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ウッド・ダディ3

 

 昨日は散々な目にあった。

 息子はショッピング好きなので、あちこち連れ回され、物を食べて、袋を持ち、てんやわんやだった。

 ずっとそんな感じだったので、俺はもう疲れた。

 今日は宿に引きこもってやる、という気分だ。ちなみに今の宿は、公園。路上で眠っているのかとかホームレスだとかいろいろ言われそうだ。しかしながら、元々の我が家は、本体の樹木が最初に生えていた森である。つまり屋根がなくても問題ない。

 外で眠るのは慣れている。そもそも、眠る際は人が居ないことを重々確認したのち、木に化けて、正確には人への擬態を解いて、樹木の姿で一夜を過ごす。

 よくどうしてここに木が生えている、と住人に驚かれるが、ほっといてくれ。そのうち出てくから。


 荷物は自らに作ったウロの部分に仕舞い込んで隠している。

 木の身体ならではの隠し方だろう。




「この一団は本当不思議だなぁ。探し物が自ら集まってくるなんて……やぁ、世界樹くん。ご機嫌いかが」


 ぼんやりと眠っているのだか、つっ立っているだけなのか、自分でもわからないまま明日になるまでの時間潰しをしていたら、声をかけられた。

 独り言のようにも聞こえたが、それは確かにこちらに向けて話しかけられているのだとわかった。


 俺を世界樹だのとおかしな名前で呼ぶのはこの青年しかいない。俺はただの図体がデカイだけのトレントだというのに。


 木の姿のままで会話することはできない。仕方なしに人の姿に戻る。マッパはまずいので服も着た状態にした。これはスキルの応用で可能だ。


 身体を戻して、違和感がないか確認。よし今日も完璧に人間の身体だ。


「髪の毛が()()()()になってるよ」


「そのうち戻るから気にしなくていい」


「あ、そう」


 木の枝がゆらりゆらりと蔦に変わって、さらに柔らかく細く、繊維のように髪に変わっていく。髪は繊細なので少々時間がかかるのだ。


「久しぶりだな」


 名前忘れたけど、よくくる奴だったから顔くらいは覚えている。転生者集めしている変わり者だ。


「そうだね、久しぶり」


 挨拶を交わした彼は特に何ということもなく、ニコニコしてベンチに座る。夜中に訪問するなんて、俺でなければ追い返されそうだ。

 彼に倣って隣に座る。


「……何か用か」


「いや、たまたま見かけたから」


 どうにも胡散臭い。彼はいつもそうだから気にする必要はないが、それにしても真っ直ぐ言葉のままを信じるには信用が足りない。


「きみは? 寝てたの?」


「そんなところだ」


 会話の進みはスローペース。お前から話しかけてきておいて黙って横にいるのは何故だ。用がないなら帰ってくれ。


「君は差し詰め亀かな」


 不意に彼が呟いた。意味がわからず聞き返す。


「は?」


 彼は特になんとも思っていない様子で、説明を進めてくれる。


「いや、最近()()()()()が名前認識ができない子でね。代わりの呼び名を考えたのだけど、僕はサーペントにしたんだ。ほら、この蛇。カッコいいだろう?」


 彼は自慢げにピアスを見せびらかす。耳に穴を開ける何ぞ悪趣味な、と()()()そういっただろうが、自身の身体に穴を開けて荷物を入れる俺もどっこいどっこいだと思うから、黙っておく。


「そういや、探し物がこの辺にいっぱいあるっていっていたな」


「そうなんだ。最後は君なんだ。これ付けてよ」


 彼はそう言っていつものように『通信機』を渡してくる。渡されるのはいいが、着けてやる義理はない。


「嫌だ。気色悪い」


「甲羅の如く堅物で、僕困っちゃうなぁ」


 石を突き返す。この通信機はどう見ても石。ちゃんと起動することはコイツが使っていたから知っているが、それにしても見た目が石。宝石ともいえるが、尚のこと身体にはめたくない。

 彼は全く困っていない顔でニコニコと笑った。


「さっさと帰れよ蛇野郎」


「口が悪いなぁ、わかったよ」


 バイバイ、と手を振って退散する彼に唾を吐きたい気分だった。人の眠りを邪魔しやがって。わざわざ会話のために人に擬態し直す必要もあった。面倒くさいことこの上ない。



「なんてね、隙あり!」


 油断してのほほんとしていたら、帰ったと思った青年が、俺の片手に手をかけている。そのまま流れるようにあの石ころを皮膚に嵌め込まれた。


「てめえ!!!」


 即座に叩き潰そうとしたが、避けられた。するりと抜けてそのまま脱兎の如く走り出す様はまさに兎。

 俺は種族柄、行動が機敏ではない。すぐに石を外そうと片腕だけ木に戻すが、ソレは樹皮に繊維に細かく溶けるように絡まり一部液化し、とりもちのようにくっついて取れる様子もない。これでは自力で取るのは難しいだろう。

 やられた……。


 あいつは俺に目もくれず、そのまま一目散に退散した。なんてはた迷惑な奴。昔からそうだ。やることなすこと全く訳がわからない。気持ち悪いったらありゃしない。


 スキルを使って子株で追跡を試みたが、当たり前のようにまかれた。戦闘慣れしている奴のことだ。飛び魚が跳ねるように簡単なことだっただろう。


 イライラしたまま二度寝する。樹木化する気にもなれない。一日くらい人間が公園のベンチで横になっていたって、盗人くらいしか寄ってこないだろう。荷物には元々()()()()()もといスキルの子株を押し込んである。何か来たところで意味はない。そこらへんに放っておいていいだろう。朝起きたら蜘蛛に捕まる蛾が吊るされているだけだから。


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