エヴィル・スネーク7
2人して攫われて、2人で仲良く化け物に乗って帰ってきたドルチェとチビに一団は歓喜と同時に困惑した。
(もちろん、ドルチェのインディコにも驚かれたが、スキルですの一言でそれ自体は納得された)
どこに行っていたのだ、何があったと口々に聞かれたカーバンクル。
自分の上司、調整部のおじさまに抱えられながらわんわん大泣きした。戻ってこられた安心感と怖かった記憶により泣き出したのだと思われた。
実際は、訳のわからぬ変態談義や転生者が他にもいたことなど衝撃の事実が山のように押し寄せてきたことを、安心した拍子に思い出して混乱しているだけだった。
もう一度死にそうになって怖いなぁとは思っても、絶望して恐怖したと恐れ慄くほどこのカーバンクルはメンタル虚弱ではない。
ちょっとおかしな転生者4人組のうち1人であるチビはそんなことではへこたれない。むしろ後々人前で大泣きしたことを恥ずかしがるタイプ。恥ずかしくて、夜中に枕に顔を埋める羽目になった。
通常ならほわほわ笑っているチビが、少し大人びた顔をして襲われた時は樽に逃げ込む可愛い小動物が、大粒の涙をこぼして、声をあげて泣いている。
それだけでかわいいもの護衛隊と化していた警備部と調整部が怒り狂った。ブチギレたとも言える。
中には助けにいけなかった悔しさに涙ぐむ団員もいた。攫われたのが二度目なのだ、仕方ない。
諜報部にもチビを心配している人がいた。
チビをというか貴重な検体をというべきかは怪しいところだけれども、心配はしていた筈だ。
検体の無事を確認し、健康状況のチェックもした。擦り傷程度の軽傷を塗り薬で治すついでに血も採取していった。
相変わらずだった。
ドルチェの所属する財務部も大騒ぎだった。
外交にうってつけの新人が攫われたのだ。双子が大騒ぎした。
ともかく一団総出で大騒ぎになっていた。
それを見て、ドルチェは閃いた。
この騒動は、使える。
ドルチェは元々、特異能力者であることも相まって人の心理を掴むことに長けてはいなかったが、周囲の状況を的確に判断する敏感さは持ち合わせていた。
ついでに、彼女の心には、犯罪者寄りの悪どさを含んでいる。そうでなければ一部とはいえ、犯罪者と意見の合致とかあるはずがない。
ともかく、ドルチェはこれは利用できると確信した。
「何があったのさ、ドルチェちゃんは怪我してない? 無事?!」
「平気?」
双子が騒いでいる。己を心配しているのだと、心からそう思っているのが色でわかったので、ドルチェは少し場違いではあったが、嬉しくなった。
「……あの、私も何が何だか……わからなかったんのですけど、実は……」
ドルチェは気がついたら2人で牢屋に入れられていたことを話した。
2人という嘘に首を傾げたチビだったが、すらすら喋る彼女に、目のお姉さんは素直に助けを求めるのだろうかと考えていた。もちろんこの予想は綺麗さっぱり裏切られる。
「私はてっきり、奴隷商あたりに売り飛ばされるものかと思っていたのですけど、どうにも……その、えっと」
目線を踊らせ、言葉を濁すドルチェ。普段のハキハキした部分が揺らいでいる。
「え、なに? やばいやつだったのソイツ」
「人攫いだからヤバいやつでしょ」
「あのかなりどっしり構えてる子が言い淀んでいる…?」
「諜報部の喧嘩にもびくともしない肝の座った子だよ?……その子が、言い淀んでいる……だと…?」
話を聞いていた団員たちがざわつく。
「…言葉で説明するのがかなり大変な変態が犯人で……ことに気がついたその犯人の被害者さんとその方のお知り合いの方が逃してくださって……」
「言葉で説明できない変態……」
「具体的には?」
双子がツッコミたそうな顔でドルチェを見る。
ドルチェはできうる限り、苦々しく困惑したような表情をして、言い放った。
「えっと…リボンで急所を隠した男性が踊りながら近づいてきて……」
「「は?」」
「咄嗟にチビちゃんの目は隠したんですけど、あれは、見たことがない色でした。かなり赤くて、狂人で変態でした……弟さんとご友人の方が凄い勢いで謝りながら逃して下さったのですけど、私にも何が何だか……」
嘘のような嘘だったのに、状況と演技力で乗り切った。
普段、嘘や冗談をあまり言わないことと、特異能力者という限定的な人間からの感想、そして何よりドルチェは演技派だった。
わなわなと震えて見せた彼女は、家族まるごと殺人現場になった場所で平然とできる異常者である。そんな彼女が、怖くて震えている。
つまりやべえやつに攫われたってことだな、おっけー把握、とばかりに双子が屈伸をした。殺してくるらしい。後ろに過激派の警備部が続く
「……よくわかんなかった、けどこわかった」
「お嬢は知らなくて大丈夫ですよ。もう平気ですからね」
よしよしと頭を撫でられるが、それにほわほわできるほど、チビの心に余裕はなかった。突然の変態捏造に何を喋ればいいのかと頭を抱えたくなっていた。
不意に、言葉が漏れる。
「そういえば、お兄さんのお父さんが困った顔してた」
「は? ジジイなんつーとこにいたの? え?」
「え、あのペストマスクさんが?」
上司に抱えられて肩に顔を埋めていたチビは、顔見知りの団員に爆弾発言をかました。このカーバンクルは爆発物製作が得意だった。
これは、もうどうにでもなあれの精神だと割り切ったのが理由である。
ペストマスクと聞いてそいつも変態なのではないかというあらぬ疑いをかけられて息子が必死に弁明している。
「助けてくれたの」
「何やら、そのへんた……犯人さんの弟さんのお知り合いらしくて、たまたま遭遇したみたいで……」
よくわからずに、逃げてきましたと2人して証言した。
このままいけば、サーペントの兄は完全なる冤罪によって日の当たる道を歩くことは出来なくなる。
まずは第一段階開始だと、ドルチェはほくそ笑んだ。




