ウッド・ダディ7
現在捕獲され中の3人組のおっさんの方です。どうも。
何故このメンツなのかが謎すぎる。美人二人とおっさん。
本体で考えれば、大樹と美人二人でとても絵になるのだが、今この状態を考えると全く絵にならないなと現実逃避を始める。
拘束を解くことができても、檻から出られないのなら意味がない。会話を続けて犯人が出てくるまで待っていると、不意に足音がした。ゆったりとしたものではない。かなり急いでいる様子だ。
当然、俺とお嬢ちゃんは臨戦態勢をとる。
チビちゃんは野生の本能からか、毛を逆立てて威嚇モード。そんなにぐわりと怖い顔をしたところで、ちっこくて可愛いから意味がない気もする。
そういえば、アリクイの威嚇ポーズって両手広げていかにもハグしようって感じのポーズだったなぁ。それを初めて動画で見た時と全く同じ気分だ。
「うっそでしょ。本当にいるじゃないか!!」
ドタバタと走ってきたのは顔見知りのやつだった。
「お前が犯人か。コクバン」
「そっちの名で呼ばないでくれ!……ってそうじゃないんだよ。君たちどうしてこんなとこに、いや、理由はわかる。あのクソ兄貴だ」
どうしてこうなったのかをコイツはよく知っているようだった。コイツの名はコクバン、漢字にすると黒板に変換できる名前ガチャでネタ枠引いたような青年。この前夜中訪問してきたはた迷惑なやつである。
「あ、サーペントさん」
「サーペントさん、何故ここに」
二人がおかしな呼び名で彼を呼ぶ。
おや?
そういえば、この男は、この間、サーペントさんって呼んでなんて言っていた。
名前のわからない子がいるらしい……いや、それは転生者の話であって……?
思考時間は30秒。すぐに答えがわかった。
この三人の共通点は、転生者だ。
「コクバンってサーペントさんの本名ですか?」
「そっちで呼はないで!」
彼は茶化すようなお嬢ちゃんの言葉に、叫び声をあげながらも、檻の鍵を外しにかかる。
ものの3分で外れた鍵を、放り投げて、檻の中に入ってくると、流れるようにチビちゃんを抱える。
「ほら、タートルもカメレオンくん持って、こっち来て」
字面が訳わからないのだが、残っているのは俺とお嬢ちゃんのみ。
どっちがどっちかわからないが、おっさんがお嬢ちゃん抱えるか、お嬢ちゃんがおっさん抱えるかの二択の場合。どう考えても前者が答えだ。
お嬢ちゃんに一言断りを入れてから、お米様抱っこ。お姫様の方はハードルが高かった。肩に乗せるにも、この子はそこまで子供じゃない。身長差で走るのに安定しないだろう。
「…高い…お腹痛い…」
両手両足がプラリと宙に放り出されて、さながらクレーンゲームに掴まれた景品のような体制は少し身体が痛いらしい。
「すまん、我慢してくれ」
他にやりようがないのだ。仕方ない。
「サーペントさん、久しぶり」
「あぁ、うん。久しぶり……安全なところに行った後に説明するから、とにかく走って」
コクバンはどうにも焦りのないチビちゃんに微妙な顔をした。まったくもって緊張感がない脱走だ。
何が何だか理解できないまま、彼のいう通りにする。
檻を抜けて、彼のいうまま、道を進む。新幹線みたいだとチビちゃんがつぶやいた。そういえば、この場の全員、転生者だったなとぼんやりと考える。
他の奴らは気づいているのだろうか。事情を知っていそうなコクバン、いや、サーペントは無論真実を知っているとして、他二人はどう思っているのか。
「うわ、何か追いかけてきますよ」
「え、なにが」
不意に耳元でお嬢ちゃんがそう言った。すぐに問い返すと、青々しくて真っ黄色で気色悪い!と叫ばれた。
意味がわからない。普段話している時でも時折噛み合わなくなることが多い特異能力者は、こういう時の意思疎通は全くできない。どうしたらいいか。
素直にそれじゃあわからないと伝えるほかない。
「生命力にあふれた負の感情を溜め込んだ化け物です! 具体的にはホラーアクションゲームのR-18Gのゾンビ……あ、これも伝わらないか……とにかくゾンビです。ゾンビ。腐った化け物」
「振り向きたくねぇな」
想像して身震いする。グロ系は前世と比べるとよく見かけるけれど、慣れたわけじゃない。見れないわけじゃないが、嫌悪感は抱くタイプ。
「ホラゲ……武器……バール探さないと…」
「こんなとこに落ちてないよ」
