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ウッド・ダディ2

 

 俺の成り立ちは1分で語れる。

 ゴミ捨て場によく溜まっていたカラスと喧嘩して、フラフラになって歩いてたら階段から落ちて死んだ。

 転生したら木になっていたので昼寝してガチ寝してたまに水飲んでのったり生きていたら、人型になることができると気がついたので、旅に出た。

 そのままぼんやり生きている、以上だ。


 そう、今世の俺、人間ではない。

 木の魔物、トレントだ。人型をとってる分には人間と大差ない。髪が黄緑で身体から花だの枝だのを生やせるだけだ。

 水と日光浴で生きていけるので食べるものがなくてもへっちゃらで、大樹になれるだけあって寿命が長い。

 ペストマスクで顔を隠しているのは、顔面偏差値の高いこの世界で前世のまんまの顔に嫌悪感しかなかったからであって、他に意味はない。傷があるわけでも、呪われているわけでも過度なコンプレックスを感じている訳でもない。


「そんで? アンタは今何してるんだ?」


「お前と喋ってる」


 いや、そうじゃなくて、と息子は言う。

 いつも通りテキトーに歩いて回ってると俺は言う。


 やることもないが、どこかで寝たきりになるのも嫌だ。

 いくらただの樹木(トレント)とはいえ、誰かと会話したり美味しいもの食べたりしたい。


 この息子を拾ったのも単なる気まぐれだ。

 暇つぶしだ。育てて未だに様子見をして長すぎる寿命をすり減らそうとしている。何もしないでぼーっとするのも楽しいが、あまりにも長い時間をそう過ごしていると損した気分になる。怠惰は働いているものこそ真に楽しめるのだと今世で知った。


 まぁ、この息子は単なる人間ではなく、エルフ族なので少しは一緒に居られるだろう。俺の方が寿命長いけど。


「ほら、ドライマンゴーですよ」


 財務部の職員だというお姉さんは乾燥果実をほいほいとカーバンクルの口に押し込んでいる。確かカーバンクルって草食系だったな。喜んで食べているようだ。


 この前商人の方に分けてもらいまして、と彼女は言うが、南国の食べ物なんぞそう易々とくれるものではない筈だ。

 余程取引が上手くいったのだろう。


「ほら、見てみろよ。美女と美少女が仲良くしてる。俺らみたいなむさ苦しさゼロだ。素敵だな」


 美人はどれだけ眺めても飽きやしない。3日で飽きるとか嘘だろ。それはきっと本当の美人を見たことがないだけだ。


「黙れよジジイ」


 なんとまぁ口の悪い息子だ。

 そんな生意気なところも気に入っているが。


「えっと、おにいさん」


「お? なんだいチビちゃん」


 カーバンクルのお嬢ちゃんが話しかけてきた。

 何かなと問いかけたら、これ美味しいよと乾燥果物を分けてくれた。なんと優しい子だろうか。


「いーこだなぁ」


「はぁージジイはいつまで経っても変わんないなぁ」


 こんな女好きって性格さらけ出す癖して嫁もいないなんて、と息子が悪態をつくのでぶん殴っておいた。


「それにしても、財務部の新人……まさかこんなに親しげだったとは……もう少し無愛想なの想像していたのになぁ」


「親しげ……初めて言われました。貴方はどこ所属で?」


「警備部でーす」


「あぁ、それならあのお二人と同じ部署ですか」


「あの二人って……子守番一号と二号か」


 それ、私のこと四号とか言ってましたね、三号誰です? などと息子と職員は会話をしている。

 どうやら同部署の知り合いがいるそうで、息子はなかなか上手くやれているらしいと安心した。


「思いの外、特異能力者って普通なんだなぁ」


 息子が不意に呟いた。

 どうやらこの職員さんは、先程聞いた特異能力者らしい。

 特異能力者はどうにも感覚が他のやつと違っていても分かり合えない奴が多い。

 今までに会ったことのあるものにそういう奴がいた。そいつとは会話が成り立たなくてまともにコミュニケーションをとった記憶がない。付き合いは長いが。


「…あぁ、目のお姉さんって、そういうことか」


 目の特異能力者だから、目のおねえさん。なかなか的を射た呼び方だ。


「……普通、ですかね」


 本人はどうにも思うところがあるようだ。

 まぁ、特殊な体質を生まれ持っているのだから仕方ないと言えばそれまでだが、なんとなく可哀想だなんて感想を抱く。

 まぁ、特殊な体質でなくとも言っていることが理解できないおかしな奴は沢山いる。気にすることでもないと思うが。


「特別綺麗なお姉さんだろ、普通じゃあないな」


「……貴方も色が深くて綺麗ですよ」


「おー独特な言い回し。そりゃどーも」


 色が深くてとはどんな感じか全くわからないが褒め言葉なのは確かだろう。褒められて悪い気はしない。



「ま、息子が元気そーで何よりだわ」


 様子も見れたし、腹も満腹。ここの食堂は美味しいものだ。

 次はどこにいこうか。


「さて、俺はこの辺で」


 告げてさっさと帰ってしまおうと立ち上がると、くいと袖を引っ張られた。


「え、もういっちゃうの…」


 寂しそうな表情の捨てられた子猫の真似はやめてほしい。心に大打撃だ。さらに身内ポイントで攻撃力上がってる。

 ぐっと言葉に詰まる。

 可愛い我が子なのだ。そりゃ寂しい思いはさせたくないが、かと言ってコイツはもう成人しているし一人暮らしもしている。なんなら、そろそろ孫できないかなと思っている年齢の男相手にまさか可愛さで勝負されるとは思わなかった。


「…………しょうがねぇから街に数日は籠っといてやるよ」


 俺はどうにも身内に甘い。

 次の日は買い物で連れ回された。有給使ったらしい。

 どうしてコイツはファザコンに育ってしまったのか。


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