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滅ぶ前にゃー叫ばなやめれんッ!!!  作者: シ流つっけ
レグナトール家〈前編〉
31/42

ハラスメントウォーズⅡ~熱き台湾編~

注意:名古屋的描写がございます。



「……ばっかーん…」



 スーの△からため息が漏れる。


 アリスは彼岸丸の忘れヒダリウデを、どうしたらいいか分からない。……恐る恐る木の枝でつついてみる。すると、白い腕は飛び上がり、コミカルに驚愕する彼女にまとわりついて来るもんだから、もう大変だった。



 集まりの後ろの方だった彼女達から、30人くらいの頭の先で、小さき腕の所有者が、剛腕の男にメンチきっている。



「PTAだとッ!?知らんな?」


 巨漢の執事トマスは、彼岸丸の蹴り足を片手で振り上げる。


「People Turn Avalon 永劫の不労所得を実現する楽園タワマンの探求者ァア!それがオレだァァァァァァァァァア!!」



「フンッ!煩い蠅だッ!!」


 トマスはまるで斧でも降ろすように、彼岸丸を地面に叩きつけた。演説台に続き、木組みの舞台が荒らしく両断される。


「合い分かったッ!……痛めつけられた痕だけ見せられても、実感が湧かぬと言う訳だッ!!ならば、ペナルティの詳細が骨の髄まで染み行くように、ここで実演をしてやるぞッ!!」



 そう宣言するトマスから突風が吹き荒れ、彼の背に四つに開く紋、そこから光の脈動は知恵の蛇如く宙を這う髄となり、男の巨躯を包む。


「〝百腕巨兵ヘカトンケイル〟!!」


 リィーヴァは巨人兵の霊体を受肉し、山をも砕かんばかりの気迫を放つ四つの剛腕を形成した。


「ヒャハッ!〝百腕〟とか言っときながら四つしかねェーの!!〝1/25スケール〟で手ェイッパイですかァア!?」



 地面をバウンドした彼岸丸は、空中でくるりと回って、無い腕を後ろに突き出した。

 ロケットハンマー〝スロンガトロン〟が虚空から現れ、当然掴めぬそれは、ぼとりと地に落ちる。


「………あんれェ?」



 間抜けな彼岸丸の目の前で、巨兵が淡い光を広場中に拡げる。


 〝観測点確定パイルド

 と地響く声を上げ、巨兵を覆う兜の奥の眼光が光った。


「良くぞ吠えたッ()()ェエ!!我が守護精霊ルアクが何故百腕かッ!?身を以って教えてやるぞッ!!!」


 〝事象選択ナックル〟巨兵のマシンチックな肩甲骨から蒸気が噴き出す。すると、巨大な拳が〝タンマ!タンマッ!!〟と訴えている、メイド服で紛らわしい彼岸丸へと炸裂した。



 〝無拍子ユニオン

 と、吹き飛ばされた彼岸丸に対し唱えれば、一度に36回……空中で彼岸丸が激しく跳ねる。その光景は、まるで四方八方、地、空から連続してトラックに轢かれ転がる者を、コマ送りで見ている様だった。


