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エヴィル・スネーク8

 

 一方その頃、サーペントとタートル。もとい、悪魔使いとトレントはなんとか離脱していた。


 とりあえず合流しようと、アジトに向かっているところだ。


 悪魔に抱えて運んでもらうのも考えたが、どうあがいても悪の手先の雰囲気で軍隊や冒険者へ討伐要求をされてしまうので、馬での移動をしている。馬は兄の元から実験動物にされる直前の子を頂戴してきた。

今は中継地点の森でキャンプ中。

 事前準備なしのサバイバルではあったが、片方がトレントなので、食料は一人分でいいし、寝るならトレントに天然ウッドハウスになってもらうので問題はない。トレントに人権はない。バシバシ利用する。

 食料調達は呼び出した低級悪魔に頼んだ。

 弱々の子たちはそこら辺のお花とかでも喜んで仕事してくれるのでパシリにしやすい。




「……通信機使って大丈夫かなぁ? 誰かといる時に通話(コール)しちゃうと思わぬ騒ぎになりそうで使いづらいよねぇ」


「存在の意味がないな、この通信機」


 おっしゃる通りです。他2人に連絡を取りたいのだが、下手に通信機を使うと、その道具はなんだ、どうして遠隔連絡ができると騒ぎになりかねない。

 なんせ、この通信機は〈悪魔召喚〉のスキルを最大限活用した僕の傑作。常人じゃまず作れない。

 この技術が公になったらまずい部類のものだった。しかもノリと勢いで作っただけあって、実用的でない部分が多いのだ。


「盗聴使って、周囲の状況確認すればいいだろ」


 これには盗聴機能がついていると言ったのはお前だろう、タートルがそう言った。完全な盲点だった。どうして僕はこうも抜けているのだろうか。



 早速とばかりに、盗聴を開始する。


 ざわざわとした音量に、どうやら一団では騒ぎになっているのだと気がついた。通話しなくて正解だった。

 ま、あれだけ可愛がっている団員が持ち出されたのだ、こうなるのも無理はない。

 むしろ団長が出てきてもおかしくない。


 一団、『ニフェ』の団長はかなりお人好しな面がある。うまくいったらあのクソ兄貴をなんとかしてもらえないだろうか、と心の中でつらつら考える。


「私はてっきり、奴隷商あたりに売り飛ばされるものかと思っていたのですけど、どうにも……その、えっと」


 どうやらカメレオンちゃんがうまく口を回しているらしい。

 どう言い訳するのだろうかと固唾を呑んで聞く。


 ざわざわと周りの声が大きくなる。

 何やらカメレオンちゃんみたいな肝の座った子が怖がっていて驚愕しているらしい。

 彼女は演技派だったのか。


「…言葉で説明するのがかなり大変な変態が犯人で……ことに気がついたその犯人の被害者()さんとその方のお知り合いの方が逃してくださって……」


 どうやら、逃してもらった体でいくらしい。僕とタートルは逃した側のようだ。実質間違ってはいない。そして変態談義の成果が垣間見える。

 本当にその作戦で行く気なのか。



「えっと…リボンで急所を隠した男性が踊りながら近づいてきて……」



「「は?」」


 音声と僕らの声が丸かぶりした。戸惑う僕らを光速の速さで置いてけぼりにして話が続く。



「咄嗟にチビちゃんの目は隠したんですけど、あれは、見たことがない色でした。かなり赤くて、狂人で変態でした……弟さんとご友人の方が凄い勢いで謝りながら逃して下さったのですけど、私にも何が何だか……」



