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トラップ・トリップ7

 

 寝て起きたら牢屋だった。


 唐突すぎて焦ることすらできない。


 人魚でも入れられてそうな円柱型の檻。鎖で四肢は拘束されていて、さらに檻にも鎖がついていた。この檻は、牢屋の中で宙吊りにされている。

 これぞまさに二重。

 こんなに頑丈にしなくとも、非力なカーバンクルは逃げ出せやしないというのに。


 というか、どうやってあの厄介者の集まりのようなアジトから連れ出すことができたのかが不思議で仕方ない。謎だ。

 助けて欲しいが、昼のおじさまの冷たい表情が希望を消していく。あんな顔する人が助けに来てくれるとも思えない。

 冗談だった、にしては冷たすぎる顔に見えた。


 仕方なしに檻に座っていた。しばらくしたら少し見覚えのあるおっさんたちが出てきた。


「全く、やんちゃな小動物(ガキ)め……」


「まぁ、次の競りに間に合えばいいでしょう」


「しかしなぁ、多少仕置きでもしておいた方が……」


「そんなに逃げることが心配なら、いっそのこと殺してしまえばいいではないですか。剥製でも十分価値があるでしょう?」


 心ない言葉で震え上がる小動物。

 なんだ、それ。こんなに可愛いカーバンクルを剥製にしようだなんて卑劣な……いやしかし、狐の剥製とか鹿の剥製とかみて可愛いーって言う子供もいるし……仕方ないのか?


「生きてるカーバンクルの価値をわかってないのか、アンタは! 今出回っている生存個体はいないんだぞ!」


 怒号が飛ぶ。驚いて跳ね上がってしまった。

 わかってますって冗談みたいなものですよ、なんてもう一人の男が言う。



 見覚えがあるなと首を傾げていたら、思い出せた。

 回想シーンに出てきた奴だ。

 夢の当初に追っかけてきた悪徳商人の親分みたいな立ち位置の男。もう片方の物騒で殺そうとしてきた方は知らないが、おそらく手下か傭兵か。


 これはイベントだ。

 序盤の商人戦だ。

 ルートを間違えたらバッドエンド間違いなしである。しかしながら、イベントであるなら流れもわかる。こっから少し後で警備部の二人が団長の命令で乗り込んでくる。そうとわかれば安心でき……ない。

 ストーリー通りに進むとは限らないのは初っ端から決まっていた。来なかった場合何かアクションをしないとバッドエンドまっしぐらになる可能性がある。


 とにかく一旦脱出を試みてみよう。


 此処で活躍できそうなのは、『スキル』である。


 宝石を作れるだなんて、商人どもにバレたら即刻売りに出されてしまいそうで諸刃の剣のようだけれど、さっさと爆発させてしまえば問題ない。

 まずは鎖を外さなくてはいけない。しかし爆発させれば当然音が出る。気づかれる。

 あらかじめ宝石を作って備えるべきだ。


 そこからはスキルで延々と宝石作りをしていた。

 抱えられるだけいっぱい作る。アジトで貰った服を着ていたのだが、商人たちに着せ替えられてはいなかったので、そのままだったおかげでフードがついていた。そこにも詰められるだけ詰める。



 狭い檻の中で精一杯離れてピンと張らさせた鎖に接触でき、なおかつ自分から一番遠いところに小さい宝石を一つ置く。檻の鉄格子にも近い場所だ。

 一回の爆発で鎖の解除と檻からの脱出を同時に行える。

 そして爆発させる前に、もう一つの爆だ……宝石を牢屋の方の鉄格子の近くに投げる。


 同時に爆発させれば、逃げる際に立ち止まってもう一回なんて手間が省ける。


 いざ、バーニング!


