エヴィル・スネーク6
脱出ゲームがスタートした。
「やっぱり子株の顔も似せたいから、写真が見たい」
「写真をばかすか撮れる世界じゃないんだよ。あるわけないじゃないか……そもそも子株の顔変えられるの?」
「気合いでなんとか……じゃあ、顔だけ見てくる」
マジか、と思うも束の間だった。
そう言って彼はすたこらさっさと、兄のいるであろう追手の方へ歩いて行こうとしたのだ。無論、僕は止めた。
おい、それはフラグだ。
ホラーもので襲われるフラグ。もしくは、ホラゲ実況で、一回だけ敵の姿を確認してから死に戻りするやつ。
転生者の僕らは、命に対する価値観がだいぶ下がっているから、死ぬことに対して抵抗が少ないのかもしれない、しかし、この世界は死に戻りできるゲームではないので、側から見れただの狂人。
無茶はやめろと言葉で伝えてみた。意味はなかった。
彼は思いの外、頑固者なのだ。
「鬼畜的脱出ゲームでわざわざ相手を呼び寄せて、ルナティックモードにしたやつだーれだ!」
「おれー」
ズダダダと走って逃げるのは、僕とタートル。
トカゲちゃんとカメレオンちゃんは、別ルートから逃走している。
タートル1人にしてもよかったのだが、どれが兄なのか判別できるのが僕だけだったため、僕までついていく羽目になった。単純に辛い。
気色の悪いゾンビを連れて、後ろから追いかけてくる兄。
久々にまともに顔を見たが、相変わらず顔面偏差値だけは高い、ムカつくくらいに。なぜ神はアイツに良い顔面を与えたのだ。
「あぁ、お前から来てくれるなんて、幸運な日だ。ほら、さっさと実験室に行こうか」
「あれが兄だなんて思いたくない」
「若干厨二病入ってる気がするな」
声をかけてきた鬼に、僕が遠い目をしながら走る。タートルは冷静に喋りながら走っている。
言葉を交わす余裕があるのは、僕のスキル効果だ。ちなみにタートルは素の身体能力が魔物だから問題ない。
悪魔さんに身体能力向上のスキルを借りてきたのだ。
僕自身のスキルは普段あまり使わないけれども、例外としてスキルの貸し借りはよくする。
あんまりにも威力莫大、国滅ぼせますなどといったスキルは対価が酷いものなので借りないが、低級のスキルなら息をするように借りる。
この前は、巨大化のスキルを借りてお風呂のアヒルを巨大化させた。菓子変換のスキルを使ってお菓子の家も建てた。童心に返った気分でとても楽しかった。
ちなみに菓子変換のスキルはほぼネタ枠だ。任意のものを好きな菓子にできる。生き物も対象内だ、動く菓子ができる。そう考えると、簡単にカニバリズムが体験できるスキルにも思えてくる。
ここで疑問が出るだろう。
兄貴、菓子にしちゃえばいいのでは?
そう思ったこともあったが、無理だと結論づけてある。
兄のスキルは汎用性が高く、効果の倍返しのようなこともできる、よって僕まで動く菓子になる可能性がある。それは避けたい。生きたクッキーにはなりたく無い。
「2人の方は無事かなぁ」
「爆発物を振り撒く化け物に乗った小動物2匹だから問題ないだろ」
「……そーだね」
爆発物を振り撒くトカゲちゃんと四足歩行の青い化け物を呼び出していたカメレオンちゃん。
いざって時は通信機で連絡すればよい。
「目のお姉さん」
死んだ目をしたカーバンクル。チビはどうにも目の前で起きたことを信じられなかった。
「なんでしょうか」
どうでもないことのように喋るドルチェ。彼女はどうしてチビが呆れているのか、呆れていることは理解できても理由までは理解できなかった。
「コレって過剰防衛」
「仕掛けてきた方が悪いのです」
2人は、大きな鉄棒を潜るように簡単に脱出していた。
追っ手を引きつけている2人の存在も大きいが、それよりも安全を確保できた最大の理由は。
「私のインディコちゃん、久々に出したので張り切っているみたいですね」
彼女がスキルで呼び出した化け物、インディコのせいだ。
青色の再現だと彼女は言うが、他の人間にその言葉が理解されることはない。
ただただ青い化け物を生み出すスキルとしか理解できないだろう。現にカーバンクも遠い目をして理解することをやめた。考えてもわからないのだ仕方ない。
青い化け物は目がたくさんあり毛深いゾウのような姿をしている。鼻は長くないし、耳も猫か犬のような形をしているからゾウだと表現するのもおかしな気がするが。
「……元気だね」
その青い化け物は2人を頭の上に乗せて、追っ手を踏み潰して走っている。とても可愛いとドルチェが呟いた。チビは嘘だろこいつと目を向いた。
チビは僕がここにいて何の役に立っているのかと考えながら現実逃避した。
「脱出は簡単でしたけど、鬼ごっこのクリアが問題なんですよね……あの作戦でうまくいくでしょうか……」
「……常人の精神をカケラでも持っているなら効果はあると思う」
チビは喋りやすくなってきた。ツッコミのしすぎで、声を出すことに慣れてきたようだ。
理由が悲しい。
追っ手のゾンビやクリーチャーはインディコに潰されたり、自分がターゲットにされた途端に焦って爆弾(宝石)をばら撒いたチビにより早々に殲滅された。もっとも、比率的には9:1程度の話で、罠(爆発物)はあまり役に立たなかった。そのせいでチビの自尊心は駄々下がりである。
ドルチェはゾンビはザコだったと呟いた。
ただの事実だった。




