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トラップ・トリップ2

 

「そんで? 持って帰ってきちまった、と?」



「だって、こんなにちっこいのがプルプルしてて……」


 お前から見たら大抵のものは小さいだろう。

 確かにその子供は小さいけれども。


「お嬢。理想のお嬢様……」


「この子だってバグっちゃったし」


 テメェは何をどう解釈したらそうなったんだ。

 普段は真面目で堅物チックな兄貴分だろう。


 これ以上この一団に狂った奴を増産しないでほしい。



「それにしても……」


 明らかに頭のおかしい男と、天然通り越して特別天然記念物みたいな脳味噌をしている巨人についてきちまった子供。


 余程の阿呆か、考えなしか、度胸があるのか、もしくは、自分にすら興味がないのか。


 ともかくこれから一体どう対処すべきか、一団の長は頭を悩ませた。








「お嬢様、何か食べたいですか? お菓子ですか? それとも昼食にします?」


 やたらめったら世話を焼いてくる不審人物の彼は、どうにも何かしたくて仕方ないらしい。


 何かを言おうにも、声が出せない。

 して欲しいことも特にないし、ストーリー通り進んでいないのを見るに、知っているゲームに限りなく近い別の世界の夢なのだ。



「んー喋らんなぁ。具合悪いかい?」



 一団に保護され早くも三日ほど。

 快適に過ごしているのが嘘みたいに胃がキリキリする。

 なんせずっと世話焼きに構われているのだ。猫は少しほっといて欲しいと知らないのか……、猫じゃないけども。


 長い長い夢はまだ覚める気配がない。


 もう一人の世話役の巨人は、見た目とは裏腹におっとりした喋り方で、小動物かペットの扱いで可愛がってくれる。


 一応人型をしているのだけど、彼はどうにも小さいものは手を焼くイメージが定着しすぎているようだった。


 首を横に振って否定すると、ならいいけど、なんて言いながらひょいっと抱き上げてくれる。




 カーバンクル、宝石を頭にのっけた小動物。


 それをイメージしたのであろう見目をする主人公は、このゲームの中で唯一台詞のないキャラだった。


 他のゲームでもよくあるだろう。主人公の意見がYes No、はい、いいえ二択であること。


 無口系のキャラは好きだけど、成りたいなんて言ってない。





「やっぱり喉が潰れちゃってるのかなぁ? 痛そうには見えないけど」



「外傷はないですけど、術や『スキル』の影響ではこちらも対処できません。元からこうだった、という可能性もありますし」



 変な勘違いはなく、今のところ希少種の子供が保護されている程度のことだ。不安は特にない。


 強いて言うなら後々増えてくる主要キャラクターたちが怖い。


 顔面凶器と性格破綻のオンパレードが来そう。


 この一団、団員たちの大半が裏があると言うか、少々黒っぽい部分がある。しかも結構、粗野、たまに怒鳴り声が聞こえる。プライドも高い。

 小動物チックな主人公にすら乱暴しそうな奴の心当たりもある。



 簡単に気が抜けない日々だけれど、その分強いからここにいればとりあえずチンピラに襲われる心配もない。

 優しい方もいるし、こちらの意見総無視ではあるが庇護下に(強制的に)入れられた(てくれた)ものもいる。



 身よりも味方もいない孤児ではなかっただけ良しとしておこう。



「好きなものがわからないので、メニュー表持ってきました。どれがいいですか?」



「どっから持ってきたのさ……あぁ、食堂か」


 おっとりした彼はうなずいた。


「この一団には、古今東西あっちこっちの方がいるからなぁ。メニュー表には多くの品目があるのさ」


 説明するようにそう言って、冊子にしたら少し分厚い本を渡される。


「君の見たことがある料理があるかもね」


 どうやら食べたいものを選べということらしい。


 そこまで腹は減っていないのだけど、頼まないのも悪い気がして、ページをめくっていく。


 洋風でお洒落なものから、インドかどこかのような本格カレー、はたまた何処かの民族料理っぽいもの。世界各国を詰め込んでみたかのようなラインナップ。


 先ほどから『一団』と称しているこのおかしな集団は、簡単に言うと、傭兵部隊、能力で稼ぐような人たちばかりいる。

 実際は国からの依頼から個人依頼までやっていることは様々だ。戦闘専門から外交担当まで、一つの国のような何処かの領地の自警団のような明確にこれといえない一団だ。

 そんな一団の団員たちは、プライドが高く面倒くさい人が多いが、実力はある。

 まとめきっている団長だって、理不尽で団員を弄んで爆笑していたり修羅場に送り込んだり平気でやる。


 その分、金は稼いでいる、求めるものも個々ぞれぞれであり、高級品を求める輩もいる。だから、食材はいっぱいあるし、種類もいっぱい作れる。要はそういうことだ。


 傭兵に強盗を働く奴も阿呆くらいで、賢い奴はもっと別のキャラバンなんかを狙うだろう。




 と、言うわけで、今、この場には食事に関して様々なメニューがある。