チビちゃんとサーペントが余裕こいて会話している。俺より早いのは、サーペントのやつが身体強化系のスキルを使っているからだろうか。いや、彼のスキルは別系統だ。借りてきたスキルだろう。
スキルの貸し借りは普通ならできない。彼の場合少々特殊なのだ。今この現状に特殊ではないやつがいないので、もはやレアスキルだとは思えないが。
しばらく走り続けて、やっと彼の案内で一つの部屋に潜り込んだ。普段運動しないタイプの俺にはハードだった。いくら旅しているからといっても限度がある。
抱えられていただけのお嬢ちゃんとチビちゃんはそんな俺に優しくしてくれる。ここが天国か。
一方、この現状について一番理解しているのであろう青年は、部屋に結界だかバリアだかを張ってすぐに床に突っ伏した。意識はあるし怪我しているわけではないので問題はないだろう。
ぐったりとした様子の彼がうつ伏せのまま説明を始める。
せめて起き上がれよ。
「はい、じゃあまず簡単に三文で説明するね。研究者の兄、異界に興味を持つ。僕らは異界の人代表として兄に目をつけられた。検体として狙われてます」
「普通に説明しろよ、訳わかんねぇ」
この大騒ぎの元凶がコイツの兄だということしか伝わらなかった。
コイツの兄弟が面倒なタイプだということは知っていたが、ここまで酷いとは思っていなかった。
「話すと長くなるから、手短にしたんだ」
なんて白々しいことか。
僕の親切心だよ、と青年、サーペントはぼやくが、全く親切じゃないと感じるのは俺だけなんだろうか。
「……そういえば、ホラゲ……」
ぼんやりと呟いてチビちゃんは、お嬢ちゃんをじっと見つめる。お嬢ちゃんはキョトンとした顔をした。
「え、何ですか、チビちゃん」
こっちをじっと見て、お腹でもすきましたか、と世話を焼くお嬢ちゃんに、チビちゃんは不思議そうな顔をしながらお腹は平気だよと返している。
「ホラゲって、あの……ホラーゲーム…」
違和感に気がついたらしい。そうだな、さっきホラゲとかR-18Gとか通じたもんな。この世界には無論ない言葉だ。
「え? そうですね。他にホラゲってありました? クラゲの仲間とか?」
どこから出てきたんだクラゲ。
ホラゲ、ほらげ……クラゲ?
二文字同じだけれど中身が全然違う。
お嬢ちゃんの方は違和感に気がついていないらしい。それを見てサーペントは草生えるわーと若者言葉を呟いていた。除草剤を撒いておけ。地面で笑いながら転がるんじゃない。
そんな反応するほど精神年齢若くないだろお前。
「チビちゃんが言いたいのはそうじゃないだろ、多分」
「え、じゃあ何を……」
「あははは、あー、笑える……クラゲの仲間…ふふっ…」
「お前はいつまで笑っているんだ。どこがそんなにツボだったんだ」
爆笑し続けるサーペントを軽く殴りながら、簡潔に助言をする。チビちゃんはそれを見て、痛そうと呟いた。
平気平気、コイツ頑丈だから。
「ホラーゲームって、どこにあると思う?」
「……電気屋、でしょうか。いや、ご家庭にある場合も」
「お前の家にはあったのか?」
携帯型の小型ゲームのものなら一本だけ、とお嬢ちゃんは呟く。彼女はまだ気がつかない。
もうこの時点で俺の中ではこの場にいる全員が転生者だと確信をもっていたが、先に勘づいていたチビちゃんが声を上げた。
「もしかして:転生者」
「チビちゃん、検索候補を出すんじゃない」
「あ、そっか。これ前世の話……あ」
「そうだよ! この場の全員、転生者!」
サーペントが楽しげに叫んだ。テンションが上がっているらしく、やたらと明るい声音だ。
ところで、先ほどから大声で騒いでいるけど、追手は来ないのだろうか。
「そっか……でもなんで…」
この場で集まっているんでしょう、と疑問が浮かんだようだ。口に出ている。思いの外おっとりさんなのかもしれない。そういえば、探してるとか言っていましたよね、とお嬢ちゃんはサーペントに投げかけた。
「そーそー、探してたの。連絡取れるようにもしたし、いつかちゃんと集まって話でもしようとは思っていたんだけど、それをあのクソ兄貴が」
「まずはその兄貴とやらの話からきちんと聞いてやるから、落ち着け……笑ったり怒ったりほんと忙しいなお前」
「君ほど情緒が死んでないんだよ」
誰の情緒が死んでるって? 俺はだいぶまともだろう。




