幕間・異端児
「君と僕は異端児仲間ってとこなのかなぁ」
唐突に声がした。
双子が留守なのか、やたらと静かな部屋でぼんやりしていたものだから大層驚いた。
物音がすればすぐにわかるほどの静けさの中、声がするまで気がつかなかった自分にも驚く。
さて、なんと言われたのだったか。
振り向くと、青年が一人。
「…やぁ、こんにちは」
何も言わなかったことにしたのか、青年は挨拶をしてきた。
随分と真っ黄色な青年だ。何をそんなに悲観的になっているのか。
「えぇ、どうも」
挨拶を返しつつも、すでに癖となった色彩の観察を行う。
黄色の中にちらほらばら撒かれた白色。量としては多くない。目立つほどの主張をしている黄色が、よく見ると黒と両立していることに気がついた。
どうやら、この青年は随分特異な本質を持っているらしい。
ネガティブとポジティブを綺麗に両方併せ持っている人は初めて見た。
見ていて飽きない。どこかカーバンクルのチビちゃんを彷彿とさせる色。
共通点といえば黄色と白だが、その組み合わせはさして珍しくもない。
「……話を、してもいいかい?」
自分の中に浸っていたら、彼は困ったようにそう言った。
別に放置していたかったわけではない。頷いて返す。
「あぁ、よかった。…それで、要件なんだけど…」
彼曰く、彼は転生者を探して歩いているそうで、君は転生者ですよね、と確認しに来たらしい。
そうですね、と返すと、彼は心底驚いたように目を丸くした。
「君は驚かないんだね」
「誰もが驚く訳ではないでしょう…………わざわざ確認を取りに来るなんて、つまりは貴方もそうってことでしょうか?」
「大正解。飴ちゃんいる?」
ニッカリ笑ってどこからか取り出したキャンディーを押し付けてくる彼。NOと言えない日本人であった私は押し切られて受け取ってしまった。
「んー、それにしても、四人もいるのに年齢が見事にばらけてるなぁ…」
彼のいうことを信じるのなら、転生者は私含め四人いるらしい。年齢がばらけたと言っているが、彼と私の年齢はそう大差ないように感じる。
嘘をついているようには見えなかったので、彼は人ではない別の種族だろうというのが私の推測だ。
「ところで、貴方はどなたで?」
「あぁ、失礼。僕は……そうだなぁ、蛇さんとか、サーペントさんとか呼んでくれ」
これ、お気に入りのピアスなんだ。カッコいいだろう? 彼はそう言ってにこやかな好青年のように笑っている。
よく笑う人だが、心のうちはそうとはいかないようで、一喜一憂しているのが見てわかる。
もしやすごく心の弱い人なのではないか。
隠されていることをわざわざ暴き出したと言うのも抵抗がある。黙って話を進める。
「蛇さん。それでご用件は?」
サーペントさんだと単純に長いので無難な方で進めることにした。ところでどうしてスネークさんじゃないのだろう。そもそもサーペントとスネークの違いってなんだろう。
「あぁ、そうそう、これ渡しに来たんだ。通信機」
「通信機」
おうむ返しに呟けば、彼はそうそうと頷いて手を出して、と催促される。
手渡しされるのかと思って手を出せば、じゃあ逆手を、と彼は差し出さなかった左手を取って、手首に何か石のようなものを押し付けてくる。
「何してるんですか?」
行動が謎すぎて、本人に聞くほかなかった。
彼は平然と行動を続けながら、通信機装着させてる、なんて教えてくれた。
「私、左利きなんですけど」
「ありゃ」
じゃあ付け直そう、と彼は私の右手を取って、左手首にくっついていた石を取って、装着し直す。
あ、それ普通に取れるんだ。
着けられたので、見様見真似で取り外そうと試みるが、引っ張っても、押しても外れない。
付けた人にしか外せないのかもしれない。
「それで、通信機を初対面の見知らぬ相手に渡して、何が目的ですか?」
「え…、転生者同士連絡取り合えたらなって…」
嘘だ。何か目的があるのだと色で見てわかる。
まぁ、隠したいのならわざわざ言わせるのもどうかと思い、白々しいと思いながらも会話を続ける。
「…まぁ、貰えるのなら貰っておきます」