 何を食べようか、無難なものを考える。


 メニューをパラパラめくっていると妙にサラダが目についた。

 特別野菜が好きだったわけでもないのに、写真をみていると無性に食べたくなる。


 これがいいなぁ、と葉っぱとリンゴが山盛りで天辺に紅玉のトマトが乗ったサラダの写真を指差す。



 本当にこれでいいのかと再三聞かれて、コクコク首を縦に振ってイエスの意思を伝える。




 どうして渋っていたのかはわからないが、じゃあ作ってもらってきますね、なんて言って忠犬志望の彼は厨房に向かった。

 おっとりの彼は相変わらず横で、他に食べたいものはないのか問うている。

 特にないので首を横に振っておいた。



 しばらく雑談を聞き、それに反応を返しながら、待っていると、扉の開く音がした。



 振り向いてみれば、見知らぬ、いや、記憶上だけなら既視感のある男が一人。



「あー、こっちにいたのか」



 確か、この一団のまとめ役。団長なんて立場だったか。


 どうやらどなたかに用があったらしい。



「バグっちゃったアイツは?」



「いまご飯もらいに行ったよー」


 バグっちゃったって、言い方はどうかと思うが、的を得ているとは思う呼び方だ。彼は確かにおかしな男になった。



「なら、待ってりゃくるか」


 軽く会話をしながら平然と大男の前に腰掛ける。


「何か用だったのかい?」


「いや、そろそろ正常になってないかと」


「ありゃもう駄目だね。戻る気もないみたいだから。まぁ、楽しそうだし支障はないからいいんじゃない?」



 同僚からもう駄目だと称されるのはどういった心地なのだろうか。彼に直接言っているわけではないから知らないのだろうけど。



「おっと、君とは初対面だったな。所詮、この一団の長を勤めている者だ」


 優しげに笑う姿は紳士的だが、騙されてはいけない。

 この一団の中でも曲者の部類に入る彼は、無茶振りを振りかざして周囲を振り回して弄ぶ男だ。


 軽く一礼すれば、頭を優しく撫でてくれる。


「まだまだちっちゃいな。いっぱい食べて大きくなれ」


 頷いて返答とする。カーバンクルは小さな生き物だからどこまで大きくなれるかは知ったこっちゃないけれども。


 それを見て満足そうに頷いた後、彼はまたぐしゃりと髪を乱してきた。


 背が小さい分、可愛がってくれる方が多い気がする。


 愛されたいと思うのは当然の欲だ。夢の中でくらい良い気分でいたいから、これは好都合なのだろう。



「戻りましたよ……うわ増えてる」


「嫌そうな顔しないでくれよ」


 ため息をつきながら、メニュー表の写真よりだいぶ豪華になっているサラダを目の前に置いてくれた。

 サラダメインではあるが、パンにスープまでついている。


 食べきれる自信はなかった。こんな量を作ってくるなんて思わないだろう、普通。


「お嬢様。好きなの食べていいですからね。残ったら俺らで消費するので」



 自分たちの分も含まれているみたいだ、それなら遠慮なくいける。


 いただきます。


 ペチンと両手を合わせて一礼してから食べる。

 箸じゃなくてフォークなのは世界観の問題なのだろうか。


 フォークの正しい持ち方ってなんだったか、握り持ちじゃないのは確かなんだろうが、いかんせん小さくなった身体ではどうも動かし辛くなるのか、そうなってしまう。


 上手上手なんて褒めて欲しいくらいだ。


 食べる前から苦戦しながらも、葉っぱをむしゃむしゃする。


 草香りがする、葉っぱを食べてるなって感じ。それなのにどうしてだか、とても美味しく感じる。不思議だ。


 もそもそと葉っぱとりんごのさっぱりした味を楽しむ。

 トマトは大事に取っておいて最後に食べよう。


 黙々とサラダに一直線だったことを気にかけてなのか、たまに横からスープを掬ったスプーンを口に押し込まれる。


 されるがまま飲み込んでいるが、なんの前触れもないのと、頻度が段々増していくのを何とかしてもらいたい。


 少ししたらもう満腹になった。自分でも不思議であると思うが、腹一杯になってしまったものは仕方ない。


 残しておいたトマトをもぐもぐ。


 食べきった後、ほら、なんてまたスプーンをよこしてくる料理上手な彼に葉っぱを刺したフォークを突き出し、口をギュッと閉じる。


 さぁ、口を開けるんだ。もう腹一杯だから。


 無言で口に目掛けてフォークを押し込む。

 もごもごいいながらも微妙な顔をしている彼。


「ありゃ……もうお腹いっぱいかい。俺にもやってよ」


 反対隣にいたもう一人の口にも残った葉っぱを押し込む。

 そういえば、せっかく貰ったのに、パンなんて口もつけなかった。

 ほら、パンだよ、と団長の口に押し込む。


 彼は驚いた顔をした後、咀嚼して飲み込んだ。


「……ありがとうな」


「お嬢様、胃袋も小さいんですね……」



「本当に足りてるかい?遠慮しなくていいんだよ」


 遠慮なんかしていないので頷いて返す。



 ご馳走さまでした。パチンと手を合わせておいた。



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