 僕らにすら何が何だかわからない。

 その話の内容でいくと、僕は頭の可哀想な兄を持つ可哀想な弟で、タートルはその苦労性の弟の友人になる。


「狂人なのは、間違ってないけど、けど……」



「もう、後には戻れねぇなぁ……あの作戦本当に遂行するのか……」


 タートルが遠い目をした。仕方ない。諦めてくれ。僕なんて変態の兄に育てられた弟という複雑な設定のまま生きていかねばならないのだ。


「そういえば、お兄さんの(ペストマスクの)お父さんが困った顔してた」


「は? ジジイなんつーとこにいたの? え?」



「ちょっと黙ってくれ、チビちゃん!」



 チビちゃんがとんでもない爆弾発言をした。

 タートルが絶叫した。無論、あちら側には聞こえない叫びだった。

 彼は親としての威信をかけて、変態説を駆逐したいらしい。


「助けてくれたの」


 この一言で、ペストマスク変態野郎説は消えたが、やっぱりその服装はどうかと思う。これに懲りたら普通の目立たない格好をしてくれないだろうか。



「もう、俺の心臓が休んでいいよって言ってる」


「言ってないから、もう少し動いて、あとトレントに心臓あるの?」


 ないと返事が返ってきた。だよね、木から心音が聞こえてきたらホラーだ。


「これ、合流は諦めて変態の噂を急ピッチで流した方がいいね。タートル、分身作って」


 タートルが大きなため息をついて、嫌だなぁと大きな独り言を言った。重々承知の上で、やってくれと頼んでいる。

 こちとら死活問題なのだ。


「服はどうする」


「こんな時のための悪魔だよ。悪魔なんだから変換くらいお手の物だろうさ」


 呼び出すのは、比較的温厚な悪魔。出来うる限り僕のことを害さない子。



「……聞いてるかな、セエレさま」



「ボクに用事かな?」


 セエレは悪魔だ。僕より格上に当たるので様付けで呼ぶ。

 悪魔なので悪いことが好きだし、彼にとっての面白いことが残虐的な面もあるし、別に安全ってわけではないが、契約者には優しく、願いを叶えてくれる程度の温厚さがある悪魔。


 突然出てきた美青年にタートルが驚いているが、放置の方針でいく。


「今から、タートルが分身を大量生産するから、僕の兄貴に似せて、カメレオンちゃんが言っていた格好に変えて、世界に解き放ってきて」


 どうせ全部聞いていたのだろう、深い説明の必要はない。

 悪魔は総じて面白いことが大好きだ。こんな好機を逃すはずがない。呼ばれるのを楽しみにしていたことだろう。

 タートルに兄の顔を見せに行った意味はない。元々このつもりだったから行くなと言ったのに、タートルが聞いてくれなかったのだ。


「あぁ、いいとも。世界を騒がせる大騒動になるね、それだけでお代は十分だよ……まったく、これだから君の周りは面白いんだ」


 怪しげに色気たっぷりな笑みを見せる彼にため息をつく。


「これの考案者は僕じゃないよ」


「知ってる」


 それならばまるで僕が元凶であるかのような言いっぷりはやめてくれないだろうか。



「じゃ、早速作ってよ」


 タートルにそう促した彼は少しだけ威圧感を醸し出している。タートルは若干引いた顔をしつつも、スキルを使った。


「俺の分身……」



 作った端から変態にされていく己の分身、子株たちに悲しそうな顔をしている。今にも泣き出しそうだった。その顔がさらに加虐精神をくすぐっているのか、セエレが面白がってオプションを追加している。

 そのサキュバスみたいなえっちな格好はお前の趣味なのか。お胸のおっきなお姉様なら素敵だろうけど、オネエさまに着せるのは勘弁してほしい。契約主がこんなにも困惑しているのに、セエレは手加減してくれない。


 さらには触手が足元にチラついているのが見えた。これはあの有名なやつかと思うと同時に、僕は頭を抱えた。


 かなり対象が限られているエロ同人を作り出すのは勘弁してもらいたい。誰が見ても目の毒だ。失明しそう。むしろ失明したい。目の前の惨劇を見たくない。


 タートルから、やめてくれと絞り出すような声が聞こえて、僕が小さな声で止めに入る。そこでやっとセエレが子株たちを送り出し始めた。



 各地に突然出没する変態に、世界は振り回されるだろう。


 これからのことを考えて、僕は十字を切って決意した。


 この事件の真相は、墓まで持っていく。



 ついでに僕が兄貴(へんたい)の弟だという事実もなかったことにしたい。



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