エヴィル・スネーク4
「打つ手なしの詰みゲーだ……」
「さっきから思っていたんだけど、トカゲちゃん実はかなりゲーマーだった?」
キョトンとした顔をして、なんのことだろうととぼけるトカゲちゃん。純朴な子供の顔をしているが、逃げている途中にホラゲーとかバールとか言っていたのはしっかり聞こえていたからね。
記憶が曖昧でも好きだったものは忘れないのだとチビちゃんをみているとよくわかる。
「……封印、拘束、殺害、他に方法……社会的に動けなくするとかどうですか?」
雑談モードに入りかけていたところでカメレオンちゃんが声を挙げる。
敵地にいて追手まで来ているのにのんびり喋っていられるのは、危機感のない日本人四人組だからなのだろうか。
今更ながら、転生者全員日本人って奇跡に近いなぁと思う。
「社会的に……」
タートルがよくわからないという風にはてなマークを虚空に浮かべる。
「異世界にだって、迷惑防止条例あるでしょう。無くても、世間体で、あいつやべーやつや、誰か何とかしてって意見が民衆の間で広まれば国が動きます」
「兄貴取り繕うの上手いからそういうことになったことはないなぁ……」
「だいたいどうやってやべえやつだって広めるんだ?」
僕とタートルの意見。カメレオンちゃんはニコニコと笑顔で言い放った。
「私たちのスキルを駆使して、変態野郎に仕立て上げるんですよ」
既にあいつは変態なんだが、そこんとこどういうことだろうか。全くもって意味がわからない。
「いいですか? 他者に見られたら通報されるレベルの格好もしくは言動にさせればいいわけです。そしたら人の目につく場所での活動が困難になります」
たしかに、動けなくなるだろうけども。変態の格好ってそもそもなんだろう。裸くらいしか思いつかない。
理解の追いつかない会話にトカゲちゃんは溶けてきた。
怒涛の意見は続く。
「いくら能力が高くても、周囲の人間皆殺し作戦を決行するタイプではないことは、今まで実験体さんを放置していたことから一目瞭然。無理に外に出歩けないとなると自分のホームグラウンドである実験場から動かなくなるでしょう」
話の内容は良いと思うが、僕のことを実験体って言っただろう。僕には確かに言葉の中に潜む意味がわかった。
「具体案は? どうやってそんな格好にするの?」
クソ野郎は正直言ってチート級魔王だ。誰か勇者呼んできてってレベル。僕らに大人しく好き勝手されるわけがない。
「本人は放置です。タートルさんのスキルを使います」
思わぬところで名前を出されてタートルが驚いた顔をする。
何をさせる気だと若干警戒気味だ。
「分身作れるって言ってましたよね? 体躯的にもマッド研究者さんに四人の中で一番近いです。そこで、分身さんたちに彼のフリして変態のカッコや言動をさせることで各地で騒ぎを起こします」
タートルの目が死んだ。なぜそんなことをって顔に書いてある。トカゲちゃんは未だに虚空を見つめて戻ってこない。
「分身体が捕まっても、タートルさん本体は普通の格好で何もしなければ捕まりません。分身さんの移動は私のスキルで出せる子やサーペントさんの悪魔たちに運んでもらえば各地に広まるのは簡単です」
タートルが常時ペストマスクの変人な格好であるのが不幸を呼んだ。分身の顔が変えられなくて顔面バレしても問題ないということが、カメレオンちゃんの目に止まってしまったようだ。
危険で変態な各地に出没する謎の男。指名手配間違いなしだ。完璧な案だと彼女は胸を張っているが、僕らは総じて正気かと疑っている。一番の被害者は変態の真似事をせねばならぬタートルだ。
「変態ってだけで危険視されなかったら、チビちゃんの能力を使って爆弾魔に仕立て上げます、ちょっとエッチなトラップが作れるならもっと効果があるんですが」
追撃でトカゲちゃんが倒れた。僕も顔を両手で覆って降参ポーズ。この子のデパフは倫理観の死亡だったのだろうか。何気にまとも枠だと思っていたカメレオンちゃんの連撃に衝撃から戻ってこれなくなる。
「……エッチなトラップ……条件有りで出られない部屋……触手から亀甲縛りまで……」
倒れたトカゲちゃんから聞き捨てならない言葉が漏れる。
トカゲちゃんは無駄にそういうことを知っていた。やれるかもしないと呟いている。ショタロリ女体化なんて聞こえ始めた時点で僕は耳を塞いだ。
純粋なカーバンクルのトカゲちゃんはそんなセリフ言わない。これは幻聴だ。
タートルが地面に蹲って素数を数え始めた。
可哀想にとは思うけど、全てはあのクソ野郎討伐のためだ。悲しいだろうが、礎になってくれタートル。
最悪の場合、君は大樹の姿で時が経つのを待っていてくれ。
人の噂も75日というから数年待てば、時間が解決してくれるだろう。
心の傷は一生消えないかもしれないし、いつぞやのように昔話のように伝えられて残るかもしれないが。
「問題は格好や言動ですね。変態ってどんな生態していましたっけ?」
「ぼくへんたいじゃないからわかんない」
溶けた僕のセリフだ。もう頭の中を真っ白にしてある。
「常識的に考えておかしい行動をさせればいいってことだよなぁ……この世界じゃ着ぐるみ着ててもペストマスクでも平然としている住民が多いし、裸じゃ芸がないな」
実際に万年ペストマスクをしている彼から言われると説得力がある。
「全身タイツとか言語Tシャツはどうですか」
「インパクトが足りない気がする」
「アイドルのステージ衣装。スパンコールマシマシ」
「局部だけスパンコールとかでも良さげ」
加速するタートルとカーバンクルの変態追求議論。
「急募:常識」
「常識なら旅行に出かけましたよ」
遠い目をして呟いたら、トカゲちゃんが真顔で返してきた。
「そういえば、トカゲちゃん、随分流暢に喋れるようになったね」
「慣れました」
小動物しか癒しがない。
美女とペストマスクの変態とは何かの話し合いがひと段落するまで、僕はカーバンクルを撫でて荒んだ心を癒していた。
なお、兄からの追手は未だ僕らに気がついていない模様。かれこれ2時間ほどはこの場にとどまっているというのに、どういうことだろうか。




