ブレイブストーリー
白い少女がくるくると………。
回りながら歌っている。
半分に割れた金平糖。
本当は半分埋まってるだけのコンペイトウ。
星の裏に行ったって
お空は、白色?
青色?
それとも赤色?
☆=☆=☆
「はァ?」
地面にでんぐり返しな少年の紅目が、パチクリと開いた。
「おぉ、目が覚めたかHAMUユウジロウよ。………頭を打って星をチラつかせるなぞ、お主にしか出来ぬ芸当だな」
錫杖の五つの輪がシャン……シャン。橙色の合羽に覆われた少年は〝戒律番〟と呼ばれる秘術空間〝水鏡天命反転陣〟の番人である。そして、随伴する異形もまた同じ。
「左様でございますな〝ヒコ〟様、この〝ムタ〟目も無駄に生き永らえておりますが、このような様子は初めての眼識的刺激にございます。あァアリガタヤァ、アリガタヤァ………」
鉄檻の箱が四つ足で立っている。仄暗い格子の隙間から、丸い目がギョロリと回り、皺だらけの青白い手が、しゃわしゃわ擦り合わされる。
「地上最小の知性体と地上最強の生命体を混ぜたら、なんだか在り来りなハンドルネームになってんじゃねェか………オレは彼岸丸だッ!桜丸彼岸丸ッ!!三年連続皆勤賞受賞ッ!!!サクラマ・ヒガンマルッ!!!!」
岩の隙間三角の先、石の祭壇の周りを、高速でん、でん、でんぐり返しで荒ぶる彼岸丸。
オレンジのフードに隠れた目はウトウト。灰色の老紳士は散眼をギョロギョロ。
「おぉ、おぉ、御静まりなされよ、彼岸丸様……!ここで何か壊されでもすれば、ヒコ様の就寝が、また一週間延びまするぅ……」
針金を捻り束ねた四つ足が、左右交互に大きくスキップを踏んで、足元せわしなくローリングホイールな彼岸丸を必死に避ける。〝ヒコ〟と呼ばれた少年は意に介さず、コックリ、コックリと立ったままスリープ状態に抗っていた。
「だいたいッ!テメェら何なんだァッ!!ミークシスとセレスティアどこ行ったァ!?」
ムタの左右別々に踊っていた焦点が、突然一点に集中する。ヒコの鼻風船が割れた。
「おぉ、何たる奇跡か……〝樹海乃根側〟にて、迷い人同士遭遇する事が起こるとはァ……あァアリガタヤァ、アリガタヤァ………」
「無限タルタルよ。それはただのミント串様の気紛れだ……在り難きことでは無い」
しゃわしゃをと擦れる音が、シャンと輪音で制される。
「何言ってんだァ!?さっきのトコに戻しやがれェ!!」
「おぉ、おぉ、何と勇ましき事かァ……しかし、次はこのムタ目でも見つけ出せるかどうか………」
四つ足檻の中で、ムタが困ったように皺だらけの顔を歪ませた。睡魔を引きずりながら、ヒコが彼岸丸の前に出る。
「勇者HAMUよ。汝は嚶鳴ノ間から吹き飛ばされ、足場の無い場所に墜ちたところをムタに救われたのだ」
「〝RPGで友達にバカにされないかつ最低限のユーモアを飾った結果世界観に浸れなくなる呪いにかかる名前〟を付けてもらってどォーも!!けどなァ、まだ連れてこなくちゃいけねーヤツらがいるんだわッ!」
彼岸丸がオレンジの合羽に掴みかかる。ムタが慌てて、その四つ足檻ごと割って入ろうとるが、ゆるいオレンジの袖がそれを止めた。なので、ムタは大人しく虚空を舞う蠅を、その左右別々に動き回る目で追いかけ回す事にした。
「ミックス様は問題が無い。あの中で出会えたのも、あのお方が縁を手繰ったからだ。………そして現場娘だが……ふむ、ソレを連れてきた処でなぁ………まぁ、諦めろ。お主がこの屋敷に来た時から既に手遅れである」
フードからチラリと伺える、幽鬼のような紫焔の灯り。
「あ゛ァ!?どういう意味だァ?」
「お主が識たのは、術に絡まった亡霊だ」
その眼の明りは怖気がするほど冷たく………。
「もう遅い。あの娘の肉体は瘴気で腐り果てておる」
その瞳が閉ざされたところで、それを見た者は永遠に、脳から足先まで紫色の冷気に蝕まれるのだった。
「断崖から墜ちたのは事実。あの先は如何なる加護も働かぬ深淵。ともなれば、奇跡的に致命傷を免れたとしても、戻るべき体は腐敗が進んでいるであろう………」
〝救いようは無い。自我が消えるまで彷徨わせておけ〟
再び橙に隠れた顔から、微かにそう聞こえた。
「あ゛ァ!?ヒロインの中にゾンビが一人居たっていいじゃないッ!!!」
勢いよくギョロリと、
ムタの目が、再び彼岸丸に集中した。
なぜなら、ムタ風に言うのであれば〝初めての聴識的刺激!〟。
現代風に言うのであれば〝何そのパワーワード?〟
項垂れたヒコは、彼岸丸が支えててくれるのでグー、スー、ピーなので聞いちゃいなかったが、
そう、
ムタは初めて〝勇者〟を目の当たりにしたのである。