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滅ぶ前にゃー叫ばなやめれんッ!!!  作者: シ流つっけ
レグナトール家〈前編〉
33/42

内緒のお稽古


 モノノ怪〝オシラサマ〟



 それは風の子通る洞窟の奥にずっと居る。


 ミアは暗闇の中で手さぐりに、その見えぬ繭の糸を摘まむと、スルスルという音も無く、来た道を戻っていった。


 夜明かりの外に出ると、洞窟から揺蕩って透きとおる一本の糸。それが月光に晒せれて銀の色を得ていく。


 洞窟から4メートル離れた場所に、糸巻機を置いている。ミアは糸をそこに繋げると、サラサラという音も無く、必要な分だけ巻き取り始めた。



 透明から、やがて白く楚々に風に揺れて輝く絹糸。


 その横で、どこからともなくやってきた白いバカがクルクル回り始める。さらにあろうことか、いつものヴィクトリアンなメイド服では無く、コスプレちっくなミニスカメイドの姿でだ。



「キモ……あ、ごめんなさい。大変気持ち悪いんですが………」


「丁寧にされるとダメージバフが掛かるだとォッ!?」


 並ぶ絹にも勝る素体の良さと、小さな子供という事もあり見るに堪えない姿では無いが、何しろその彼岸丸の悪人面が合っていない。



「邪魔しないでもらえますか?」


 アレ以来、明らかに距離をとろうとするミア。


「あの洞窟の中、真っ暗なんだろっ?しかもその糸だって月に照らすまで、五感で感知できねェ……よく迷わずに持ってこれるもんだな」


メンタルのギリギリ境界線を踏ん張る彼岸丸。



「何の確認ですか?分かっているのでしょう………」


 淡々と、糸の束が白銀に厚みを増していく。




「あァ、そうだ。オマエには千里眼があるんだったなァ」




〝とは言っても、自由自在に使える様じゃなさそうだがな…〟とぼやきつつ、彼岸丸は何の用意なのか準備運動を始めた。




「そうですね。自由に使えるなら〝アナタを観測してしまった〟なんて過ち、しなかったでしょうね」




 伸脚をしていた彼岸丸が、突然尻から倒れていった。


「………オマエ?覚えてたのか……?」


 倒れた彼岸丸の上には星の空。しかし、どれだけ満天の星だろうが、彼の記憶に刻み込まれた星はどこにも無い。なぜなら………。




「その〝紅〟を忘れる訳がないでしょう。


 ………。私は一度、アノ悪夢よりずっと遠い………〝事象の果て〟と呼ぶならここなんだなって…場所を観ています。


 私は星を覗くように……アナタには私の観測点が、まるで星のように見えた事でしょう」




 〝愚かにも私は、そこで終わる筈だった存在を、この眼で見留みとめてしまった〟




「それが、私とアナタの〝縁〟です。


 確かに、アナタが今ココに在るのは私のせいです。




 なので…責任は取ろうと思います………」




「責任ってオマエなァ、オレがココに居んのはオレの勝手だッ!オレはココで好きに生きて好きに死んでくッ!!それがセカンドライフッ!!!異世界転生ってもんだッ!!!!」


「……………」


 ミアはそれ以上何も言わなかった。彼自身は〝自分について〟どこまで理解しているのかが、分からなかったからだ。ミアにだって全貌が見通せた訳では無い。ただ彼の主張は、どこまでいっても真実とは食い違う。ミアは一度だけ、糸から草むらに寝転がる少年に目を向けたが、また直ぐに目を逸らした。




「そうだッ!!時間がねェんだったッ!!!」


 彼岸丸が突然跳び起きるものだから、逸らした目がまた戻ってしまった。


「何ッ!?なんなの!?」


 彼岸丸がその場で側転をする。彼がスパッツを履いていたことがミアの救いだった。



「ミア様の御力で、仮にここに、イリスが居たとシュミレートしてくれッ!オレは今から好き放題動き回るから、少しでもシュミレートとズレるトコがあればバンバン指摘してくれよッ!!」


「はぁ!?」


 いきなりの要求、もとい無茶振りに思わずミアも素が引きづられる。



 そんなのお構いなく、彼岸丸は地面に両手を着ける。

 すると、どっかの世界の錬金術でもやらんばかりに、地の底から紅い脈動が円環に光った。


 彼岸丸は元気いっぱいに唱える。

 ミアはどう聞いても別人の声に聞こえた。



「とぉ~ておきッ!イっくぜぇ~!!


 〝我在ル限リ未ダ果テ(リサイクル)ハ成ラズ(アーツ)


 :<ruach>雲竜ソルギララ</ruach>〟!!!」




 声変わりした彼岸丸は、フワモコの霊体を纏い、八重歯を見せつけるように陽気に笑っていた。






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