「がッ!?ゴッ…ガッギッガががががッ!?」


 連鎖する衝撃に仰け反って、揺さぶられる彼岸丸。



「思ったより丈夫そうだなッ!?では、もう一度だッ!!」


 巨兵の二撃目が、地面に転がり込んだ彼岸丸に見舞われる。その力に彼岸丸の体は軋み上げ、さらに勢いは収まらず地面はクレーター状に爆ぜた。


 拳を引いたトマスはニヤリと嗤い〝弐拍子ユニオン〟と唱える。


 すると見えざる力に、彼岸丸は繰り返し地面へと叩きつけられ、その度に地面がより深く陥没していく。



「ハハハッ!まるで巨兵の拳に、永遠と殴られている様だろう?」


 一撃目と違い、一定の間隔で振って来る不可視のインパクト。彼岸丸は、血反吐を吐きながら立ち上がろうにも、また赤土ごと潰され、今度は前向きに地面に倒れた。


「余りの衝撃に死ぬまで気絶もできぬぞ……さァ!我が力に平伏しながら、最後の力を振り絞って無様な音を上げろッ!!悔いて許しを請うが良いッ!!!」



 圧倒的な立ち位置から高笑いを上げるトマス。



 しかし、彼岸丸は血で汚れた顔を歪ませ笑う。



「タライ落としはァァァァァァア!一発限りのリアクション芸ェェェェェエ!!」




 見えぬ隕石でも降り積もるかの惨状で、彼岸丸がその全ての衝撃を受けつつ立ち上がってくる。


「何度も欲しがってんじゃねェェェェよォオ!このネチっ子ADがァァァァァァア!!!」



 その動きは途切れ途切れで、いつ絶えてもおかしくはない。けれど、かの紅き視線は真っ直ぐに、何度倒れて潰れようと、トマスに縫い付けたかのように離れない。




「……何だッ!?貴様は一体何の話をしているッ!?」




 恐らくトマスはこの時、その場にいた者全員の気持ちを代弁した。

 ただ、彼が他の者と唯一違ったのは、その自分を捉え続ける紅玉に、怯えつつあったという事だ。


 だから……こうしてほら、


 まだ〝彼自身が設定した衝撃〟は終わってもいないのに、焦って三撃目を撃ってしまう。



「オォォォォォオ!!ナックルゥ!!!」


 守護精霊ルアクの巨腕が、トマスと彼岸丸を遮るように放たれる。

 対して彼岸丸は大きく頭を振りかぶって、剛拳にぶつける。


 爆ぜる轟音の後、トマスに圧し戻される感触が伝わる。


「な……!?…ゆッ、無拍子ユニオン!」


 トマスの片足が、思わず一歩退かれる。割れた彼岸丸の額からは、絶え間なく重なりくるインパクトに、血が環状に飛沫き上がる。


 なのに、それでもなお、彼の歩みは止まらない。



「ガンガンガンガンッ!頭ん中でうっせーなァア!!その無駄無駄無駄ァな体罰がなぜ禁止されたか教えてやろうかァ?なァミサエェエ!!!」



「な、何なんだ!?貴様は何なんだッ!?なぜ止まらないッ!!?」


 一方的に攻めている筈のトマスの表情に、最早余裕は無かった。四つの剛腕全てが駆動し彼岸丸へと襲い掛かる。




「そりゃァ!ミアお嬢様にきつく説教ツッコミされたばっかだかんあなァア!!こっちん世界に居るからにゃァー、オレはここで全力で生きんのさッ!!」




 そうやって彼岸丸が笑う後方で、虫でも憑いたかのように泣くアリスが、とうとう自分にまとわりつく変態腕を掴んで、投げ捨てた。


 白い腕は回転しながら、エヌワが邪魔だと蹴ってズラしたロケットハンマーを掴み、ロケットブースターで更に飛んで行く。



「さァ!校長センセ―よォオ!!なぜ体罰がいけねェかだったなァア!!」


 彼岸丸に降り荒打っていた拳の嵐が、突如舞い込んだ翠の風に払い除けられる。




「そいつわなァア!!拳が一方的じゃ絵的につまんねェーからさァァァァァア!!!」


 左腕が戻った彼岸丸が、ハンマーを振るう。咄嗟に腕をクロスして、霊体の中心に立つトマスを護る巨兵。それでも、翡翠の衝撃に耐えかねた巨体は、後ろの小さな鉄塔まで飛ばされ、それを崩して埋まる。





「つまりィィィイ!オレにも殴らせろォオ!!言う事聞かせたけりゃ殴り合いだァァァア!河川敷だァア!!青春ハラスメントだオラァァァァァア!!!」





「黙れェエ!!この白猿めがァア!!!」


 機獣マキナの骨から作られた、梁や柱を跳ね除けトマスが咆哮する。



「消してやるッ!!消してやる消しやる消してやる消してやる消してやる消してやる……貴様なんて微塵も残さず我の前から消えて無くなれェェェェエ!!」


 突き出した黒き鉄骨の先で、トマスが右手を天にかざす。巨兵を顕現させていた四本の髄が、トマスの右手に絡み憑き螺旋状に捻れていく。



 かつて彼を覆っていた、青と黒の霊体。そこから溢れていた、神話の戦士を語るに相応しき重圧。それを無理やり一か所に集めて、その色をより濃く、深く、異質なモノへと転現せんとするトマス。その〝チカラ〟の収束に地が割れ、大気が震えて凍る。



「面白くなってきたじゃねェかァア!!テメェの〝パワハラ〟全力でぶつけて来いよォォォオ!!オレの〝アオハラ〟とォどっちがツえーか勝負じゃァァァァァァア!!!」


 彼岸丸の〝スロンガトロン〟が呼応し、翠の波動を荒ぶらせる。



「図に乗るなァあ゛!!圧倒的力の前に消えろォォォォォォオ!!!



  螺旋拘束ヘリックカノン:サタンリングス!!!」




 トマスが〝その名〟を唱えれば、彼の掲げた手の上に、不気味に光を吸う青と黒とが廻り巡る円盤が現れた。


 先刻までの、四つの剛腕を振るう巨体からは考えられぬスマートな形状と、静謐に場を呑むようなプレッシャー。


 その出方の分からぬ武器を前に、通常の異世界転生者ならば先ずは様子を見ることであろう。なぜなら最近彼らはとてもリアリスト。何だかんだ冷静沈着なのである。ならば、彼岸丸は行くだろう。なぜなら彼は、バカなのだから。




「よっしゃァァァ!!!オレもッ!!パワーアップ行くぜェェェエ!!!」




 彼岸丸は走り出しながら、裾よりタッパーを出し、ニンニクトウガラシミンチをハンマーにぶっかける。




「これがァア!!〝スロンガトロン:mode台湾Fire〟だァァァア!!!」




 当然、ポースを決めるために派手に振り回すものだから、ミンチは全部吹き飛ばされる。

 当然、それら全てはスーさんがこんなこともあろうかと用意したトーストの上に全てキャッチされ、おいしく食べられました。



「タハハッ!迂闊に来たなァア!!バカめェエ!!!」


 トマスの掲げる円盤の形状が変わる。その外縁を巡り廻っていたリングがそれぞれ独立した円となり、円盤を真ん中にして輪が六つ並んだ。




充溢リベラァア!!」




 トマスが勝利を確信したかの様に、喜々として叫ぶ。すると黒が象る輪の中を、青の幾何学線が奔っていき、彼が〝門〟と呼ぶものが開く………。



 その前に………。





「何を釣られて……熱くなっているのだ?」




 どこからともなく現れた、



 オレンジの合羽を深く被った少年が、




 錫杖をトマスの首に突き付けていた。





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