 どっかあんと音がして、熱風が襲ってきた。

 ひどく耳につく爆発音で、思ったよりも熱気が酷かった。


 熱い。金属が熱を運んできて手は火傷。足も火傷。

 痛いし、熱い超えて冷たいし、酷い目にあった。自分でやったことだけど。


 無事に四肢の枷につながる鎖は焼き切れた。鉄格子も子供が二人分くらい通れそうな穴が空いた。足枷手枷はそのままだが、歩けないほどぎゅっと締められている訳ではないから無問題。


 宙吊り状態だった檻は落ちなかった。飛び降りて脱出。足を打った。捻挫してそうだな、なんて他人事のように思いながらも、すぐに飛び起きる。

 牢屋の鉄格子も焼き切れている。


 爆発音のせいか人が走ってくる音がしたので、急いで反対方向に走る。


 逃げる際の道やマップは覚えてもいないし知らないのでテキトーに選ぶ。

 なんかの漫画で見た。とりあえず右にいけの法則を活用。

 これって自然では意味ないんだっけ? 特に詳しくないのだ、自信がない。途中から三又の分かれ道が増えてきたので、勘を頼りに抜けていく。


 たまに爆弾の設置と爆破を行う。定期的に無差別爆弾魔になる。なかなか楽しい。夢の中だからかもしれないが。


 ずっと走っていたけれど、小さな歩幅ではどうにも逃げ切るのは難しいようで、すぐに足音が大きくなってきた。

 廊下を駆け抜けていて、たまたま目についた扉を開ける。

 中は倉庫のようだった。手頃な樽に入り込む。


 ホラーゲームではクローゼットや学校の掃除用具入れがメジャーだが、樽もなかなか便利である。


「どこに行った!」


「あんのネズミ野郎、逃げやがって!」


 あまりにも口が悪い追っ手にどんな姿をしているのか想像して遊べる程度には心に余裕があった。


 世紀末ならモヒカンやつるっぱげが主流だけど、此処は中世ヨーロッパみたいな街並み。……適度に髪の生えたオッサンかなぁ。いやしかし、声を聞くにもう少し若めのあん()ちゃんの可能性もある。


 どちらにしろ柄が悪いんだろうなぁ。スーツ着てたらマフィアだもんなぁ。


 というか、ネズミじゃないんだけど。


 怯えながらも楽しく愉快な非日常を感じながら、樽にこもっていたら、走っていたのであろう男どもが悲鳴のような声をあげた。部屋の外なので詳細はよくわからないが何かモノが倒れたような音、血肉の飛び散る料理中みたいな音が聞こえた。これは誰か殺されている予感。

 樽の外が、この樽のある部屋の外、廊下が、血濡れになるイメージが脳裏に浮かんだ。



「なぁなぁ、アンタら、カーバンクル知らねぇ?」


 全く聞き覚えのない声。

 一つだけわかるのは商人側ではないということだ。

 商人側なら、同じく探している()()を殺しにかかるわけがない。


「せんせぇが探してんの。ちびっこなんだって」


 聞き覚えのない声だが、先生と称される人を知っている……そしてセリフになんとなく心当たりがある。

 彼は敵ではないかもしれない。

 しかしながらやべえと称される諜報部の奴の可能性が浮上してきた。単純に怖い。その部の奴は科学者の彼だけでもうお腹いっぱいだというのに。


 そう、彼が言う先生がその研究者なら、おそらく彼が誰か特定できている。


 ともかく出るかどうか、樽の中に篭っていたいがどうしたらいいか、悩む。


 知らない、追いかけていたんだ、まだ建物の中だろう、彼が倒した奴らの言葉。

 それに舌打ち一つした彼はかったるいとばかりにため息をついた。


「殺しまくっておしまいなら楽なのになぁ」


 その気持ちはわからなくもないが、どう考えても異常者の思考だ。

 ガクガク震えていたらその揺れで気がつかれたらしい。

 大きな音がした。何かが壊される音、壁にぶつかった音。

 衝撃で樽が倒れた。当然中にいた己の体も横になった。

 部屋の扉が吹っ飛ばされたのだと気がついたのは、先程より彼の声が大きく聞こえたから。


「……この樽かぁ。ちび、迎えだ」


 乱雑に樽の蓋が開けられた。仕方なしにのそのそと這い出ることにする。もうどうしようもない、なるようになればいいのだ。


 樽から出たすぐ側で威圧的に立っていたのは思っていたよりもかなり細身の男だった。


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