エヴィル・スネーク9
作戦は綺麗にまとまった。
兄はいつのまにやら世界的テロリストに変貌を遂げていたし、なんなら一部地域では悪魔として祟られている。
今では人の入らぬ僻地で1人実験を続けているみたいだ。
噂を知った時の間抜け顔が見たくてたまらなかった。
下手を打って殺されにいきたくなかったので会いにいくこともなかったが。
ついでに、一団に正面から遊びにいったら、こいつが変態の弟かと団員に囲まれた。
あわや討伐されるかと思ったが、憐れみの目でお菓子をくれたりお茶を入れてくれたり優しくしてもらった。
それ以来ちまちま遊びに行く。
兄はデッドオアデッドの犯罪者になってしまった。あながち間違いではない犯罪者なので、僕は何一つ罪悪感を持っていない。
転生してからずっと、マッド兄貴に気を遣いながら生きてきたので、やっと自由に第二の人生を歩めると言った気分である。
これが1人だけ転生だった場合、こんな結果には出来なかっただろう。
「転生者仲間がいてよかったな、と常々思うよ」
「そうか……俺はもう一生あんな可哀想な子株たちを作らないと決めたんだ」
「それは本当ごめん……あの後息子との関係は良好なの?」
タートルは相変わらず、のらりくらりと旅をしている。歳をとる様子もないから、こいつといると時間感覚がなくなる。
ペストマスクとは永遠を共にする気らしい。
「良好、良好。息子がお前のことを心配してたから、兄が近づいて来なくなって、ホッとしてたって報告しといた」
事実だ。ホッとしている。もう一生会いたくない。
「そういや、一団のとこの研究者が、俺のこと追いかけてきてな。なんでも、人のようなトレントとは興味深い、とか言ってきてさぁ」
「ご愁傷様、彼相手だと、諜報部のおまけ殺人鬼がついてくるから大変そうだね」
「そうなんだよ、逃げるのに苦労したんだ」
チビちゃんの相手する時みたいにもっと優しくしてほしかったと愚痴るタートルに、見目の問題じゃないかなぁとぼんやり思った。
片や可愛い小動物、片やゴツいペストマスク男。
対応に差が出るのもわかる気がする。
「トカゲちゃんとカメレオンちゃんは元気なのかい?」
「今では一団にすっかり馴染んでヤバイ集団の仲間入りしてるぞ……息子もトカゲ信者だ」
トカゲちゃんはその小動物らしいルックスと引っ込み思案な雰囲気(あくまで雰囲気だけ)で一団内に多数の信者を持つカルト的人気を誇るマスコットキャラへと変貌を遂げた。
当の本人はスペキャいわゆるスペースキャット顔を晒していた。本意ではないようだ。
流石カーバンクル、かの生き物がいるところに富が集まるというが、貢物が集まってきてどうしたらいいのかわからない状況まで追い込まれているらしいと耳にした。
その件に間しては、貢物はお野菜か親切心と戒律を作って解決したそうだ。つい最近信者のマナーを説く教本を配り始めたそうだ。
今では一団の周辺で満遍なく流行っている。その名も新宗教『小動物尊拝会』。
尚、信仰対象の了解は広まりきった後に得ることができたという。まぁ、つまりは、事後承諾だ。
「トカゲちゃんは今では神様みたいな扱いになってるねぇ、実質、それだけ珍しくて富を運ぶオマケ付きの生き物だものね、おかしくはないか」
「あいつらは能力云々ってよりも、可愛い小動物だからって面しかないと思うが……」
「……まぁ、可愛いから仕方ないね」
確かに僕も可愛いとは思う。無垢な雰囲気やほにゃりとした柔和な表情、小さな体躯、食べるものすら小動物なのだ。
中身もかなりぼんやりした子だ、流されやすい面もある。これからも、あれよあれよという間に高いところへ祭り上げられて、結局のところ『ま、いっか』で済ませるのだろう。
「カメレオンちゃんは?」
えぐい作戦の原案を考えた超弩級の変人。
観点がずれているのかもしれない。これは前世からなのか、今世からなのか、特異能力者であることも相まって、よくわからないが、一般的とは言い難いのは確かである。
「段々、色のつく範囲が増えてきて毎日が輝いていると本人から聞いた。前世の記憶からか絵を描き始めたらしくて、双子にいつのまにか販売されていて、一団の資金稼ぎにかなり貢献しているらしい」
「財務部に画家がいる……うん、楽しんでいるならいいんだ。楽しく今世を生き抜いてほしい」
転生者仲間たちは毎日楽しい人生を送っているようだ。
僕は彼らが今世をきちんと謳歌していることを知って安心した。マッド兄貴が解き放たれていたらこうはならなかっただろう。
ついでに、時たま聞く、トカゲちゃんの未来予知大騒動事件とか、カメレオンちゃんの星降らしチャレンジとか、世界樹の復活事件とか、かなり大騒動を引き起こすそれさえなければ、もっともっと安心できるのだが、世の中そう上手くはいかない。そも、カメレオンちゃんはどうして隕石で絵の具を作ろうなんて考えに至ったのか。
転生者仲間達はどうにもはちゃめちゃで破天荒な奴らだった。
今世の僕は、兄をなんとかしてもらったという引け目から、きっと彼らの後始末係になるのではないかと畏怖している。
彼らは問題を起こしている自覚がないから、仕方ないと言えばそれまでで、意図的にこちらに後始末が回ってくる訳ではないのは確かなのだが……。
転生者である別の知識添付済みの僕らと、元からこの世界に生まれてきた記憶しかない現地民とでは、価値観が違うことは当たり前だ。
ついでに転生者特典なのか、僕らは総じて一般住民よりはマシなスキル持ちで、種族や生まれが『普通』ではない。
この差からギャップが生まれたり、生まれつきデパフがついていたりする。
トカゲちゃんの『名前がわからない』名前の定義のない曖昧な効果。
カメレオンちゃんの『感情がわかってその原因がわからない』どこか違和感を感じる効果。
タートルの『他者との時間感覚の大幅な相違』という少し悲しい効果。
こういう普通とはちょっとばかりズレているものを、僕はデパフと呼んでいる。転生した時の弊害ともいう。
トカゲちゃんのは少し何処からか干渉されている感が否めない。他2人は同じような種族や能力だった場合、現地民でも同じデパフ付きがいるかもしれないが、トカゲちゃんのはオンリーワンである。
この差がなんなのか、僕には予想もできない。
別に考える必要もないと思っている。
理由がわかったところでどうにかなる可能性は少ないからだ。
え? 僕のデパフについて?
マッドな兄貴にすくすく育てられた僕が普通に育つとでも?
僕には、ちょっと常識を理解できないだけのデパフがかかっている。理解できないだけで、わかっているふりはできるので、どうか気にしないでもらいたい。
僕は兄ほど狂っていないので、変態事件(偽)で逮捕はされるようなヘマはしないから平気だ。
「爬虫類のあだ名を持つ自由な転生者は今日も元気に、異世界を楽しんでいるのでした……めでたし、めでたし……なんてね」
僕のスキルが黒板でなくて本当に助かった……名前に呪いのようについてきてはいるけど……やっぱり前世の影響とかあるのだろうか?
「なんか言ったか? コクバン」
「サーペントでーす。亀は思考もノロマだから、思い出すのに時間がかかるのかなぁ?」
「なんだと!」
挑発に乗ってくれる優しい世界樹を見て、僕はついつい笑ってしまった。
これで完結です
ここまで読んでいただきありがとうございました。




