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滅ぶ前にゃー叫ばなやめれんッ!!!  作者: シ流つっけ
レグナトール家〈前編〉
6/42

今日から本気で異世界やるッ

「フハハハハッ!!笑わせるなッ!!!〝紋〟も持たない下等生物が!?一体全体何をッ!?どうッ!? 勘違いすれば、俺の前に立っていられるというんだ??教えてくれよおぉぉ???」


「キタコレェェェェェエ!!ソレよッ!ソレェェェェェエ!!サッスガはクソ貴族ッ!オレはァア!!その言葉を待っていたぜェェェェェエ!!!!!」


 彼岸丸は狂喜した。

 あの貴族の傲慢さを助長せねば。

 言わせて、語らせて、誇張させて、最も肥えた所を狩るのが〝セオリー〟。

 この好機,逃しはしない。


〝なぜならオレはァ!〝異世界転生者〟だからだァァァァア!!!〟


 背後で少女の大きなため息が聞こえた。




~遡る事1時間~




「何で付いてくんの?」


 黒き森の中でダルマさんが転んだ。少女が振り向く度に、彼岸丸とスーはコンセプチュアルなポーズで固まる。



「「仕事(ジョブ)、クビになりました………」」



 彼岸丸【職業:ウー○ーイーター → 無職 】

 スー 【職業:スーパースパイ  → 無職 】


「「行くとこ無いので、パーティーに入れてください………」」


 変に捻れたポーズからの、彫刻の様なキリッとした表情で言う事では無い。


「ではたった今〝解散〟を命じます。私は、目的を果たして帰っているだけだから………」


「フ、甘いなァ……〝クエストは帰るまでがクエスト〟とギルドの綺麗なネーちゃんに習わなかったのかァ?」


「家まで付いてくる気なの?変質者じゃん……」


 イマミアは、彼岸丸に向けて肩掛けカバンを投げた。バレーダンスの様な軽やかな態勢変化で、躱されたのがムカついた。


「……まー………許してあげなよ……ミアたん……」


 スーは手でかげる横顔で語った。


「アンタもだし、もっと言えば何でそんなに親しげなのッ?」

「…フフフ……スーは元スーパースパイ……人心掌握術はお手のもの……」


「そしてオレはァ、スーパードライィ……渇いたオレの心を癒せる者はいねェ……」

 

 うれえる彼岸丸は、木に天地逆さまで絡まっている。

 と思ったら、突如水色の小さな球体達に囲われた。


「はぅアッ!!テメェらは〝緋啞琉崙山ヒアルロンサン〟の手先かッ!?」


 スライムが現れた。


「……〝緋啞琉崙山ヒアルロンサン〟…究極の潤い主義共…か……。厄介な奴らに目をつけられた様ね?……そいつらは決して〝乾き〟を許さない……」


 ポーズを維持し続けるスーが静かに語る。

 スライムはモノノ怪の一種であり、魔獣では無い。それらは、各々の住処の安寧を優先しており、縄張りさえ脅かさなければ人を襲わず、力も弱いモノが多いため逆に人間に乱獲されてしまっている。


 そんな、彼らの精一杯の復讐なのか……、木に逆さで絡まって動こうとしない彼岸丸の顔面目掛けて、捨て身の特攻が始まった。


「ぐゥ?ガぼぼぼぼォ!?オレはァ…うリュ!?オぼぼぼぼぼぼォ!!ぜはァ……オレはァ…うりゅにょわッ!ゴぼぼぼぼぼぼ……べはァッ!!オレはァ!ゼッテェ!!潤わねェェェエぼぼぼぼぼぼぼぼぼォ」


 ミアが腕を組んで眺めている限り、バカ二人は動こうとしない。


「……ミア殿………彼岸丸氏……死んじゃう…御同行……許してちょんまげ?」


 少女には因果関係が分からない。だいたい、お前ら勝手に付いて来てるじゃねーか。見る度に動かなければセーフな訳ねぇだろ等、色々思う事があるミアだったが………。


「もう、このやり取り疲れたから……。好きにして………」


 イマミアことミアは、如何なる方法を使っても撒けないバカ2名に音を上げた。


 ここに至るまでに、やれる事は試し切ってしまった。霧に紛れても、ブリッジの態勢で追いかけて来る。小鬼の集落に行っても仲間と思われる。落石で潰れても平ぺったいまま付いて来る。脳を侵すキノコはそもそも効き目が分からない。底無し沼も謎の地下帝国デスゲームを勝ち上がり脱出された。


