師何でしょ?〟と皮肉って嗤う小女をルークが遮る。

 鎧の咢と両サイドの爪鋏。鎧竜を纏う主人の前に出た従者は片膝を着いた。


「ハッ、弁明の言葉も見当たりません御主人様マイマスターッ。相応の罰を頂戴したく存じます。しかし今は、卑しき私の罪よりもルーゴ様の身の安全が優先されます。賊を排除するまで暫しお待ちをッ!」


「ふんッ、らしい事を抜かすなぁ………しかし、見たかぁ!?アイツぅ~攻撃受けても守護精霊ルアクが出なかったぜぇ~~~?てぇことはぁ~どっかのだれかみたいなぁ~~~雑魚ってことじゃねぇ~~~???」


「ハハハッ!確かに、私も生身の肉体に突進したなんて、初めての経験でした。アンナにも脆いモノがこの世にあったなんて」


 嗤うルークに亜光速で迫る巨大な影。彼の表情が左から順番に歪んで潰れていく。右端に到達したころに、彼は千年象の黒い質量ごと弾け飛んでいた。


「ファー―――――――――――よりに見えたがァギリギリホームランンンンンン!!しっかり踏ん張ってろよォ?軽すぎて洒落になんねェわァア!?」


 その小さな体で、そのか細い腕でどう振るったのか。先ほどまで、千年象が佇んでいた場所に、巨大なロケットハンマーを片手で握る彼岸丸。


「いや、むしろどこから出したソレ?道中持ってなかったよね?」


 ミアは驚く。自分の後を付いて回っていた時にそんなモノは見かけていない。あれだけ大きければ隠すことも出来ないだろう。どーせ、その場限りのオフザケ用使い捨て小道具かと思っていた。


「はぁ!?何だよソレぇ……ま、まさかぁ〝螺旋拘束ヘリックカノン〟……?それとも亡国イズル暗殺教団ニンジャなのか…?」


「安心してボコられろォ!オレはコッチの神様に逢った事なんかねェ、この通り芒紋レイなんかねェよ」


 彼岸丸は斜めに腰まで通る襟から腕を勢い良く出して、背中を露出させた。ダブルバイセップス・バック。背中の筋肉を見せつけるかのようなポージング。繊細だが確かに凹凸がハッキリしている。ミアは悔しいが〝切れてるッ〟と思った。


「バカめぇッ!!」


 対峙するルーゴの爪鋏が伸びた。無駄なポージングのために、地面に置かれたハンマーが奪われる。


「ならばぁ、この武器が特殊ということッ!!コレが無ければ何もできまいぃ!!!」


 不可解だった脅威を自分の背後へと捨て去り、喜々として構えるルーゴ。


「勘違いするなァ、テメェ如きに武器なんかいらねェ!!とオレの上腕二頭筋は語る」


 サイドチェストで背中越しだったルーゴの方へ振り返る。


「フハハハハッ!!笑わせるなッ!!!〝紋〟も持たない下等生物が!?一体全体何をッ!?どうッ!?勘違いすれば、俺の前に立っていられるというんだ??教えてくれよおぉぉ???」



「キタコレェェェェェエ!!ソレよッ!ソレェェェェェエ!!サッスガはクソ貴族ッ!コレで前の冒頭に繋がったぜェェェェェエ!!!!!」



 彼岸丸は狂喜した。


「何だッ!?何の話をしているぅ!?」

「気にしないで、そいつは怪しい電波を拾っていないと生きていけないようなヤツだから」

「そ……そうか…」


 ルーゴは少し安心した。不愉快だが、何だか目の前のバカを相手する時は、ミアが居てくれないと不安で堪らなくなる気がしてならない。だが、自分がよりもよって〝アノ〟ミアを認める訳にはいかない。


 兄弟の中でもミアと関わろうとする者は、特命のある次男カロンを除いて変人扱いだ。偉大なデュヒローからの印象も悪くなる。ならば、この危険分子はここで確実に消さねばと、認識を再度固めるルーゴ。問題は無い。なぜなら、相手はこの世で一番下等な〝失格者〟なのだ。負ける通りが無い。


「テメェは、一つ思い違いをしている。テメェはオレに負けるッ!確実になァ!!」

「はっ、雑魚ほど良く吠えるとは、本当の様だな?失格者如きが、神の寵愛を受けた人間にどぉう勝つ?最早、闘いにすらならんわぁッ!」


「テメェの敗因は単純明快だァ、それは自分の基準のみで物事を測ろうとするその腐った魂胆だァ。そんなに二本、三本の数が大好きなら……オレがテメェを〝測り〟直してやるぜェ?ブロッコリー・イン・ロブスターちゃんよォ!?」


「ハハハッ、失格者が俺を測るだってぇ?不遜にも程があるわぁ!

 ………っ!?」


 ルーゴの高笑いを遮るように、両腕を頭の後ろで組んで腹筋アドミナブルを極める彼岸丸。すると彼から光の柱が昇り、雲が割れる。


「ま、まさかぁ!芒紋レイも無しに守護精霊ルアクを呼び出すつもりかぁ!?」


 ニヤリと顔を歪ませる彼岸丸。


「その〝まさか〟よォ!魅せてやるぜェオレの守護神をなァァァァァア!!」


 柱状の光が弾けて、その場の者たちの視界を奪う。

 ミアたちが再び目を開けた時、彼岸丸の背後に〝ソレ〟は降臨していた。


 漆黒の靴。

 一目見ただけで〝違い〟が分かるダークスーツ。

 そしてその恰好とは双極とも言える、薄汚い紙袋を覆面にし。

 右手には黄金のフォーク。

 左手には白銀のナイフ。

 闇の底から伺う眼光は、ただ目の前の〝料理ランチ〟へと。


「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……」


〝何だこのプレッシャーはぁ?オレの守護精霊と、髪が……震えている…だと?〟


 戦慄するルーゴ。その後ろで擬音を奏でるスー。




「コレがァ、地獄のグルメ神査官〝ミシュラン〟だァァァァァァア!!さァっ!テメェのブロッコリー・イン・ロブスターはァ、果たしてェ〝星〟何個かなァア!??」




「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……」


 スーは擬音を奏で続ける。


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