幕間・出会いの話
それは唐突な出会いだった。
異世界転生に気がついて、どうせ木だから今世は動かずに生きていこうと思った。
あの頃はまだ生まれたてのベビーウッドだった俺。
今世の世界について特に思うところはなく、稀に近くにおかしなかたちの動物や甲冑着た人間が来るからこの世界は前世とは違った世界観だなと思うくらいだった。
人間の話し声を聞いて、おかしなかたちの動物が魔物だと知った。その事実よりも人間の言葉が理解できることの方が驚きだった。
死因がカラスだから鳥には思うところがある。
捕食器官と呼ばれる、食虫植物のハエトリグサの形をした葉っぱで食べてしまう程度に、鳥が嫌いだった。
その日も枝に留まってくるリア充の2羽を捕食したところだった。ゆっくり溶かすように食べるのがマストなので、しばらく鳥の悲鳴が聞こえた。
あぁ、これが食べるって感触なのかと冷めた心で考えた。
人間を食べる予定はないが、一応トレントだし、ゲテモノスイーツを食べる感覚で目の前を通りかかった人間に捕食器官を向けた。
その人間こそが、後のサーペント、本名コクバン・ラディエータ・ウィリビーだ。
名前が長く、初っ端のインパクトがひどくて漢字変換して黒板としか思えない。
名前の構造はまた面倒くさく、コクバンは育った貴族の苗字、ラディータが名前でウィリビーは土地の名前。
コクバンって貴族がいるという事実は、俺を三日三晩笑かし、腹筋崩壊させた。
「ちょっと、いきなり襲い掛からないでおくれよ」
トレントの俺に悠然と話しかけてきた彼は、側から見ると木に話しかける男という不審者になることを気にもせずにいた。
ちなみにその頃の俺は、声の出し方も人になる方法も既に確かめてあって、そろそろこの地を去ろうと考えていたところだった。
平然としている彼と会話を試みた。どうやら探し物をしてうろうろしているのだという。
「その探し物って、ヒントとか目印とかないのか? 何もなしに探すんじゃあ不利にもほどがある」
「ないんだよね、これが。見つけても、会話してみないとわからないし、探知機は作り途中だし」
「それは会話ができるのか」
「発狂してなければ、まともな会話は可能だろうね」
なかなかに物騒なことを言うので、逃げ出した実験体でも探しているのだろうと、その時は思っていた。まさか俺がそうだとは思わなかった。
数日後、完成した探知機を持ってやってきた彼は、お前じゃんと一言呟いたのち、捕獲と称して抱きついてきた。
無論、その時俺は人型をとっていない状態で、彼が抱きついたのは木の幹だ。どう足掻いても変人にしか見えない行動をとっていた。
「何が俺だったんだ」
抱きついたまま離れない彼。もはや奇行。
コイツがイカれてるのはいつものことだから、心配はしていない。
「ねぇ、嘘でしょ。僕こんなに頑張って探そうって意気込んだらまさかの灯台下暗し……」
回答になっていない返答をどうも。
探そうといえば、彼は探しものをしているのだったか。
話の流れ的には、探知機使ってまで探していた相手がすぐそばにいたってことか。
「まぁ、なんだ。ドンマイ」
ところで、俺はなぜ探されていたのかまったく検討もつかないのだが、聞く気もなくて、旅に出る話もせずにその日はそのまま別れた。
結局その後、彼の来訪を待ちもせずに旅に出てみた。
木から人間の姿になり、裸はまずかろうと葉っぱを繕って原始人のような服装で森を闊歩する。
のんびりしていたので進みは亀より遅かっただろう。
ある時は海に面した街に行った。
刺身、煮物、浜辺でバーベキュー。買い食いしたいので、手頃なバイトをしたり、気まぐれに魔物を倒してお礼をせしめたりした。
ある時は砂漠に行った。
干からびかけて地元民に拾ってもらった。
ご飯も美味しく人柄も良かったが、いかんせん水が無さすぎて長居はできなかった。
その地方ではどいつもコイツもノーパンだったという衝撃的な思い出。
ある時は洞窟にできた村に行った。
余所者を歓迎して軽くお祭り騒ぎをした彼らは実は盗賊で身包み剥がされた。
軽い窃盗くらいだったら許容範囲内の懐がガバガバ俺だったが、流石に全部寄越せの精神の相手に躊躇はなかった。
捕食器官で全部食べてやった。消化に時間がかかって阿鼻叫喚になった。
そういえば、その時だ。
捕食を目撃してしまった通りがかりの人に、恐怖の世界樹とかいづれ魔王になるトレントとか不名誉なあだ名をつけられたのは。魔王ってなんだ。俺には配下すら居ないぞ。
その事件自体が世界に名高く広まることはなかったが、地元では知る人ぞ知る学校の怪談のような広まり方をしたらしい。絵本にもなった。童話のような綺麗なペン画で描かれた樹木はどう見ても俺には見えなかった。
めざとく追っかけてきたサーペントにこの話をしたら、彼は俺をよく世界樹と呼ぶようになった。不気味なとついていないだけマシだが、あまり呼ばれたくない名前だ。
その追っかけてきた彼は、電話番号を交換しようのノリで、体に埋め込むタイプの通信機を寄越そうとしてきた。
デスマッチ系全員死ぬスプラッタストーリーだった場合、その通信機は高確率で爆破するなり、毒薬を流し込むなりする。
危険な機能が搭載していることは容易に理解できたので、拒否した。それ以来、しつこい悪徳セールスマンの如く付き纏ってくる。腐れ縁ってこういうことだろうか。
長い付き合いだけれど、俺は未だにアイツの目的を知らないままだ。いつになったら知ることができるのだろうか。




