ウッド・ダディ5
年がら年中ペストマスクさんと一緒なので、俺は特に違和感を感じないが、周りの奴は奇妙だと思うらしい。
たまに小さい子に指さされることがある。
冒険者で奇抜な格好のやつもいるので、現代日本でやっているほど目立つわけではない。
ビビットピンクとパールのふあふあ着ぐるみコート猫バージョンを着こなす戦士よりマシ。ラメが入って目に痛いキラキラを生み出すアイツは服装センスは最悪だったが、腕は良くて顔も良い。なんともムカつくやつだった。
それはともかく、奇異の目で見られることがあるこのマスクは、外せと言われれば外すようなもので。意地でも取りたくないなんて子供じみた執着心は一切持っていないのだが、何を勘違いされているのか、さまざまな相手に無理に外さなくていいと諭されることがある。
その筆頭がこの息子だった。
「まぁなんにせよ、事情聴取と注意喚起はしたからぁ、あとは顔の確認……」
「オレのオヤジだ。指名手配犯なんてされてないから」
「いや、それはわかってるんだけど、一応」
外すために手を出そうとして、二人の言い合いを見て、引っ込める。どうやら身内だしセーフ。そもそも寝てただけだからと顔確認はしないことになったようだ。
今回は二人とも穏便に話し合いをしていたが、この息子はどうにも俺の顔を他人に見せたくないのかというほど隠そうとする。小さい頃からそうなので、素顔で話したことはないと言っていい。どこでその勘違いが発生したのかはわからないが、息子は検問で殴り合いしてでも見せたくないようで、喧嘩沙汰になることもしばしばだった。
そうなってくるともう俺の言葉は耳に入らない。
落ち着いた後に、別に俺は見せたってよかったんだと言うと無理するなと言われる。この勘違いはなおらないようなのでそのままにしているのが現状だ。
「今日はどっか行くのか」
「お前は彼女の行動をいちいち把握したいウザ系彼氏か。予定はないからテキトーに歩いてくる。お前は大人しく仕事に行くんだな」
それとも、一人で生きてけないほどチビちゃんのままだったか、そう煽ってやれば、悪態をついた後にさっさと仕事に戻っていった。
俺から見ればまだまだヒヨコちゃんなんだが、彼にしてみればもう朝の雄叫びが上げられるつもりらしい。
心配だなぁ。
ヒヨコちゃんはどうにも甘いものが好きすぎて、よく糖分過多な食事をする。砂糖をたくさん溶かしたお茶とかミルク通り越して練乳みたいなホワイトチョコとかよく食べてる。
ついでに野菜が嫌い。食いもんじゃねぇとは彼の言葉だが、そうじゃなかったら必要な栄養分で野菜でしか取れないものがあるはずないだろうと叱った。
別に全部食えとまでは言わない。嫌いなもんは嫌いでいいと、俺は思っている。ただ、小人の爪くらいでもいいから何か野菜を食べておいて欲しい。栄養分が足りなくて死んだとかサプリメントもないこの世界では洒落にならない。
俺自身は光合成と水分摂取とたまに土と根っこを繋げて栄養分を取れれば生きていけるが、アイツはそうじゃないのだ。長生きしてくれ。
「ほら不摂政をこよなく愛するテメェに弁当だ。野菜残すなよ、少なめだから」
暇になったので休み時間に弁当を持っていった。アイツ自身が何か持っていたら、自分で食べるつもりでいたが、目を輝かせて、くれと騒いでいたので問題なかった。
手作りに飢えてんのかお前は。
あまりの騒ぎように呆れて呟けば、だって面倒くさがってなかなか作ってくれないじゃないかと文句を言われた。
確かに俺は自炊が好きじゃない。息子がいなかったらやる気もなかった。食べる必要がないのなら、食べないままでいるほど食事に頓着がない。
ほら見てみろ、仕事で来ていたらしい同僚とチビちゃんにすごい顔で見られているぞ。なにあれって顔に書いてある。チビちゃんはどうにもわかりやすいタイプだ。思っていることが筒抜けになっている。
「こども……」
「チビちゃんの君より、チビちゃんだろう。俺の息子」
「え、息子」
パッとこちらを見た同僚と思われる男はキョトンとした顔でこちらを見ている。似てない云々の前に、こんな変人がアイツの父とは思わなかったのだろう。
「そうそう、あれ俺の息子。もーちょっとおーきくなるまで世話しててもいいんだけど」
ほら、アイツまだちっちゃいからさ、そう言ってみたところ、チビちゃんと職員さんは引いた顔してこちらを見てきた。
「オレはもう成人済みだぞ。あんたの時間感覚どうなってんだよ」
「あんな風に言って巣立ったんだよ。まだピヨちゃんなのに」
「誰がピヨちゃんだ」
お前だと、指差すとペシリとだいぶ強い勢いで頭を叩かれた。ちょっと痛い。
随分と気に入らなかったようだ。それはそれとして、どうしてこうも乱暴者になってしまったのか。
悲しいなぁと口にしてみる。思ってもないくせにと吐いて彼は食べ終わった弁当を片し始め……待った、お前いつ食った。よく噛んで食べろ、喉に詰まったらどうする。
「ごちそーさんでした」
「はや…」
「お嬢様はちゃんと噛んで食べて下さい。こいつの高速食事は今に始まったことじゃない」
「お嬢…あぁ、チビちゃんか…いや、それよりも、今に始まったことじゃないって……」
俺知らなかったんだけど。昔はゆっくり食べてたじゃないか。いつのまにそんなことになったんだ。
「ちゃんと味わってるぞ。いっぱいはやく食べたいって思いながら食べてるとこうなるってだけで」
「今度は量増やしておくから……」
子供の成長がはやすぎて悲しい。世間の親御さん達もこんな気分だったのだろうか。




