メイドの試験は大変ですッ!!
「これぞ劇場型奥義裏六番っ!〝美少女万能メイドが異世界に面接しに来た件〟です!!」
裏声ってレベルじゃない。明らかにcvの交代があった。
辺り一帯をほのかに甘い花の香りが舞った。それは、優しく人の思考を融解させる。言ってみれば、魔法耐性無効の強制魅了である。
「あの~早く、ご主人様にご挨拶がしたいのですが、通していただけますか……?」
最早自分が誰かも分かっていない、魂が飛んでった守衛。その二人は困り顔うるうるの上目遣いによって、偽りの魂を埋め直される。
「「………そうでしたか~。すみませんおじゃまして~。どうぞ、どうぞおと~りくださ~い!」」
鼻の下デロンデロンの二人は、すぐさま門を開けようと両端に向かおうとするが……。
「アンタらぁぁぁぁぁぁあ!目を覚ませぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」
その前に、ミアから強烈な平手打ちをお見舞いされる。
「「グベェッ!!」」
「頼むよぉオイッ!門番なんだろッ!?確認とらずに何入れようとしてんのよ!?分かる?アレ不審者ッ!!アレこそが〝HUSHINSHA〟ッ!!!てか、アレ〝男〟ぞ!!!!………たぶん」
ミアに襟をブンブン揺すられて、頭パラダイスだった守衛の理性が少し戻ってきた。
「……バカな…男の娘………だと…?実在していたのか……?」
ふわふわしていた守衛の顔に衝撃が奔ったが、まだ内容が不十分。
「正気カムバックッ!!!!!!!」
守衛の溝内に深い衝撃が叩き込まれる。少女の膝だ。
「カハァッ!!!」
片方の守衛の口から偽りの魂が抜ける。すると周辺でオロオロしていた魂が戻って来た。
「オマエも、これぐらいやんなきゃ……分からない?」
ミアは隣の守衛を睨む。彼は高速で首を横に振り、門に自分の頭を自ら打ち付けて正気を取り戻したそうな。
一方、その惨劇を目の当たりにしたメイド二人は〝真剣にやろう〟と胸に堅く誓っていた。
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「オ、オマエはイマミア、性懲りも無くまた生きて帰ってきたのか?」
「ハハッ、てっきりオマエもどっかで自殺してるもんだと思ってたぜぇ?」
黒き森の果ては断崖。未だ帰る者なき深淵の上を、白砂被る石橋が四方に一つずつ。そして、北側のそれには誰が置いたのか、手向けのユリが一束。
「せっかく、屋敷に迷惑かけないように外で死んでくれるなんて何て良いヤツなんだと、感心してたのになぁ!!」
ミアは無関心を決め込むが〝ココにいつまでも居たくない〟という焦りがあった。こいつらの長ったらしい〝ご挨拶〟なぞは、どうでも良い。ただ、その白々しい花が、ミアの心の内の赤く爛れていた部分を撫でて来そうで、嫌だ。
「良くそんなに威勢よく仕切り直しが出来たね?……どうでも良いから、私だけはそこ通してよ。言われたとおり、指定の薬草…採ってきたから」
左右の耳から雑音が流れて来る。アレは意味の無いノイズ。だから気にする必要は無い。
「無能はいいよな~なんたって無駄を繰り返す時間が有り余ってんだからよ~」
「ところで、その後ろのメイドは何だ?セレスティアの代わりか?オマエの所為で、ちょうどそっから飛び降りたセレスティアの代わりwww??」
何かノイズの中に知っている様な言葉を聞いた気がした。でもそれは気のせい空耳だ。だから心を揺らす必要は無い。
「ウケるな!少しは心を痛めたりしねぇのかよッ!?だったらオマエの所為で死んだセレスティアの墓に〝代わりを持ってきたよ〟って報告してきてやんなぁ?」
「だいたい無能かつ居候のオマエが、〝選ばれし子供〟様の真似事なんかするのが筋違いなんだよぉ!」
何も自分で望んで従者が居た訳では無い。……違う、アレは意味を持たない音。応じちゃダメだ。息なんか普通にしてろ。目なんか熱くするな。
