エヴィル・スネーク2
時は戻って、今の話。
僕は転生者仲間と話をしている。
「てなわけで、君らは、というか僕もなんだけど、クソ兄貴に狙われているんだよね」
「それ俺ら集める必要なくね?」
即答したのは世界樹くん、もといタートルだ。
鋭い一撃を放たれた。痛いとこ突くなぁ。
「むしろ一箇所に集めると、捕まりやすいのでは」
さらに追撃してくるカメレオンくん。言ってることはわかるんだが、むしろ集める意味なんてないに等しいのだが。
「アレの相手を一人でしたくない」
「巻き添え事故じゃねえか」
「しかも故意。事故じゃなくて事件ですね」
引いた顔の二人。
我関せずなのはぼんやりしているトカゲくん。
トカゲくんは少しマイペースなとこがあるね。
「そんなわけでパリピのノリで連絡できるようにして、鬼ごっこの逃げ子を増やした訳なんだけど」
さらりと言い放てば、兄似てクズになっちまったんだなとタートルがため息をついた。誰があんなのに似てるって?
足を踏んでやった。タートルは特に反応しなかった。
僕は本気で踏んだのに、木に感覚神経はないのかもしれない。いや、そうだったら小突いてやり返してくるなんてしないか。
「この後のことなんも考えてないんだよね」
「馬鹿ですか。え、これからどうするんです?」
呆然とした様子の彼女は頭が痛いとばかりに額を抑えた。
思いの外、彼女ははっきりものを言う。
主張があるのは良いことだ。
「みんなで鬼ごっこしよう。鬼は兄貴」
「ひでぇ。捕まったら最後被験体のデスゲームじゃん。やっぱり、この通信機爆弾仕込まれてるだろ」
そういえば、首に爆弾が、殺し合いをしろ、っていう話、たまに見るよね。頷きつつも、言葉を返す。
「失礼な。居場所探知と盗聴しかしてない」
「有罪」
残念ながら、こういうことに関する法律はまだこの世界にない。よって僕は無罪。
黙りっぱなしのトカゲくんは、話を聞きながら、部屋の探索をしている。自由人だ。自由人がいる……人じゃなくてカーバンクルだから、自由獣?
「よし、この元凶は、放置だ。まず自己紹介から始めよう」
「元凶は僕でなく兄貴」
「犯人はみな、口では否定するものなのさ」
「信じてくれない」
軽口を交わしながら、自己紹介が始まった。
最初は、言い出しっぺのタートル。
「前世、社畜。カラスに襲われて死んだ。今世では木の魔物になって、家族は、養子の息子が一団の警備部で働いてる。名前はミドリ。由来はお察しの通り、俺が木だから」
初っ端からとばしてくる。
カラスに襲われて死んだとかいうパワーワード。
正直に言ってどうかしてる。何故そうなったのか切実に経緯を知りたい。
「カラス……?」
あまりのことに、今まで黙っていたトカゲくんが呟いた。
「そうそう、酒飲んでてさ、なんか、やんのかコラってなって、過労と出血と酒の飲み過ぎが死因」
「「うわぁ」」
初めて聞いた知人の前世の死因。酷すぎてなにもいえない。これ他の人の聞くのが怖くなってきた。
そもそも前世の死因について聞き合うこと自体が初めてだ。
知らない世界を覗いている気分。
サメに食われたとか殺人事件に巻き込まれたとか言われたらインパクト酷すぎる。僕の死因では対抗できない。
「はい次、元凶のコクバン」
「だからその名で呼ぶなと……えっと、僕、コクバン・ラディエータ・ウィリビー。前世は、遊び盛りの高校生。よくあるトラ転勢だよ!」
一息で名乗る。名乗りづらい名前だ。勢いに任せて喋ったところ、今世の年齢含めると二番目の長寿だろってタートルに言われた。グゥの音も出ない事実。
「同じ苗字の兄弟が嫌い、名前自体も嫌いだし長いから、スネークでもサーペントでもヘビさんでも別ので呼んで」
ウインクしてみる。微妙な顔をされた。なんだその顔は。文句があるなら口で言って欲しい。
「それにそうしないと君が聞き取れないよね」
カーバンクルのお嬢ちゃん、トカゲくんは名前が聞き取れない。頷いている姿は可愛らしい小動物。
さて中身はどんな人だったのか。次は君の紹介を、と要求する。それを聞いて、トカゲくんは急に目線を泳がせた。
どうしよう、どうしようとアタフタし始める。一体何があったのだろうか。
「……くわしく、覚えてないです」
やっとのことで絞り出したであろう言葉は、弱くて小さくて消えそうだった。
所在なさげなその姿は不審者を呼び寄せそうな可愛らしさだ。防犯ブザーをあげたい。
「……カーバンクルの、えっと、チビ……って呼ばれてて……他の人の、名前が…聞き取れなくて……」
泣き出しそうな表情に、深く問いただす選択肢は消えた。
情報量が圧倒的に少ない。未だに上手く喋れないのか、言葉に詰まりながらも、しっかりと会話しようとしてくれる。
前世情報が少ないどころの騒ぎじゃないことは問題だ。
周りが情報の無さに黙り込んでしまったからか、追加情報を加えてくれる。
「……学生だった……多分」
「小学生から大学生まで、差がすごいですね」
カメレオンくんがもそもそ喋るトカゲくんを撫でながら喋る。アレは下の兄弟を見ている目線だ。仲良しで何より。
「最後、私ですか。前世は美大生。今世は特殊な家系育ちのドルチェと言います。特異能力者である点以外は至って普通の村人Aです」
さらりと、さも自分は一般人であるというふうに主張している。
「ただの村人は特殊能力なんて持ち合わせてないよ」
君が本当に普通の村人Aであったなら、この場にいないはずだ。転生者四人組の一人である時点で既に普通ではない。
「特異能力だろ、コクバン」
指摘するタートルを無視する。
細かいことはいいじゃないか。特殊能力でも十分通じるのだから。
「さて目下の問題は、どうやってこの鬼ごっこを制するかって話なんだけど」
「鬼ごっこってか、マッドサイエンティストとリアル鬼ごっこっていうか……」
命の危険が伴うのは決定事項である。参加変更不可なことが恨めしい。
「安全地帯に引き篭もるのが良いのでは?」
カメレオンちゃんが意見を言う。
あの地獄の底まで追ってくる兄から逃げ切る自信は、正直言ってない。いっそのこと誰か殺してくれないかなと思っている。というか、殺せる能力を持つスキル持ちに希望をかけている。
「安全……おじさまのとことか……」
会話の流れを見て黙り込んでいたトカゲくんが、ぼそっと呟いた。
「誰のことかな?」
「あー、調整部の、まとめ役の方、ですかね。チビちゃんの所属部署ですし」
「あー、一団に身を置くってことか」
説明をしたのは、カメレオンくんだった。トカゲくんにもわかるよう名前を抜いて説明してくれたようだ。
この案は悪い案ではない。悪くはないけれども、かなりめんどくさい。
まず相手方にどうやって説明して身を置かせて貰うのか。所属員二名と、身内がいるもう一人はともかく、僕はどうしたらいいのだ。僕は一団との関わりがほぼない。
え、僕だけ鬼ごっこさせられるの?
一人で?
仲間探しした意味は?