手首についているというのは、利き手じゃなくとも若干邪魔だと思うが、外せないのならば仕方ない。受け取っておく。
「是非そうしてくれ……それにしても、この一団ほんとすごいなぁ、転生者関わりっぱなしだよ」
独り言として放たれた言葉に、目を見張る。
どうやらこの一団に他にも転生者仲間がいるらしい。
まぁ、同郷なだけで、他人も同然なわけだが。
「…気づいてなかったのかい?」
「誰かいましたかね? いかんせん新人なもので無知なんです。知り合いも少ないですし」
聞いているんだかいないんだかよくわからない顔をした彼ははぁーんとテキトーに相槌を打って、笑った。
本当によく笑う人だ。上部だけの笑顔だけども。
「ま、知らずとも問題ないさ」
問題云々ではなく、個人的に気になるのだが、教えてはくれなかった。
意地悪とか愉快犯とかそういう類の物だと思う。
決して天然で言い損ねたのではないと、彼の色はそう言っている。色が喋るわけでなし、他人が聞いたら妙ちくりんな表現だと思われるだろう。しかし、色が言ったという表現は私にとって、とてもわかりやすい表現だ。
愉快犯、つまりは愉悦快楽を示す赤色が増えたということでもあるので、赤みが増したと表現してもいい。
ともかく彼の色は嘘つきの色が多量に含まれている。そういうことを見取れた。
「それで、他のご用件は?」
「君、せっかちだって、言われたことないかい?」
「生憎と、ありませんね」
姉に君は端的すぎてつまらない時がある、なんて表現されたことはあるが。
「用ねぇ……特にないんだなぁ、これが」
「本当、何しに来たんですか貴方」
「通信機渡しに」
「……それだけのためにっていうのもおかしな話ですね」
「何か、不審がられてる?」
どうしてこの状況で不審者だと思われない自信があったのか不思議で仕方ない。普通、あんたは不審者だろう。
彼はしばらく、何を喋ろうかと口籠もっていたけれど、やがてそっと口を開いて、にこやかに笑った。
「思いの外、頭がいいんだね、君。でも君が気にかけていることは、一切合切、君には関係のないことなんだ。君が感じた違和感は、忘れていい」
「まるで私が馬鹿だと思われてたように聞こえますね」
「あ、ごめん。悪気はないんだ」
そんなもの、色を見れば一目瞭然だ。
それがわかっていて嫌味を言っているというのに、この相手ときたら、素直に心の底から謝罪を入れてくる。
心底腹がたった。先程嘘をつかれた時よりもずっと。
「まぁ、そういうことだから」
「どういうことなのか、理解できないのですが」
「気にしない気にしない。なんくるないさー」
なんだったか、その言葉。なんでもないさって意味だったか、覚えていないのでなんとも言えない。もしかしたら既知の言葉に似ているだけの、異界語なのだろうか。
「それ何語ですか」
「え、知らない? 沖縄弁」
通りで聞き覚えのある言葉だったわけだ。ここは異世界だけら咄嗟に異界語か何かだと思ってしまった。
「地元ですか?」
「いや、僕は関東出身」
なら尚更、なぜその言葉を言ったのか。彼曰く、ただのノリだそうで。ノリで喋っているなんて、まるで男子高校生。
いや、男子じゃなくてもノリで喋る生き物だろうか、高校生って。
偏見の混ざった感想を抱いていたら、彼は、こちらにも問うてきた。曰く、どこ出身なのかと。
「同じく関東ですね。…ただの美術系学校の生徒でした」
「ならお絵かき得意なんだ」
「デッサンは嗜む程度です。得意分野はまた別にあります」
「絵が下手な僕からしたらその嗜む程度ですらすごいんだよ」
「絵が下手なんですか、貴方」
「アヒルも書けないのさ」
まるで同じ学校の生徒みたいに、平凡で無邪気な会話を続ける。それは酷く楽しかった。戻れないことを印象付けるには最適でもあった。
しばらく何気ない会話を、ありふれた日常を楽しんでいたが、そろそろ眠る時間だろう、と彼は帰っていった。
来た時と同じように、窓から出入りして。
気配くらい消せるのだろうから、普通にドアから入ってくればよかったのに。




