カラフル・アナグラム9
盛り上がりも何もない日常が快速電車みたいな速さで通り過ぎていく。
特急ほどではないけれど各駅停車でもない、あやふやなラインだ。
相変わらず双子は絡んでくるし、諜報部の不思議な青年も会うたびに長話をしてくる。きっと全力で振り切れば解けるであろう面倒な縁の糸。
振り切らないのは私の意思だ。
程よくスリルのある色塗れな人生になってきたことが嬉しくて、最近では表情筋が仕事してきたねと言われる。それは今まではそうではなかったということだろうか?
「……ねぇ」
少し幼稚でか細い声が下の方から聞こえてきた。
「あぁ、すみません。少し、考え事を」
チビちゃんがこちらを眺めていたので、にっこり笑って誤魔化す。このチビちゃんもなかなかに美しい色をしている。
白と黄色が程よく重なっている。あの蜂蜜売り野郎もこれくらいの色彩なら綺麗だったろうに。
この子はどうやらまだ上手く喋れなくて私の名は言いづらいらしく、名を呼ばれたことがない。カーバンクルは見た目の成長が早いのかもしれない。この子は幾つくらいの年頃なのだろうか。
「なんの話でしたか」
「えと…大樹? 見に行く……警備部と行くの」
少し楽しそうなその様子は遊園地を楽しみにする幼稚園児のようでとても可愛らしい。
「おや、それは良かったですね……警備部?」
あまり聞かない部署、私の知り合いのいない部署なはずだ。
財務部所属、諜報部には不思議な青年の知り合いがいて、調整部はチビちゃんと仲がいい。
警備部はどんな人がいるのだろうか。
「…強いセコ……いや、見張り番………えっと…仲良し」
所々謎の言葉を呟いたのち、チビちゃんは仲良しなのだと主張するだけに留まった。何か言いたげな顔をしているから、おそらく仲がいいだけではなく、なにかあるのだろう。
「お嬢様、お知り合いで?」
急に気配もなく真後ろから声がした。
驚いて変なステップを踏んだ後、数歩下がる。
後ろを振り向くと、あははとぼんやりした笑い声がした。
「変な反応だねぇ」
後ろにいたのは、真面目そうな青年と大柄の男。大柄とだけいうと威圧感たっぷりだけれども、どうにもおっとりした雰囲気で、威圧感はあまりない。それはともかく……。
「おじょうさま?」
「チビちゃんのことだよぉ」
「……あぁ」
確かに可愛らしい見た目だからわからなくもないあだ名だった。納得されたことに少し不満げなチビちゃん。元々黄色気味だったのが少し濃くなっている。
それはともかく、彼らは何色だろうか。じっと見つめれば彼らは目を丸くした。何かあったか? 顔にニンジンでもついていた? そんな風に聞いてくる。んなわけないだろうに。
「……ともだち」
「財務部の新人、ドルチェといいます」
とりあえず名乗っておく。彼女は私のことを友人として認識していたらしい。歳の離れた友人関係も存外悪くない。
「あぁ、視覚の」
「えぇ、まぁ」
特異体質だという事実は出回っている様で、彼らは納得した様に頷いていたが、その言葉にチビちゃんは首を傾げている。どうやら分からなかった模様。
不思議そうな顔を見て、丁寧な方が声をかけた。
「目が特殊なんですよ。この人」
「目?」
それを聞き、こちらに目を向けてくるチビちゃん。
一見してみるとオッドアイでも、変な色でもない普通の目の私に対して特殊なという形容詞を疑問に思ったようだった。
「そういう家系なだけです。人より見えるものが多いだけですから、お気になさらず」
詳しく話さない私を見て、それ以上踏み込まない様にと配慮してくれたのか、チビちゃんは頷くだけで特に何も言ってこなかった。
「大樹観光でしたか、楽しんで来て下さい」
にこりと笑って送り出す。
「今日非番なら君もくる?」
コミュ力が高い。
初対面、会って数秒の相手をどうして誘っているのか。
こちとら知り合いとすら、滅多に休日一緒なんてことは少ない低コミュ力だ。ハードルが高い。それに仕事がある。
「お誘いは有り難いのですけど、今日は商店街の方とイベントの諸々の経費の相談がありまして……」
「あー、ひよこ祭りかぁ」
「合っているような、違うような……、当日警備部総出で駆り出されるやつかぁ…」
前年の経験からか、すでに嫌そうな顔をする二人。
うちの部も忙しくなることは双子から告知済みだが、それよりも当日に一番働くのは彼らの部署だった。
下準備等は財務部と調整部で行う。通常運転なのは諜報部である。とは言っても通常であれば一番働いているのは諜報部なので、みんな揃って忙しいことに変わりはない。
ひよこ祭りと称されたが、私的には、チキン祭りだと思う。
なんせ、その年に育った鳥類の飼育動物を住民一斉に捌いて、豪勢なパーティーを開いたことを起源とする祭りだ。
祭りの最中に、その年に生まれたヒヨコを一羽買って、どれが一番美味しく育つか賭けをすることからひよこ祭りと言われることもある。
正直言って、どう足掻いても、ひよこは食べられる食肉用なのだ。卵用の子は別。
そう考えるとチキン祭りが妥当だろう。
「…まぁ、そういうわけでして。私もこれから双子さん方を呼んで参ろうかと」
「お互い頑張ろうねぇ」
「えぇ」
軽く話した後、三人と別れて双子を呼びに行く。
今日の午前業務は別行動だったため、居場所は知らないが、予想なら食堂か財務部の部屋のどこかにいるはずだ。
今日も元気に行こう。




