かば(河馬)いた(居た)ち(地)の朝
「取りあえず、ミアに付いてたメイドがァ、だいたいのところ、〝ガウディが銀髪美少女メイドに転生した件〟なのは良く分かった。そんでェ、行方が分からなくなってから今日で十日目。噂じゃァ、砦の外の橋から飛び降りたァ……と」
「いや、変な要約の仕方しないでっ!転生とか変な事言ってんの、アンタだけだから。……ともかく、仕事のついでに彼女を探して来てよ」
「探しに行けって、もっとこォ情報ねェのかよ?」
「イマミア様は他の方から疎遠にされてしまっているんです。………聞かされる話も悪意のある物だけで……」
「ツバキ達、執事やメイド達の間では、どういう話になってるの?」
「私もここでは異質な方ですので、周りとの交流が多いわけではありませんが………どうやら〝彼女が橋から落ちた〟自体は本当の出来事の様です………。どういう経過かは、情報が錯綜していてどれが真実やら………」
「アノ橋の下なァ……。全然谷中が見えなくて、さらに何かやべェ雰囲気が満々だったんだよなァ………」
「で、ですけどっ!落ち込む事ばかりではございませんっ!!その後、実は屋敷のあっちこっちで、彼女の目撃談があるんですよっっ!!!」
「……それってよォ、〝おわかりいただけただろうか〟方面の目撃談なのでは?」
「………まだ、死んだって決まった訳じゃ無い」
「……彼岸丸…デリカシー0……スー…一つ賢くなった……」
「そ、そうですよー!みんな口をそろえて〝ハッキリ見た訳じゃないけど~〟って言いますがっ……あ、あれ?〝なんかそれらしき影だけ見た〟とかー………〝何かㇲって消えてゆく〟とかー………声だけ………」
「……………」
「………」
「…」
「え、え~と………大丈夫ですっ!きっとセレスティアなら、お化けでも可愛いですっ!!」
「……ツバキ…天然地雷……スー…また賢くなった……」
「はぁ、この際もうお化けでも何でも良いよ………。取りあえず会って〝ミークを探す必要は無くなったから戻れ〟って伝えといて………」
「……何だよ?弟も迷子かよォ?」
「……………」
「弟様のミークシス様は重い病で、確か屋敷の地下にて療養なされていると………」
「こんなだだっ広い屋敷(?)の地下ァ?どっからどう入るんだよ?湖に飛び込むのかァ?」
「さぁ?私には存じ上げませんが……ただ、地下へはご主人様と、ご尊父様しか行く事が出来ないとか………」
「………?情報が違うのか、前提が違うのか、それだと、ご主人様がわざわざ病人の世話焼いてる事になんぜェ?随ィ分と妙な話じゃねェか?」
「そうですっ、妙なんですよっ!私もセレスティアから話を聞くまでは、弟様の存在も聞かされていませんでしたし………」
「……………」
①「ま、そっちは追々、まずはセレスティアを探しますかァ……なァ?スーさん」
②「……気になんなァ…。弟の方を探ってみるかァ……なァ?スーさん」
「ふぉっ!?」
スーは突然の現象に、△の口から何かを噴き出して困惑した。(注:当然表情筋は死んでいる)
何かさっきからみんな、半透明のシルエットで会話ばっかりだなー、とは思っていた。
でも、今はそういう時代なのかもしれないなー、と特に気にはしていなかった。
どーせこれも彼岸丸のオフザケで、自分が何もしなくても進んで行くのだろう、と胡坐で転がっていた。
そう、最近のスーはいつもそうだった。
多忙な日々。
それを言い訳に、都合の悪いものから目を背けようとする。
いつも自分に関係無いとの言い訳を探し……。
平常という、何もしないだけの殻に閉じこもる。
その〝ツケ〟がとうとう回ってきた……。
これは、それだけの事だったのだ。
「……スーも…焼きが回ったもんだぜ……」
彼女は、まだ情熱に燃えていた頃の自分を思い返す。
あの頃は〝真実〟というものがあるのだと、信じて疑わなかった。
その〝答え〟を得る為の潜入はいつも過酷を極めた。
必要とあらば、自分はたこ焼きにでも、団子にでもなった。
揚げられる事もあった。甘醤油をかけられる事だってあった。
けれど、その道の先に結局〝答え〟なんて無かった。
いや、最初からそんな潜入……。
きっと意味すら無かったのだ。
こうして彼女は、心すら失った。
そう、自分に残されているものなど……。
………。
いや、本当にそうだろうか?
本当に自分はもう何も無いのか?
ならば、目の前の選択肢は一体何だ?
自分にはまだ残されているのか……?
〝選ぶ〟という権利を……?
その時、記憶の中の、かつての自分が、今のスーに喰らい付いた。
(※ただし、どちらも表情は変わらない)
ならば………!
だったら………!!
今度こそ逃げない!!!
今度こそ見つけてやる!!!!
〝真実〟と言うヤツをっ!!!!!
だから、自分の答えは
〝スー〟という存在の答えは!
「……とりあえず……セーブで!」
「いや、無いからそんなん」
我に帰るスー。目の前にはハッキリ姿のあるミアが居る。
「……あれ?………皆の衆は?」
スーは口を△にして辺りを見渡す。ミアの小屋にはスーとミアしか居ない。
「……朝の務めに行った。屋敷の動力源になるスライムの捕獲」
ミアが腰掛けるベットの横で、四角いカバがブルブル震えている。
「……選択肢は?」
「①」
ブルブルブルブル忙しないが、その瞳には一切の曇りなく、何とも澄んだ色をしているではないか。
「………そっかー…………」
虚無を見つめるジト目で、漏れた言葉は〝そっかー〟しか無い。
〝そっかー〟だけしか無かったのだが……。
〝そっかー〟とスーは人生で一番強く思った………今日この頃だった。
そして、四角いカバは震え続ける。