越されたッ!?
※注意:残酷な描写がございます
私は、小さな体を懸命に丸めていたんだよ?
目を閉じ、耳を塞いでね…。
唇を噛んで止め、息を潜めて震えながら待っていたんだよ?
私は、隠れることに必死だったんだ……。
仲間たちが、次々と殺されていく中で、自分だけはそこに潜んでいて………。
何も出来ない自分が情けなくて、涙が零れそう…。
そう自分に言い訳をする自分が惨めで、頭が捻じれしまいそう……。
それでも助かりたくて、身を削って縮こませて…。
どれだけ体が軋もうとも、物の影へ、圧し込めなくちゃ。
小さく、圧し込めて、絶対に見つからない様に…。
もっと小さく、見つかっちゃダメ。
圧し込めて、やだやだ、見つかりたくない。
あぁ、怖いよぅ。
あぁ〝コワイモノ〟は嫌だ。
夜なのに輝く小さな太陽が怖い。
仲間を切り裂く煙の剣が怖い。
だから、ずっと…。
ずぅとね、ここで待っていたんだ。
〝コワイモノ〟が消えるのを。
槍で裂いた体内は、コワイチカラが流れていたから…。
血と一緒に黒い生地に染みついて……。
止むのを、この時を待っていた。
独りぼっちになっちゃたけれど…。
きっと、大丈夫だよ。
さぁ、また仲間は増やせばいいんだ。
今、目に着かないくらい、細く細く、とっても鋭い枝を射出して。
あらゆる血管を侵し尽くすよ。
ビクビク跳ねる体。
ぎょろりと、目も黒く反転して。
凛々しい体が黒く染まれば、やったっ!完成だっ!!
あれ?でも何か物足りない…。
そうそう、そうだっ!
あの〝コワイモノ〟は背中から四本の棘を生やして再現しようっ!
それぞれに、束ねた棘のランスを握らせて…。
うんっ!良い感じだね。
女の子の方も、ビックリさせた所を上手く絡め捕れたし。
そうか、真っすぐ刺すんじゃなくて、こうやってクルクルって、握っていけばよかったんだっ!
ガクビクと跳ねる様に暴れるけれど、揺れる衣装が綺麗だな~。
そうだ、女の子の方は棘の冠を載せてあげよう。
きっと、もっと綺麗になるよね?
「いや、小生の仲間を盗ってもらっては困る」
その時、信じられない事が起きたんだ。
あんなにも、女の人の体内に力強く根付いたんだよ?
なのに、なのにっ!ポンと誰かに背中を叩かれたと思ったら、急に力が抜けちゃってっ!!
次にドンって突き飛ばされたら、私が体内から根こそぎ追い出されてたんだっ!
あれは、もう私の体になってたんだよっ!?
そんな事ってある?
それは、水に混ざった墨を取り除くようなことなんだよ!?
なんなのさ、あのチビなオレンジ合羽はっ!!!
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生きてれば、他人は怖い。
ポッケルの故郷では、四六時中誰かが踊っている。
感情が高ぶると、どうしてもポッケルたちは体が動く。
村ではそれが当たり前。
踊りが下手だと、相手に自分の気持ちを上手く伝えられない。
だから、ポッケルは人に会うのが苦手。
〝あいつは、何を考えているのか分からない〟
そんな風に思われていたに違いない。
村は、屋根が並ぶから村なのちがう。
毎日、人々が交流するから村。川のように絶えず流れてる。
みんなで手を取り合って、明日へ明日へと動いてる。
そこへポッケルが出てくれば、止まってしまう。
誰かへ踊ると、ポカンとした間…。
何度も練習して、震えて踊ったって………。
ポッケルがいつも、みんなをせき止める。
ポッケルにはそれが、悪霊より怖い。
だから、ポッケルは踊るのを辞めた。
〝暗いヤツだ〟と影で言われた。
それでも、ポッケルが踊らなければ、物事は滑るように進んで行く。
だからポッケルは、首を縦か横に振るだけでよかった。
そうすれば、何も止まらないし、誰も傷つかないのだから。
踊るのは、独りの時だけで良い。
「なるほどっ!ポッケルちゃんは踊らないと欲求不満になるタイプの変態さんなんだねっ!?」
何言ってるんだ、このモフモフは?
