エヴィル・スネーク5
「何してるんですか二人とも」
「絵しりとり」
議論が終わるまでの間、あまりにも暇だったのでトカゲちゃんと一緒に地面に絵を描いて遊んでいた。
僕の画力が壊滅的すぎて、繋がりやしなかったが。
「これ何」
「電車」
「独創的な芋虫にしか見えない」
タートルに間髪いれずに足蹴りする。自分でも何だこれとは思ったが、他人から言われるとムカつく。
トカゲちゃんは魚は上手だよとフォローを入れてくれるが、それは無限マークの片方を尖らせると魚になるという知人からの教えで描けただけだ。
自分の画力ではない。
絵描き歌すらまともにできない。
見てよこの国民的アニメの絵。僕が描いたら化け物になってしまった。お前じゃあ子供番組に出られない。
美術系特化のカメレオンちゃんがお手本を見せてくれる。
地面の落書きとは思えないクオリティーのものがほんの数秒で出来上がった。
写実的な電車。コミカルな魚。おまけに少女漫画に出てきそうな可愛らしい芋虫。なんでその作画にしたんだ。
圧倒的画力の差を痛感しながら、絵を見比べる。
やっぱり僕の電車は電車に見えなかった。
「それで? 案は固まったの?」
そりゃもうばっちり、と二人はいやらしい笑みを浮かべた。
タートルは完全に吹っ切れたらしい。カメレオンちゃんは転生事故で性格トチ狂ってるようだから多分通常運転。
僕は兄がどうにかなれば他のことは大抵どうでもいいのだけども、それにしたって吹っ切れ具合がイカれてやがるなと思ったし、兄が少し、ほんの少し、駒込ピペット一滴分ほど可哀想に思えた。
「この世界の平均的な服装が分からないから、それに準じて『誰が見ても変態』を求めた結果。スリングショットに網タイツとバニーちゃんカチューシャにしました」
調達の目処はこれこれこんな感じで、かかる費用も多くありませんと購入プランもたてている。作戦立案がとても上手なカメレオンちゃん。どうやら職場のツテを使うらしい。
「すりんぐ……?」
スリングショットとはどういうものだろうか。技名のような語感だと思ったが、服装であることは確定事項だから違う。
網タイツとバニーちゃんカチューシャを合わせるのだから、余程やばい代物であることは簡単に予想できる。しかしながら、僕もトカゲちゃんもスリングショットなるものを知らなかった。
「水着だ。女物。それも、えっちなお姉さんが着るタイプ」
「ほぼヒモですね、もしくはリボン」
「兄が着々と変態に仕立て上げられていく」
大嫌いだし、どうにでもなれとは思っているが、実の兄でもあるので微妙な気分になる。止める気はないけども。
「ヒモの、水着?」
単語だけでやばいんだろうなって予想ができるのに、トカゲちゃんが追及してくる。詳しく聞かなくていいよ。忘れようよと促すが、無情にもカメレオンちゃんが喋る。
「ん……、えっと、豊乳のお姉さんが、大事なところだけリボンで隠している姿を想像してください」
その言葉を聞いて、ぽんっとトカゲちゃんが顔を真っ赤にした。アレ、君女の子じゃなかったっけ? 男の子だった?
どちらにしろ、彼もしくは彼女はどうにもウブだったらしい。綺麗なお姉さんを想像して顔を真っ赤にするくらい健全な子供だった。
ウブなトカゲちゃんの性別について考えている間にも、会話は進む。
「その綺麗なお姉さんの格好をそのままに、タートルさんのような筋肉質な男性に置き換えて考えてください」
それが完成形です、そう言葉が続く前に僕は気分が悪くなった。兄の姿を知っているだけに更にダメージが増量キャンペーンを仕掛けてくる。
トカゲちゃんはさっと顔を青くした。
健全な子供にこれ以上変態について教えないでほしい。
「……地獄の格好だろ。俺の子株たちが可哀想」
タートルが死んだ目で呟いた。
そう、この格好をさせられるのはタートルの子株だ。
「頑張って下さい」
「お疲れ様」
カメレオンと僕の応援に、タートルはぐたりと顔を下に向けた。マジで最悪と愚痴を言っている。
すまねぇとは思うが、全ての元凶は兄貴だし、所詮他人事、頑張れとしか言いようがない。
水着の件を聞いた後だと、網タイツとバニーちゃんカチューシャのインパクトが薄れる。
これは現代日本なら公道を闊歩した時点で、即刻お縄につく格好間違いなし。
誰が見ても変態というコンセプトは捉えていると思う。
マッパよりも怪しい格好なんてそうそう思いつかない。
カメレオンちゃんとタートルの発想力にドン引きである。
「誰得の格好だろうね、本当に」
「俺らに得があるんだろ」
真顔でタートルが言い切った。確かにそうなんだけど、そういうことじゃなくて……。言いたいことが言葉にならず、うわぁと口から形容し難い声が漏れる。
「これが美女だったら、あぁ、痴女なんだなで済みそうですけど、筋肉質なおっさんだったらうわってなるのはなぜなんでしょう、需要の差?」
「……もう1人男の人がいれば……一定数の人に需要があるよ」
その需要はもしかしなくとも薔薇ってやつだろうか。
知りたくなかった世界がここにある。
そもそも可愛い子供の見目をしたトカゲちゃんからそんな言葉は聞きたくなかった。
「俺は綺麗なお姉さんが嫁に欲しいのであって男はノーセンキュー」
「綺麗な男の娘……」
「さては君、雑食オタクだったな」
トカゲちゃんは何をいうでもなく意味ありげに微笑んで見せた。それだけ見れば不思議ちゃんな可愛い子供なのに、会話内容がえぐい。
「記憶が無いくせして余計な知識だけはいっぱいあるんだね、トカゲちゃん」
「覚えておくことの、重要度が、他人と違うだけ……」
「……さて、作戦立案も今後の方向性も決まったことだし、まずは脱出しよう」
僕はツッコミを放棄した。
未だ脱出できていないことを忘れていたのであろう3人は、揃ってあっと声を漏らした。
これは僕がしっかりしないとすぐに実験台コースになると確信した瞬間だった。