「ハハッ、真似事もクソも無いだろ?ありゃ逆だよ。セレスティアは無能のメイドをやってたワケじゃねぇ!セレスティアは〝家畜〟の世話をしてただけだッ!」
「なるほどッ!ご主人様はセレスティアだったワケかッ!!それじゃ~良かったでちゅね~、新しい飼い主様が見つかってぇ~!」
私は門が開いたら通るだけ。それ以外は無い。アイツらはセレスティアの事を知らない。だからあんなの何でも無い。反応する必要無い。
だから、こんなので……こんなヤツらのせいで……泣きたく…ない。
嘲笑の中、ミアの顔は真っ赤に震えてゆく。彼女は隠すかのように俯いた。
視界に石畳みしか映らなくても、彼女を取り巻く世界は自分を指さし嗤う者達で埋め尽くされている。〝ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ〟と限りなく続く拍手喝采。その中心で彼女は深々と礼をしてやり過ごそう。舞台から去って、どこか遠くの果てに消えるまでは……。
「オォイ、豚ァ」
男の彼岸丸の声がした。
「何?アンタもそいつらの話にノルの?確かにアンタのギャグよりは面白いもんね……」
メイド服の彼は、下を向くミアの横を通り過ぎて……。
嗤う守衛の鼻穴に二本の指を突き刺した。
発現した守護精霊を貫いて侵入し、更に前方へ引きつける指に、二人の守衛は〝フガッ!?〟と表情を変える。
「ギャグゥ?……悪ィなミア、この豚共〝ブヒブヒ〟うるさいだけでェ、全然何言ってんだか分かんねェんだわァ??」
神秘的に整っていた顔が、冒涜的に歪む。守衛達はまさに、天使が悪魔に切り替わる瞬間に立ち会った。
「豚が塀から出て来たならァ豚舎に戻しとかねェとなァァァァア!それがァ、メイドの務ってヤツよォォォォォォォォオ!!」
そのまま彼岸丸は回転し、鼻フック状態で振り回された守衛二人が、雷鞭の様に城門に激突した。轟音伴う衝撃で、巨大な門は守衛もろとも吹き飛んでいく。
「さァア!実技試験は華麗に突破じゃァァァァア!!面接に案内しなッ!!!ミアお嬢様よォオ!!!!」
その時、ミアを突き抜けて行った風は、後ろのユリも虚空へと放り投げていった。
本当にうるさいバカだと思った。
得たいが知れなくて、多大に勘に触るヤツだけど………でも、もう少しだけなら、利用しても良い気がする。
それに〝厄介な奴ら〟が来てしまったから……。
巻き上がった砂塵が退くと、目の前には屋敷どころでは無い、地平がどこまでも先に拡がる無音の間。
どこにも、陸が無い。
いやずっと遠くに、島の様な影が六つ見える。
あとはただ、波一つ立た無い水面があるばかりだ。
今や空は、日の橙さを隅へ追いやり、紺青に星を付け始めている。
それを、ココは下を向いていたって分かる。
これはまるで………。
「ようこそ
〝水鏡天命反転陣〟
彼の英傑コンロン・レグナトールが築きし第六闢秘術その終着点へ」
上から声がした。
彼岸丸達が見上げると、銀の月を背後に宙に飛び石が並んでいる。
その螺旋の先に、一切の穴も絵も無い白無垢な仮面の男。
その下で、浮く石から白い脚をパタパタと垂らし、得物を爛々と見つめる赤毛の少女。
「ハッ、まさか面接会場の方からのこのことォ、コッチにお出ましとはなァア!!」
メイドの彼岸丸はより歪んで笑う。
「いくぜェ、スーさんッ!眼にモン見せてやろォオぜェ!!」
「………我……今…修行の成果を……くわっ!……果たさんっ」
スーさんは、表情が固定されている。だから〝クワッ!〟となった時は自己申告が欠かせ無いぞ。
二人のメイドは月光の中、迅き旋風或いは、電光石火の稲妻の如く石の足場を駆け上がり、最上の列石群へと立った。
今宵の風は冷ややかなるも、深く吸って深呼吸。
闇夜を叩くノックは3回、決して2回で止めはしない。
眼前の敵の間合いへ入る時、しっかりと「失礼します」の挨拶。
威風堂々たる戦場への越境。そして……。
「「よろしくッッッお願いしますッ!!!」」
彼岸丸とスーの〝礼〟。
その角度たるや一度の狂いも無き90度。
完全なる〝直角〟がここに顕現した。