それは、ポッケルが〝六星付き〟に選ばれた時のこと。まだ当時のポッケルは、黒いメイド服を着ていた。
確かに、言われてみると、ポッケルが苦しんだ原因は〝踊り〟だ。
なのにポッケルは、それを自分から切り離せずにいた。
月しか望まぬ舞踊が、ポッケルの慰めだったのだ。
「大丈夫っ!大丈夫っ!!ここに居るのはボク含めて、みんな変態さっ!!!
前任は、他人の影の匂いを嗅ぐのが好きなヤベェやつだったっ!
トマスは、筋トレ&規則縛りフェチでオッパイ大好きだろ!?
アーロンは、整理整頓狂過激派グループにしてレース編み大好きさんだっ!!
フッキはタバコ、酒、セックス依存症っ!
コタル君なんか、男の娘ちゃんだぞっ!!
そんでボクは、両刀使いときたもんだっ!!!」
抗いがたきモフモフに身を預けていたポッケルは、一瞬鋭くなった視線にびくっと跳ねて退いた。トマスさんが、台パンして猛抗議している。
「あのー、アーロンさんは……まともだし、コタル…君は、その…自分の意志で無いのでは………?」
「甘いなぁ!アーロンのアレは異常だぜェ?刺繍の方は弟子入りしたっ!」
イリスさんが、襟をヒョイっと摘まんで伸ばして美乳をチラ見せると、トマスさんが鼻血を撒いて倒れた。
「なっ!?指一本も触れずに……これが筆頭の力………?」
この時、まだポッケルは〝タナボタ〟という妙に発音がポッケルストライクな言葉に出会っていない。
「ヘヘっ!次はキミの番だぜェ?…病みつき系の悪戯されたくなかったら、裸の気持ちで踊ってごらんよっ!!」
突然、イリスさんが流麗に輪舞し、ポッケルを挑発する。
「えぇ!?無理っ!ポッケルはもう、人前で踊らないっ!!」
言葉と裏腹に、イリスさんの舞が余りにも蠱惑的だったから、ポッケルの中に、何か熱く込み上げてくるものがあった。
「大丈夫っ!こっそり盗撮してたけど、キミの踊りは美しいっ!!
そうっ!!思わず〝時〟が止まっちゃうくらいにねっ!!!」
そう。
そんな、言葉だった。
彼女と初めて踊った時、そんな事を言う彼女が
ポッケルの中で、燦々と輝く太陽となった。
今だって、他人は怖い。
だけど、あの時の出来事が、今こうして勇気となって輝いている。
二度目の〝宙ヲ射ル蜷局〟
相手がどれだけ多かろうが、炎蛇の眼が射た点に出現する火球が、その魔を引き寄せる特殊な引力を以って纏めて滅却させてしまうという、対群用の能力である。
一度目は、別機動のヤツを捉えられなかったが、これで終わりのはずだ。
消えゆく火球は、今や弔いの火。
けれど、忘れてたワケじゃ無かったのに。
ヤツらは、その太陽を喰らったという事を………。
密かに、アーロンすら侵した棘が、一瞬の隙をついてポッケルの脚に絡まり掴んだ。
そのまま、ポッケルは引き寄せられ、黒い棘が目と耳を覆い隠すように巻き付いてきた。そのまま穴という穴から、黒い枝が入ってくる。
波のように押し寄せて来たのは、自分が自分では無くなったかのような刺激だった。ワケが分からないまま電気ショックを与えられたかのような、痛いのか、苦しいのか、辛いのか、それすら分からない、ただ、自動的に体が、背骨が圧し折れるほどに反って跳ねてのたうち回る。
お願いだから、出て行って欲しかった。
もしくは、もうポッケルが諦めて消えてしまいたかった。
何も見えない。
何も輝いていない。
真っ黒な世界でただ一人。
ずっと苦しむなんて、そんなの嫌なんだ。
だから、前の〝お願い〟がこうも容易く叶えられるなんて思ってもいなかったよ。
こいつは、タナボタニカルクロニクルエターナルシーズンイレブンだねっ!