 規格外過ぎる。排除どころか何も掴めない。だから、ミアはこのまま屋敷に戻る前に、もう少し〝測って〟観る事にした。彼女はっている。今自分が歩む先に、それに必要な材料が居る。


 ミアは半身を退いた。すると前方から飛んできた矢とすれ違う。そのまま後ろの白いバカに刺さった。


「おやぁ?薄汚いモノノ怪かと思ったら、イマミアじゃないかぁ?」


 矢が飛んできた先で、狩を楽しむ最中のふくよかな少年が笑う。


「危ないだろぉ?いくら存在感が薄過ぎて、獣に襲われることが無くったってぇ、オマエは流れ矢一つで死んじゃう哀れな〝失格者〟なんだからなぁ?」


 煌びやかな刺繍が施された襟を立てている少年は〝まるで虫じゃないかぁ?〟と取り巻きのメイドと執事にも笑いを誘った。


「ご無沙汰しておりますルーゴ様。こんな地を這いずって生きていくことがやっとな虫なぞにお声を掛けてくださるなんて、余程お寂しい思いをされておられるのですね?……心が痛みます」

「ハッ、御じい様の同情を買ってるからって調子に乗るなよ?御じい様以外、オマエの事は早く処分したい生ゴミとしか思っていないんだッ!」


 嘲笑の中、ルーゴは鷹の羽を付けた帽子を脱ぎ、どこから持って来たのか彼岸丸が用意したリクライニングチェアに腰掛ける。彼岸丸は、ハサミで小切り良く空を切りつつラフにしゃべりかける。


「お坊ちゃま、今日もいつも通りに?それとも思い切って攻めてみる?」

「あぁ、たまにはそれも良いだろう。

 さて、イマミアよ。ここは屋敷の中では無い。これがどういう意味か分かるかぁ?その豆より小さな脳みそで、果たして分かるかぁ??」


 ミアは息を呑んだ。明らかに取り巻きの中に矢の刺さった白い異物バカが居て、あまつさえ、お坊ちゃまの金髪ストパーにバリカンを入れているのだが、誰も気にしていない。


「豆と言えば、お坊ちゃま。知ってる?最近駅前に豆乳カフェが出来たんだってね」

「へー。俺は豆乳嫌いだし興味無いかなー。

ヒャハッ!ビビッて声も出ないかぁ?そう、オマエはここで獣に襲われて死んだ事にしてやる」


 会話が後ろと前を同時に相手取っていて、何だかあの人大変そうだなー、とミアは思った。


「そういえば、最近物騒でさー。道歩いてたら矢とか飛んで来るワケ!オレぶっ刺さちゃってさ~」

「マジかッ、誰だよぉ~あっぶないなぁ~。

 オマエが不幸な事故で死ねば、みんなが喜ぶんだぁ。よかったなぁゴミの分際で人の役に立つ事が出来て~」


 お坊ちゃまの美しい髪は全て刈上げられ、その代わりに、そびえ立つ様に立派な双つの角。〝その正体はブロッコリー〟が突き立てられた。


 宇宙人の様な風貌。そのお坊ちゃまが悪意の笑みで、脚を組んでいる。


「どうでも良いけど、鏡見たら?」

「 ? どういう意味だ?おい、ルーク、鏡を出せ」


 ルークと呼ばれた拡幅の良い執事が、手鏡をお坊ちゃまの前で開けた。


「なぁッ!!?」


 目を見開くお坊ちゃま。そこまでしなければ気付かないのか、と呆れるミアだったが……。


「……悪くないッ!良い感じのツーブロックだッ!!俺の専属美容師にしてやるぞオマエ」


「何でよッ!」


 カットを済ませた彼岸丸は、お坊ちゃま以上に邪悪な笑みで顔を歪ませる。

 何でそうなったか?

 そんなの決まっている。




「コレぞォ!無限に在るオレの劇場型チート奥義スキル第三番ッ!!〝カリスマ美容師が異世界に転生した件〟だァァァァァア!!!」




 彼岸丸が天に吠える一方、メイド服で取り巻きに紛れていたスー。

 彼女の技術があれば、己の気配を自然と完全に一体化させる事も可能である。


 だが、彼女は見落としていた。


 人間はその逸脱した文明社会によって、自然から遠く遠く、かけ離れていってしまったという事を……。


 そして、自信満々の彼女は未だ知らない。




 全員から〝誰だコイツ?〟と思われているという事を……。


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